地方自治情報誌「月刊J−LIS」2月号に、プロップ・ステーションが運営する「しごとサポートICT」が紹介されました。

2018年2月8日

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特集
事例紹介

バリアフリー社会の実現

神戸市/ICT を活用した障がい者向け就労支援機関を設立
障がいのある方の
多様な働き方の創出に向けて
〜しごとサポートICTの開設〜

神戸市保健福祉局障害福祉部障害者支援課

1 はじめに
神戸市では、地方創生を実現するために、「まち・ひと・しごと創生法」に基づき国が策定した「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」や「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を踏まえた「神戸創生戦略」と一体的に作成した「神戸2020ビジョン」において、「若者に選ばれるまち+誰もが活躍するまち」というテーマを設定しています。若者が集まり、交わり、若者たちの希望が実現できるための施策を実施することによって、まちを活性化し、すべての市民に施策の効果が波及していくことを目指すとともに、安心なくらしづくりや地域と地域の連携づくり、働き方改革の推進などを通じて高齢者や障がい者などだれもが安心して暮らし、活躍できるまちを目指しています。

 特に、障がい者については一般的な雇用の制度の中では働くことが難しく、個々人の多様な能力を十分に発揮できていない方がいます。障がい者の、社会に貢献したい、働きたいという意欲や潜在的な能力を引き出せる多様な働き方を創造していくことも目標としています。

 また、この間に障害者基本法の改正、障害者自立支援法から障害者総合支援法への改正、障害者差別解消法の成立、障害者雇用促進法の改正など様々な法整備が図られ、あらゆる障がい者の尊厳と権利を保障するための障害者権利条約が批准されました。

 神戸市においても、このような状況を踏まえ、平成32年度を目標年次とする「神戸市障がい者保健福祉計画2020」を策定し、障がいのある人が自らの意思決定に基づき、一人一人に応じた支援を受け、個人として尊重され、地域の中で安心してともに暮らし、活躍できる「こうべ」の実現に向けて取り組んでいます。

2 これまでの就労支援の取組み
 障がい者が企業などで働く一般就労については、兵庫労働局やハローワークなどの国の機関が所管業務として様々な施策を実施していますが、神戸市においても市内4ヵ所に「しごとサポート(障害者就労推進センター)」を設置し、地域の福祉・医療機関やハローワーク、特別支援学校、経営者団体などとネットワークを構築して連携を図りながら、就労相談や職場開拓、そして就職後も働き続けるための職場定着支援など、生活面にも配慮した支援を行っています(図−1)。

 このほか、市役所内で短期間の実習を受け入れ、就労体験の機会を提供する「障害者トライアル実習」や、知的障がい者を6ヵ月間〜10ヵ月間訓練的に雇用する「知的障害者訓練雇用事業」を実施しているほか、企業で職場実習を受け入れていただいた際に必要な設備の改修費や訓練費に対して補助を実施したり(事業所等就労支援活動)、特別支援学校の生徒や保護者などを対象としたセミナーや企業見学会の開催などを行っています。

 また、企業に対しては、障がい者の雇用事例などを紹介するセミナーや訓練・就労現場の見学会、ハローワーク等との共催により障害者合同就職面接会、特例子会社を新たに設置する事業主に対する施設・設備整備の補助などを実施しているほか、しごとサポートに配置している「しごと開拓員」が
中小企業等のニーズに合わせた様々な支援を行っています。

3 多様な働き方の創出に向けた取組み
 民間企業における雇用障がい者数や実雇用率は過去最高を更新しており、平成29年6月1日現在で、兵庫県下で雇用されている障がい者の数は14,165人(全国495,795人)、実雇用率は2.03%(全国1.97%)となり、平成25年4月に民間企業における法定雇用率が2.0%となって以降、初めて法定雇用率を達成することができました。

 また、平成28年度の兵庫県下のハローワークを通じた障がい者の就職者数は3,577人(全93,229人)と全国と同様、過去最高となっています。このように、民間企業における障がい者雇用の取組みは着実に進んでいる一方、以下のような課題があると考えています。

図−1 関係機関の連携図

@ 法定雇用率については、身体障がい者・知的障がい者を算定基礎の対象としているが、平成30年4月より、新たに精神障がい者(手帳所持者)を算定基礎に加えることとなり、法定雇用率が2.2%に引き上げられ、さらに3年以内には2.3%に引き上げられること。

A 企業から障がい者への業務発注や週20時間未満の雇用については、雇用障がい者数にカウントされないため、企業側のインセンティブが働きにくいことから、働く力があるにもかかわらず、個々の障がい特性によっては就労が促進されにくい状況にあること。

B 在宅勤務については、勤務時間と日常生活時間帯が混在せざるを得ない働き方であるため、事業主からは労務管理がしにくいとの声もあり、企業への浸透は十分とはいえないこと。

C 障がい者の就労先は、清掃業務や軽作業などから、パソコン入力業務など事務補助業務にまで広がりが見られるなど職域は拡大しているが、さらなる障がい者雇用の促進に向け、従来の雇用に加えて新たな分野での雇用の創造や、障がい状況や特性に応じて、だれもが「しごと」を確保できるよう働き方の選択肢の拡大を図っていく必要があること。

 このようなことから、神戸市では平成29年度より、「神戸2020ビジョン」に掲げる障がい者が働く意欲を引き出すことができる多様な働き方の創造を目指し、以下の取組みを開始しました(図−2)。

@ しごとサポートICT(ICT障害者就労推進センター)の開設など、ICT(情報通信技術)を活用した就労支援

A 東京大学先端科学技術研究センターと連携した週20時間未満の短時間雇用の創出

B 職域の拡大につながるとともに、福祉サービスの「受け手」から「担い手」に変わることで、介護人材の確保につながる効果が期待される介護事業所での就労促進

図−2 神戸市の就労支援策について

4  ICTを活用した障がい者の就労支援

 データ入力や情報処理、ホームページの作成など主にパソコンを利用した業務であるICTを活用した障がい者の就労は、車椅子利用者等の通勤困難の解消や、精神障がいや発達障がいの方等が周囲に影響されずに自分のペースで仕事を進めることができるなど、障がい特性に応じた時間や場所にとらわれない柔軟な働き方が可能となり、障がい者の就労機会の拡大をもたらすものと考えられ
ています。

 神戸市では、ICTを活用した障がい者の在宅就労支援に向け、障がい者のIT(情報技術)技術の向上が有効と考え、就労可能なレベルのIT関連技術の習得を目指している障がい者を対象に、平成14年度より「障害者就労支援IT技術習得セミナー」を年2回(12回の講習を2シリーズ)開催してきました。そして、平成29年度からの取組みとして「中学・高校世代向けチャレンジド ICTスキルアップ講習会」を開催しています。これは、中学・高校世代の障がい者を対象としたパソコン講習会で、市内の特別支援学校等と連携し、ICTを活用した就労に向けた早期の能力開発を支援することを目的として実施しています。

 平成29年8月に開催した夏期講習会では、6日間の日程でプレゼンテーションソフトの活用方法と電子メールの基本マナーや書き方を学んでいただきま
した。

 そして、平成29年12月から平成30年3月までの間、週1回・計14日間の日程で定期講習会を開催しており、特別支援学校や特別支援学級の生徒がプレゼンテーションソフト(PowerPoint)やイラスト作成ソフト(Illustrator)を活用した課題に取り組んでいるところです。

 このほか、企業からの発注拡大に向けた働きかけとして、ICTを活用した企業の障がい者就労や在宅就労に対する理解促進のためのセミナーについても今後開催することとしています。

 また、平成29年度より、厚生労働省がICTを活用した在宅障がい者の就業支援体制を構築するモデル事業に対する補助制度を新たに実施しており、兵庫県が当該補助制度を活用し、企業と在宅障がい者をつなぐICTを活用したネットワークシステムの構築に向けた取組みを開始しています。

 ICTを活用して就労を希望する障がい者への支援や、障がい者への発注や雇用を検討する企業への支援などを行う「しごとサポートICT(ICT障害者就労推進センター)」を設置し、国・兵庫県の取組み
と連携を図ることで、国・県・市が一体となってICTを活用した障がい者の就労がより一層促進され
るよう取り組んでいきたいと考えています。

夏期講習会@ 市長挨拶

夏期講習会A 講習の様子

5 (ICT障害者就労推進センター)の概要

 しごとサポートICT は、ICT を活用した就労支援に特化したしごとサポート(障害者就労推進センター)で、ICTを活用した就労に向けての相談・支援から、就労後の職場定着支援に至る一連の流れを
トータルサポートする公的な機関としては全国初の総合相談支援機関になります(図−3)。

 平成29年10月、神戸市東灘区に開設し、運営については、これまでより神戸を拠点として、ICTを駆
使して障がい者の自立と社会参加、とりわけ就労の促進を目標に活動を続けている社会福祉法人プロップ・ステーションに委託を行い、就労支援関係機関と連携しながら、就労や就労継続に関する指導・助言、企業からの業務発注や雇用の場の拡大のための企業開拓など、障害者・事業主に対する総合的な支援を行っています。

 しごとサポートICTには、センター長を始め4名のスタッフが配置されており、開設後間もない施設ではありますが、しごとサポートICTの存在が認識されるにつれて電話・Eメールなどでの相談が寄せられるようになり、相談者のお話を丁寧にうかがいながら、就職活動に関する助言やスキルアップが必要な方に対しては障害福祉サービスの利用を勧めるなど、その方の状況に応じた支援に取り組んでいます。また、他のしごとサポートに寄せられた障がい者や事業主からの在宅就労に関する相談について、必要に応じてしごとサポートICTにつないだり、協力を求めるなど、しごとサポート間での連携も進んでいます。

 今後は、さらに広く「しごとサポートICT」の周知を図り、より多くの障がい者への相談支援を行えるよう、また企業が積極的に障がい者への業務発注や在宅勤務等で雇用を検討していただけるよう働き
かけを行っていきたいと思います。

 そして、障がい状況に関わりなくより多くの障がい者が、社会とつながる「しごと」の機会を創出する取組みを推進し、だれもが「しごと」を確保できる仕組みづくりにつなげていきたいと考えています。

図−3 しごとサポートICT概要

5  しごとサポートICTからのメッセージ


社会福祉法人プロップ・ステーション理事長 竹中 ナミ 氏(ナミねぇ)

 この度、神戸市より「しごとサポートICT事業」の設置・運営を委託させていただくことになりました「社会福祉法人プロップ・ステーション(以下、プロップ)」です。

 プロップは、ICTを活用してチャレンジド(challenged)※1の自立と社会参画、特に「チャレンジドを納税者にできる日本」というスローガンの下、就労の促進を目標に、(草の根の活動から数えて)26年にわたり活動してまいりました。プロップでは、全国各地の在宅チャレンジドが、家族の方などの介護を受けながらも、ICTを活用し、「仕事人」を目指してスキルや実力を身につけ、在宅ワークに励んでいます。プロップの役割は、ICT技術習得セミナー等を開催することと並行して、企業や行政から彼らの仕事を受注し、在宅就労が行えるようコーディネートすることです。

 一億総活躍社会の実現に向けた「働き方改革」が国及び自治体の施策として推進されている今こそ、これまで働く機会の少なかった在宅チャレンジドの働く意欲を引き出し、かつ多様な働き方の機会創出に向けて、チャレンジドの特性や能力を活かした就労支援体制を構築することを目的に、ICTを活用したチャレンジドの就労支援に特化した「しごとサポートICT」を設置しました。「しごとサポートICT」は、神戸市内在住のチャレンジドに対し、ICTを活用した就労に関する相談及び指導・助言を行い、必要に応じて関係する基礎訓練や就労実習などについて、その支援や調整等を行います。また、チャレンジドへの発注及び雇用を検討する企業等に対する支援及び連絡・調整等を行ない、在宅就労への支援についても積極的に取り組みながら運営を行なってまいります。

 神戸市及び既存のしごとサポート(障害者就労推進センター)、関係機関の皆様と密な連携を図りながら、一人でも多くのチャレンジドが誇りを持って働き、社会を支える一員として活躍できる社会を推進してまいります。

 プロップが長年実践してきたことを、神戸市とともに今後ますます発展させるべく、長年培った経験を活かし、全国初の取組みである本事業が、全国モデルとして展開されるよう、切に願うとともに、スタッフ一同、頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします。

しごとサポートICT スタッフ

〈本記事に関する問い合わせ先〉
神戸市保健福祉局障害福祉部障害者支援課
TEL:078-322-522

※1: チャレンジド(challenged):「the challenged(挑戦という使命や課題、挑戦するチャンスや資格を与えられた人)」を語源とする、障がいを持つ人を表す新しい米語

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