聴導犬と暮らす安藤美紀さん(ミキティ)の記事です。インタビュアーは社納葉子さんです。

2017年2月7日

ナミねぇの友人であるライターの社納葉子さんが、
聴導犬と暮らす安藤美紀さん(ミキティ)の
インタビュー記事を書かれたので、ご紹介します。

ミキティは聴覚障害のため
「対面インタビューより正確な記事にするため」
ミキティと葉子さんの「大量の!メール交換」によって
インタビューが行われました。

20数年前に、ナミねぇとミキティが出逢ったことも
記事になるということで、
オンライン・インタビューに私も参加させていただき、
ちょこっと意見を述べたり(メールで)しながら、
原稿が出来上がる様子を拝見することが出来ました。

「ふぇみん」という情報誌に掲載されたミキティの記事を、
皆さん、ぜひ読んで下さい!!!(^_^)/~

<by ナミねぇ>

NPO法人MAMIE理事長 安藤美紀さん Ando Miki

「聴覚」という壁を超えて自由に

写真撮影のためにNPO法人MAMIEの事務所を訪ねると、安藤美紀さんが聴導犬のレオンとともに迎えてくれた。笑顔で話しかけてくれる。
しかし美紀さんには生まれながらの聴覚障害があり、音はまったく聞こえない。相手の口元に集中して言葉を読み取り、会話をする。細かいニュアンスを伝え合うのは難しいので、今回のインタビューはメールでおこなった。

美紀さんが育った1970年代、聾学校で手話を禁じられるほど、聴覚障害に対する偏見は根強かった。地域の学校に通った美紀さんも、母から厳しく「口話」のトレーニングを受けた。
自由に心を放てるのは、童話や漫画の世界だった。『みにくいあひるの子』を愛読し、いつか白鳥になる自分を妄想した。小学校に入る頃には、当時大人気だった『キャンディ・キャンディ』をはじめ、少女漫画を夢中で読み込んだ。現実の中では、常に「聴覚の有無」が自分と世界とを隔てている。しかし漫画の世界に壁はない。自由に思いを伝え合える世界に自分も入り込み、登場人物の1人となって遊んだ。いつしか美紀さんは、漫画を描いて自分の気持ちを伝えることを覚える。漫画は、世界とつながる手段でもあった。
描きためた漫画原稿を出版社に持ち込んだこともある。しかし編集者から「耳が聴こえないから漫画家は無理」と突き返されてしまう。「耳が聴こえないのと漫画は関係ない」と言い返すと、「漫画にはいろんな言葉をつくる才能がいるの。聴こえないあんたに、多くの人の心を動かせる力はない」と切り返された。漫画の道具をすべて捨てた美紀さんは、「言葉の力を身につけよう」と気持ちを切り替えた。
障害者雇用枠で新聞社の制作局にキーパンチャーとして就職、手応えを感じていた時に妊娠がわかる。周囲に「育てられるのか」と大反対され、「自分の人生を捨てて家庭に専念する」と宣言して退職、結婚した。生まれた息子は夜泣きがひどく、夕方4時から朝の4時まで泣きっぱなし。がんばり続けた結果、産後うつ病で起き上がれなくなってしまう。周囲からは「わがまま」と見られ、人間不信に陥り、離婚に至る。


2016年の補助犬ユーザーへのアンケート調査で、聴導犬に限らず、盲導犬、介助犬の同伴拒否が増えていることがわかった。「しつけのできていないペット犬への苦情の多さから補助犬が拒否されているのが日本では当たり前になっています」

その頃の気持ちを、美紀さんは「何をやってもうまくいかない。障害者はしょせん税金でひっそり生きる身なんだと、私は希望を失っていました」と書いた。障害者運動との出会いがあれば、違う思いがあったかもしれない。しかし美紀さんに、そうした機会や情報が届くことはなかった。望んでもいないのに、常に「障害者」という枠に入れられ、枠の外に出ようとすると痛い目に遭う。その繰り返しのなかで、持ち前の前向きさや楽天性は萎れてしまっていた。

そんな美紀さんに、つかず離れず寄り添ってくれたのが「ナミねぇ」と慕う竹中ナミさん(社会福祉法人プロップ・ステーション理事長)である。新聞社で働いていた時、記者が紹介してくれた。竹中さんは「障害があるがゆえに体験することをポジティブに生かしていこう」と、仕事づくりを中心に1991年から活動している。重度の重複障害をもつ娘の母親でもある。美紀さんは、「働きたいという意欲をもつ障害者が、納税できる社会をつくりたいねん」という真っすぐな熱意に圧倒された。
「ナミねぇは、漫画をやめた私に"もったいない"と言いました。私を"一人の人間"として見てくれた。そこに一番救われました」。プロップ・ステーションでパソコンを習い、漫画やイラストも再び描き始めた。自身の経験から「孤立しないことと、情報を共有できるネットワーク、学びたいことを学べる環境が必要」と、2004年にMAMIEを設立。障害児・者を対象としたパソコンや学習塾、絵画等の教室を開く。安藤さん自身が講師を務めながら、ホームページ制作やイラスト・漫画制作も請け負う。

38歳で出会ったレオンも「聴覚」という壁を超えさせてくれる、大事な存在だ。しかし聴導犬の社会的な理解は進まない。2012年に身体障害者補助犬法が施行された後も、同伴拒否は減るどころか増えている。聴覚障害のある人のなかには、聴導犬の必要性を感じない人もいるが、「私にとってレオンは身体の一部。レオンを見れば、今どんな音が鳴っているのかがわかり、安心します。知らなかった音も教えてくれる。世界が変わったかのように楽しいんです」
漫画を通じて、聴覚障害のある人たちと音のある世界とをつなぎたい。美紀さんのチャレンジは続く。

聞き手・・・社納葉子
撮影・・・井上陽子

PROFILE
あんどうみき
1969年、鹿児島県生まれ。大阪市在住。NPO法人MAMIE理事長。mamieは古いフランス語で「大切な人」を意味する。MAMIEのウェブサイトで美紀さん作のパラパラ漫画「きこえないことって?」「聴導犬って?」等を読むことができる。

 

関連リンク

NPO法人MAMIEのサイト

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