「小児筋電義手」を使い、未来に向かって成長する子どもたちの笑顔!(毎日新聞兵庫版 連載より)

2015年6月5日

ナミねぇのブログやfacebookでもご紹介させていただいた「筋電義手」。
筋電義手を使って、笑顔で未来に向かって前進する子どもたちがいます。

自身も、チャレンジドのご子息のいるお父さん記者である
毎日新聞:櫻井由紀治さんの、入魂の連載を
関係者の皆さんに心からの敬意を込めて転載させていただきます。

<by ナミねぇ>

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夢をつかむ:筋電義手の子どもたち/1 笑顔でガッツポーズ
成長の階段を上る5歳女児

毎日新聞 2015年06月03日 兵庫版より転載

 「よいしょっ」。奈良県生駒市の竹田歩叶(ほのか)ちゃん(5)は、両手に握ったフライ返しでホットケーキを持ち上げ、きれいにひっくり返した。5月11日、神戸市西区の兵庫県立リハビリテーション中央病院作業療法室。「上手にできたね」。手をたたいてほめてくれる作業療法士の柴田八衣子さん(45)に、歩叶ちゃんはうれしそうな笑顔を見せ、左手に着けた「筋電義手」を高々と挙げてガッツポーズをした。

 歩叶ちゃんは生まれつき左手首から先がない。2002年に国内で初めて小児筋電義手の訓練を始めた同病院で3月から月2回、装着訓練を受けている。ホットケーキ作りもプログラムの一つだ。

フライ返しでホットケーキをひっくり返す竹田歩叶ちゃん。後ろは柴田八衣子さん。歩叶ちゃんの左手には筋電義手を着けている=神戸市西区の兵庫県立リハビリテーション中央病院で

 筋電義手は、筋肉の微弱な電気を感知して、意思通りに手先を動かせるロボットハンドで価格は1台150万円。「使いこなせる」という医師の意見書があれば、補助金が支給され、3万7200円の自己負担で購入できるが、訓練用には公費支給がない。

 制度の不備を補うため昨夏、同病院は「小児筋電義手バンク」を設立。全国から募った寄付金と県の補助金を原資にして筋電義手を購入、子どもに無償で貸し出す。歩叶ちゃんはその貸与第1号だ。

 歩叶ちゃんの習熟度は目覚ましい。最初の頃は思い通りに手先を動かせなかったが、遊びや家事のお手伝いを取り入れた訓練でコツをつかむと、約2カ月でビーズの糸通しもできるようになった。

 「はい、これはお父ちゃんの分。これはお母ちゃん」。焼き上がったホットケーキを両親の分も皿に盛りつける歩叶ちゃん。一歩ずつ確実に成長の階段を上る娘を、会社員の父孝典さん(44)と母緑さん(41)はまぶしそうに見つめた。

   ×  ×

 2009年9月上旬、緑さんは突然体調を崩した。おなかには、歩叶ちゃんがいた。妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)。意識が混濁する緑さんを車に乗せて、奈良県立奈良病院(奈良市)に向かった孝典さんは、生きた心地がしなかった。

 長女の出産から10年ぶりに授かった待望の2人目の子だ。「元気に生まれてくれさえすれば」。孝典さんは祈った。予定日より約1カ月早い9月19日、緑さんは帝王切開で女児を出産した。1675グラムの未熟児。保育器に入った我が子は左手首から先がなかった。

 「この子はみんなと同じことができないかもしれない。どうしたらいいんやろ」。緑さんは小さな歩叶ちゃんを見つめると、涙があふれた。夜、病室のベッドで一人泣き続けた。「この子をかわいそうと思ったらあかん」。孝典さんは、そんな妻を励ました。

 「私が泣いていても、この子の手が生えてくる訳でもない」。約1カ月涙に暮れた緑さんも、退院する頃には思い直した。「もう泣くのはやめよう。この子のために、できることをしてあげよう」。そう心に決めた。

   ×  ×

腕のない人の可能性を広げる筋電義手。日本ではその存在は、あまり知られず普及も進んでいない。夢をつかもうとする子どもたちの「魔法の手」を巡る物語を紹介する。

【桜井由紀治】

=つづく(毎週水曜に掲載します)

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