産経新聞 2010年7月21日より転載

【話の肖像画】

おかんの奮闘記(中)
      弱者を弱者でなくす

NHK経営委員・竹中ナミ

 −−プロップ・ステーションを立ち上げた当初は、批判もあったのでは
 竹中 すごかったですよ。それまで、福祉社会の人たちの運動は、福祉予算をどれだけとれるかということでした。予算には限りがあるから、足を引っ張り合う。視覚障害の人と聴覚障害の人が自分の方が大変なんだと叫んだり、事故で車いす生活になった人と生まれつき車いすに乗る人がけんかをしたり…。そんなふうに人間が卑屈になってしまうのは、常に弱者として受け身でいるからだということを強く感じました。

 −−海外の福祉政策は日本とは違いますか
 竹中 スウェーデンは、障害を持つ人も、その国に生まれたからにはタックスペイヤー(納税者)になる権利があり、国家はそれをきちんと保障する義務があるという考え方。アメリカでは、NASA(米航空宇宙局)やペンタゴン(米国防総省)で開発された最高の科学技術を使って、重度の障害を持つ人が政府官僚になったり、大手企業の優秀な職員になったりしている。ワシントンには、電動車いすの課長もいれば、全盲の局長もいる。

 −−なぜ、ペンタゴンなのでしょうか
 竹中 ペンタゴンの中でダイナー・コーエンさんという心臓の難病を抱える女性が働いています。その人がね、背筋を伸ばして言ったんです。「すべての国民が誇りを持って生きられるようにするのが、国防の一歩でしょ」って。それを聞いた瞬間、全身に電気が走りました。私がやろうとしていたことは、人間の“誇り”の話やったんやと。弱者に親切にしたりサポートしたりすることを福祉と呼ぶのではなく、弱者を弱者でなくすプロセスを福祉と呼びましょうというのが私たちの提案なんです。

(三宅陽子)

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