報告書 第3章 ICTを活用した雇用・就労情報および雇用・就労支援の提供について

従来、障害者雇用に関する求人・求職情報は、公共職業安定所(ハローワーク)が中心的な役割を担ってきた。その他民間の職業紹介事業者や求職情報提供者が数多く存在し、諸団体によるチャレンジドの就労支援活動も活発に行われている。近年、ICT(情報通信技術)の進展により、インターネットを通じて求職情報・就労情報が提供されるようになり、自宅からも情報を収集・検索することが可能な時代となってきた。

在宅ワーカーへのアンケートの【図a−5−10】「問10」の「便利だと思うインターネット上の情報やサービス」の回答では、「仕事の具体的な情報の取得」や「ハローワークを含めた行政サービスの利用」を求めるものが多く、インターネットの活用への期待を見ることが出来る。また、【図a−5−4】「問4」の「インターネット歴」の回答で、4年以上が6割近くを占める点や、【図a−5−15】「問15」の「インターネットの情報」で就労支援組織を知るという回答が多くみられる点からも、インターネットの利用の広がりが伺える。

ここでは、厚生労働省職業安定局提供の「ハローワーク・インターネットサービス」と、官民共同の求人情報サービス、「仕事情報ネット」、慶応大学大学院 金子郁容教授の研究室が中心となって運営されている「VCOM」を検証する。

また、就労支援については、ICTを活用してチャレンジドの自立と社会参加を促し、在宅就労やSOHOなどの新しい雇用・就労形態を推進してきた一部の社会福祉法人の活動、および先進的な地方自治体の取り組みを紹介し、ICTの活用による障害者雇用・就労対策への展望を検証する。

インターネット上の雇用・就労情報

ハローワーク・インターネットサービス

求人情報検索だけでなく、雇用保険や各種書面の記載方法、教育訓練給付制度・講座検索など、さまざまな情報を入手できる。法令などの行政制度の詳細な情報については、厚生労働省の該当情報ページにリンクしているので、必要に応じて参照することができ、雇用関連のポータルサイトとして便利なシステムとなっている。求人事業者側の諸制度を知ることも、求職者にとって参考になるのではないだろうか。

さらに、平成15年1月14日より、インターネット上で「求人事業所名」が公開されることになり、これまでの職種、賃金等の募集条件に関する情報に加えて、「求人事業所名」、「所在地」、「電話番号」の情報も公開されることになった。ただ、これは求人事業所がインターネット上で公開することを希望する場合に限られ、ハローワークの求職登録者に限定して提供される場合もあり、すべての事業所が対象ではない。事業所名等を提供している求人については、掲載された情報をもとに、ハローワークの紹介を介さずに、直接応募することも可能である。

求人情報検索は、2段階になっており、まず、求人情報検索(基本条件入力画面)で基本的な条件を入力し、該当する求人情報の件数を確かめた上で、必要に応じて、求人条件検索(詳細条件入力画面)で詳細条件入力を行うという仕組みになっている。基本条件入力画面では、「就業形態」を必ず選択しなければならないが、「一般求人」と「パート求人」の2つの選択肢しかなく、在宅就労やSOHOなどの就労形態は考慮されていない。詳細条件入力画面でも同様に、就業時間・休日・社会保険・資格などの記入欄のほかに、フリーワードで条件入力できるのは「仕事の内容」だけなので、やはり種々の就労形態で検索することはできない。障害者雇用に積極的な事業所を検索できないことは、言うまでもない。(追記参照)

  • 追記:この点に関してハローワークに問い合わせたところ、「インターネットサービスでは在宅ワークは取り扱っていないこと、また、障害者の職業相談・紹介については、直接ハローワークに問い合わせて欲しい」旨の回答があった。

仕事情報ネット

仕事情報ネットは、民間の職業紹介事業者、求人情報提供事業者、経済団体、ハローワーク等さまざまな参加機関が保有する求人情報を、インターネットで一度に検索し、システムにリンクしている各機関のホームページを閲覧するなどの方法によって、詳しい求人情報にアクセスできる仕組みとなっている。仕事情報ネットで検索後、ハローワーク・インターネットサービスの詳細画面にアクセスすることも可能である。

検索画面は、入力方法の解説をはじめ、わかりやすく利用しやすいシステムである。検索方法はハローワーク・インターネットサービスと同様に2段階検索となっている。しかしながら、詳細条件を入力する「検索結果一覧画面」で指定できる条件のうち、職種・業務内容・資格・経験等に関してフリーワード入力できるが、「在宅就労」などの類義語で検索しても検索結果なしと表示され、やはり、多様な就労形態に対応したシステムとはなっていない。

VCOM

VCOMは、1995年の阪神淡路大震災の際に結成された、ニュースグループを使った被災地とボランティアの連絡網「インターVネット」から発展した組織である。慶応大学大学院 金子郁容教授の研究室が中心となって、参加企業や団体の支援を受けて運営されている。問題解決のために、さまざまの立場の人が自発的に集まって知恵と力を出し合う「コミュニティ・ソリューション」という手法が特徴である。チャレンジドの雇用・就労支援問題にも取り組み、インターネット上の求人情報と求職情報提供の場として、「ジョブマッチング情報広場」を運営している。その他、就労を希望するチャレンジドと受け入れ企業双方から相談を受け付ける「コンサルティング・サービス」や、「障害者就労の事例とノウハウ」の情報提供など、雇用・就労支援のために実験的なプロジェクトが実施されている。

新しい雇用・就労支援機関

社会福祉法人(厚生労働大臣認可)プロップ・ステーション

「チャレンジド(障害を持つ人)を納税者にできる日本」――をテーマに、ICTを活用して、チャレンジドの自立と就労を支援する活動に取り組む社会福祉法人である。保護や援助を受けながらも、働く意欲と能力を持つチャレンジドは、適切なサポートがあれば社会の一員として誇りを持って自立することが可能である。その理念を実現するために、全国のチャレンジドを対象とした雇用・就労支援機関として、さまざまな支援活動を展開している。

プロフェッショナルなコンピュータ技術習得のセミナーが開講され、ソフト開発やコンピュータグラフィックスなどの技能を身につけた受講生が、講習終了後、就職または在宅ワーカーとして就労している。ネットワークで結ばれた全国の在宅ワーカーは、コーディネータとしてのプロップ・ステーションの仲介により、それぞれ個別に依頼された仕事をこなし、時には共同してプロジェクトに取り組んでいる。

活動に賛同する支援企業や行政機関、学界との連携を深め、「チャレンジドを納税者にできる日本」という目標を達成するために、毎年1回、産官学民とメディア関係者が参加して、「チャレンジド・ジャパン・フォーラム」が開催されている。このような連携の成果として、プロップ・ステーションと企業、自治体との共同プロジェクトも立ち上げられている。

障害者福祉を「保護」から「自立支援」へと転換させるための取り組みとして、プロップ・ステーションをモデルとして、「チャレンジド在宅ワーク・コーディネート組織」設立への動きが、各地の地方自治体で広がり始めている。三重県で設立された「eふぉーらむ」や、熊本県のプロジェクトとして発足した「チャレンジド・テレワークプロジェクト」を、具体例として別項で紹介する。

社会福祉法人(東京都知事認可)東京コロニー
トーコロ情報処理センター職能開発室

東京コロニーは、チャレンジドに働く場を提供するため、障害の特性に合わせて、印刷事業、情報処理センター、デジタルメディアセンター、福祉工場など、さまざまな事業を展開している。

その中でトーコロ情報処理センター職能開発室は、ICTを活用して、重度のチャレンジドを対象とした在宅就労支援事業を担当し、ICT技術習得のための教育、企業との橋渡しや仕事のコーディネート、健康面でのサポートなどの具体的支援を行っている。在宅のままで情報処理技能を身につけられる講習を東京都の補助事業として実施し、講習修了者は「在宅雇用」または「在宅就労」という形で仕事に就いている。

在宅で働く労働形態には、雇われて企業の一員となる「在宅雇用」と、SOHOのように個人事業者としての「在宅就労」とが存在するが、職能開発室では、「在宅雇用」支援の「職業紹介事業」と、「在宅就労」支援の「SOHO支援事業」双方の事業を行っている。

eふぉーらむ(三重県)

「志摩サイバーベース・プロジェクト」で構築された県内のブロードバンドネットワークを活用し、「ITを活用した障害者の自立支援策」として三重県が取り組む、産官学民の関係者からなるプロジェクト「eふぉーらむ」が、平成14年8月に設立された。プロジェクトの拠点として、また、ICT教育、就労訓練、実際の就労場所として「サテライトオフィスよっかいち」が設置され、チャレンジドのニーズに応じた「ITリテラシー(処理能力)」向上のための講習会やセミナーの開催、在宅就労やSOHOをはじめとする新しい就労形態を目的とした就労支援の取り組みなどを通じて、チャレンジドの積極的な社会参加の実現を目指して活動している。

「eふぉーらむ」は、障害者ワーカーのICT教育や就労訓練だけでなく、企業や行政機関など仕事の発注者との橋渡しをし、障害者ワーカーのエージェントとして、受注から納品までの管理責任を負うことによって、支援活動を展開することになる。

チャレンジド・テレワークプロジェクト(熊本県)

熊本県では、平成14年度より平成16年度までの実験プロジェクトとして、ICTを活用したテレワーク(情報通信技術を活用した遠隔型のワークスタイル。 SOHOはテレワークの一形態)による、チャレンジドの在宅就労支援のための「チャレンジド・テレワークプロジェクト」を推進している。テレワークは新しい就労形態であり、企業・団体だけでなく、チャレンジドにも十分理解されているとは言えない。プロジェクトは、在宅で就労可能なチャレンジドを対象に、ICTを活用した効果的なテレワークの普及促進を図ることを目的としている。

 具体的なシステムとしては、企業や行政機関などの発注側「サポーターズクラブ」と「テレワーカー」側を仲介するために「エージェント」が配置され、受注管理や品質管理などの責任を負うことによって、積極的に発注できる環境を確保した上で実施される。

雇用・就労情報および雇用・就労支援のまとめ

ICTの進展により、インターネットを活用した在宅就労やSOHOが新しい就労形態として普及し、平成14年度の「改正障害者雇用促進法」では、通勤が困難なチャレンジドにとっても十分可能な就労形態として認知されることになった。
だが、チャレンジドが在宅就労者として、仕事の受注や発注者との交渉、技能のスキルアップなど、すべてを自分でこなすことは事実上困難である。企業や自治体、政府機関といった仕事の発注者と在宅就労のチャレンジドをつなぐ、中立のコーディネート機関の存在が必要となってくる。

そこで『納期や品質に関しては、こちらのほうで責任を持って保障出来ます。』と言えるような、不安を解消出来るノウハウと経験を持った第三者的組織の育成が不可欠となる。それらの組織が連携して、Web上から常に何らかの就労情報提供を続けていける状況を作ることが出来れば、そのWebサイトこそが、確実に「働くチャレンジド」にとってのポータルサイトとなり得る。

「改正障害者雇用促進法」において、このようなサポート機関として「障害者就労・生活支援センター」の設置が制度化された。まだ日も浅く、プロップ・ステーションやトーコロ情報処理センター職能開発室が担ってきた就労支援活動をモデルとして、今後システムが整備されることになるだろうが、現在のところ、既存の就労支援団体が業務を委託されているところが多いようである。

現在、ハローワーク・インターネットサービスについては、健常者専用ともいうべき現状であり、重度の障害を持つものにとって、とりつく島もないといった状況かもしれない。だがこれは、ハローワークの運営システムの問題や、アクセシビィリティーの問題ではない。ハローワークに上がってくる「障害者専用就労情報」自体がほぼ皆無なのであろう。一昨年、プロップ・ステーションがVCOMなどを通して行ったデータ入力の募集(チャレンジド限定)に対しては、実に求人数の数十倍に及ぶ応募者が殺到した経緯がある。このことからも、明らかに就労情報需要に対する供給量の不足と言える。

いくら不況の昨今とは言え、国内においてチャレンジドが出来る仕事が存在しない、などということは有り得ない。むしろ発注しようにも、誰にどのように発注すればよいか、発注する側がわからないというのが現状である。また発注したとしてもどれくらいの納期や品質を保持できるか、といった不安がつきまとう。

このように、ICTを活用したチャレンジドの在宅雇用・就労を促進することは、行政側の要請、チャレンジド側の要請により急務となっている。コーディネータとしての機能と、コンピュータ技能などの実践教育を行う機能を備えた機関や団体が地域ごとに設置され、ブロードバンド網を安価に利用できるネットワーク環境の整備が進めば、チャレンジドの就労による社会参加はさらに促進されるだろう。

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