心の扉を開いて
共に生きる兵庫

僕も勇気を与えたい
自立目指し 一人暮らしを計画

第2部「学ぶ・働く」A

2019年5月20日

毎日新聞2019年5月20日発行より転載
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心の扉を開いて
共に生きる兵庫

僕も勇気を与えたい
自立目指し 一人暮らしを計画

第2部「学ぶ・働く」A

全盲で、脳性まひの重複障害もある真野剛さん(26)=高砂市=は2015年、関西国際大を卒業したが、その先の進路をどうするかという問題が残ったままだった。就職するにしても、どの企業も自力通勤など厳しい条件がある。常時、介護が必要な重度障害のある人にとって、就労は厚い壁となっていた。

剛さんが思い悩んでいた頃、相談支援専門員から播磨町である講演会を紹介された。

社会福祉法人「プロップ・ステーション」(神戸市東灘区)理事長、竹中ナミさん(70)=愛称・ナミねぇ=の講演会だった。ICT(情報通信技術)を駆使して重度障害者が在宅でパソコンを使って働く環境を整えるなど、障害者の就労を支援してきた。自身も重症心身障害の長女(46)を抱える母親だ。

「障害者はかわいそうな存在とは違う。能力を引き出しさえすれば、活躍できる」。講演でナミねぇは、熱く語った。ベッドの上でパソコンを操作して、グラフィック・デザインの仕事をする重度障害者の例などを紹介した。「彼ら彼女らが誇りを持てるように、福祉の受け手から社会の支え手にしたい」と訴えた。

ナミねぇの話に、剛さんは心を打たれた。「自分も社会の支え手として、何かできるかもしれない」。勇気が湧いて来た。


真野剛さん(左)を励ます「プロップ・ステーション」理事長、竹中ナミさん =神戸市東灘区で

後日、剛さんはナミねぇに「好きな英語を生かした仕事がしたい」というメールを送った。講演で一度会ったきりだが、この人なら相談に乗ってくれそうな気がした。すぐに返事が届いた。「じゃあ、この文章を英語に翻訳してみて」。ナミねぇは、翻訳の仕事を回せる程の英語力が剛さんにあるのか試した。彼が懸命に訳した英文は、米国で就労経験のあるプロップのスタッフから「翻訳の仕事を任せられるレベルには達していない」と厳しい評価を受けた。

だが、ナミねぇは彼の積極性と社会に出たいという意欲を買った。2年前から剛さんは週1日、プロップに通い、スタッフから英語の翻訳作業の指導を受けるようになった。彼はこの機会にあらゆることを吸収しようと、熱心に取り組む。ナミねぇの影響を受け、講演会で自らの障害も語る。自分も多くの人に勇気を与えたい。そんな剛さんに、ナミねぇは「少しずつ役割を担ってもらい、将来はプロップの正スタッフとして活躍してもらえたら」と期待を寄せる。

×       ×

剛さんは自立に向けて歩み始める。高砂市内にアパートを借りて、一人暮らしをする計画だ。重度の身体障害などを持つ人にヘルパーを派遣する自立支援制度「重度訪問介護」を利用、サポートを受けながら自活する。

これまでは両親に介護を頼ってきた。関西国際大に進学した後も母容子さん(59)に全授業に付き添ってもらい卒業できた。だが、いつまでも両親に介護の負担を背負わす訳にはいかない。親亡き後どうするのかも考えた。

剛さんが「家を出たい」と打ち明けると、両親は反対しなかった。父豊文さん(64)は、むしろ自らの意思で自立を決意した息子を頼もしく思う。

火事の不安などを理由に、障害者に部屋を貸すことを敬遠するオーナーもいる。賃貸物件がすんなり見つかるのか。事業所もヘルパーのなり手も少ない地域で、十分な福祉サービスが受けられるのか。課題も多い。剛さんは「不安もあるが、一歩ずつ踏み出していきたい。困難を克服して、さまざまな人に自分の経験を発信していくことが大きな目標です」と前を向く。

【桜井由紀治】
=つづく
※次回は6月3日掲載予定です。

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