「日経グローカル」最新号に掲載された「ナミねぇインタビュー記事」を公開させていただきます
2016年2月20日
日本経済新聞社・産業地域研究所が発行する情報誌
「日経グローカル」最新号(2月15日発行)に
ナミねぇインタビュー
どうする障害者就労促進
「雇用率」重視越える政策を
在宅就労支援システム必要
が掲載されました。
真の一億総活躍社会そしてユニバーサル社会の実現には
既存の制度だけにとらわれない柔軟な発想による
チャレンジドの多様な働き方の創出が必要です。
そのためにプロップ・ステーションが25年間にわたって取り組んできた
ICTを駆使した在宅就労支援システムの拡充について
一人でも多くの方に理解し、共感していただけるよう
心を込めてお話ししました。
読んでいただけたら幸いです!!!
ご取材下さった、川上寿敏副編集長
ありがとうございました!! m(_ _)m
☆「日経グローカル」の、定期購読お申し込みサイトはコチラです。
http://www.nikkeibpm.co.jp/item/248/459/index.html
<by ナミねぇ>
グローカルインタビュー どうする障害者の就労促進
日経グローカル 平成28年2月15日号より転載
グローカルインタビュー
どうする障害者の就労促進
「雇用率」重視超える政策を
在宅就労支援のシステム必要
社会福祉法人
プロップ・ステーション理事長
竹中ナミ氏たけなか・なみ 1948年神戸市生まれ。市立本山中卒。重症心身障害の長女が生まれたのを機に独学で障害児医療・福祉・教育を学ぶ。91年、草の根グループ、プロップ・ステーションを発足。98年厚生相認可の社会福祉法人格を取得し、理事長に就任。障害者の可能性に着目し、自立と社会参画、就労促進の支援に取り組んでいる。2010年〜13年NHK経営委員。12年から関西大経済学部客員教授。財政制度等審議会委員も務めている。
障害者差別解消法と改正障害者雇用促進法が4月に施行される。従来、国は法定雇用率制度のもと、障害者雇用の促進に取り組んできた。一定の成果をあげてはきたものの、依然、雇用率未達成の企業や自治体関連の機関なども少なくない。障害者の雇用について、行政や企業はどう向き合うべきなのか。法施行を前に、社会福祉法人プロップ・ステーション(神戸市)の竹中ナミ理事長に障害者雇用のあり方と促進策の課題、展望などを聞いた。
Q
プロップ・ステーションはIT(情報技術)を活用して、早くから障害者の就労支援に取り組んできた。
A
私たちは阪神大震災の直後にチヤレンジド(障害者)のグループとして日本で初めてサイトを立ち上げた。ブロードバンドに接続し、テレビ会議システムも使ってきた。クラウドも導入しようとしている。仕事にこうしたネットワークをどう使えるのか,ずっと取り組んできている。IT企業としてのノウハウは持っている。発足時から支援してくれる企業もマイクロソフトなどほとんどがIT分野だった。この道具があって初めてチャレンジドたちが仕事をできるといっても過言ではない。国が差別の解消というなら、これをどう使えば仕事をできるようになるのかを考えてくれる方がずっと差別の解消につながると思う。
◆チャレンジドとは「the Challenged (挑戦という使命や課題、挑戦するチャンスや資格を与えられた人)」が語源。障害をマイナスとのみ捉えるのではなく、障害を持つゆえに体験する様々な事象を自分自身のため、あるいは社会のためポジティブに生かしていこうとの思いを込め、プロップ・ステーションが提唱している呼称。
Q
一億総活躍国民会議では障害者の在宅就労促進のシステムづくりを提言した。
A
プロップのようにコーディネートをする団体があれば企業、自治体、政府機関も安心して仕事を発注できる。仕事が出てくる仕組みを制度の中に入れてほしい。雇用率制度にプラスできないか。小さなグループで取り組むところはあるが、そういうところは少し大きな仕事が出てくると受注できない。
国に提言しているのは、クラウドを活用した全国規模の受発注システムづくりだ。プロップのような団体があらかじめ、どの作業所ならどういう仕事をどのくらいの量できるかを把握。そのうえでコーディネートして仕事を受け、A作業所、B作業所、C作業所……とその作業量に応じて複数の団体で分担する。
企業が雇用をするとほめても、仕事を発注してもほめられない状況では、どの企業も積極的にチャレンジドに仕事を発注しない。雇用率制度にインセンティブがあるように、チャレンジドに対する仕事の発注がインセンティブになるような制度をつくるべきだ。
Q
国レベルだけでなく、自治体でも取り組めることがありそうだ。
A
この考え方を兵庫県内の人に知ってもらおうと、県とは今年度、連続講演会に取り組んでいる。さらに県とはモデルをつくろうとしている。例えば、県が企業などに発注する仕事について、一定の割合をチャレンジドの在宅ワークに回すような仕組みができないか。一定以上の仕事をチャレンジドに発注する企業を表彰する制度などはどうかと。国に先行して、まず自治体でできる制度を考えようという話をしている。この分野については、井戸敏三知事が積極的だ。兵庫でモデルができれば、ほかの自治体にも波及すると思う。自治体のトップが本気になればできる。地方議会にも考えてほしい。
Q
国は法定雇用率制度を設け、障害者の雇用は徐々に進んできたようにみえるが。
A
国の法律はまず法定雇用率の順守が第一。世の中で支える人が少なくなっていく、支えられなければならない人が増えていく。日本は(こうした状況が)世界一のスピードで進んでいる。その時に真剣に支える人を増やすことを考え、同時にその人たちが誇りを持って支えられる仕組みを考えるのか。やらなければならないことはそれに尽きる。どれだけ支え手を確保できるかは経済の問題も社会福祉、社会保障の問題でも通底している。支え手をどう増やし、維持するのか。もっと真剣に検討してほしい。その中にチャレンジドも入れるというのが私の提案だ。
女性が働けるようになったプロセスと多分同じだろう。昔は良き母、良き妻、良き家庭人というのが女性の最大の仕事とされていた。女性の中から、男性とともに社会を支えるという人たちが現れ、活動が広まり、法律が整備され、今では女性が働くことを不思議に思う人はいなくなった。それでもまだ「ガラスの天井」(本来、昇進に値する人が性別などを理由に低い地位に甘んじざるを得ないでいる不当な状態)といわれるように差別といっていいかもしれない区別が残っている。
●企業の障害者雇用数と実雇用率の推移
(厚生労働省資料を基に作成)
Q
障害者の就労問題も、女性の働く環境の問題も確かに似通った構図がある。
A
それは社会システムの問題だ。チャレンジドは障害のある人には働けないと思われていたり、障害の重い人に働けと言ってはいけないのではないかという意識があったり、まずかわいそう、気の毒と思われている。かわいそうな人をかわいそうでない状況にするプロセスこそ福祉。意識と制度の面で弱者でなくしていこうというプロセスを踏んでいかないといけない。チャレンジドと就労の問題は、女性に例えれば「働く能力があるんですかね」といっていた時代のレベルにとどまっている。
雇用率の制度は本当は一緒に働くのは難しいのだけれど、何ポイントかは雇ってあげましようという発想になっている。基本的にチャレンジドが一緒に働き、その人が仕事を支え、仕事に必要となる人になるという前提でない法律だ。そろそろそこから脱却しなければならない。
Q
障害者の持つ能力や働く意欲はこれまで考慮されてこなかった。
A
重度の知的障害の人の中にもエクセルやフォトショップ、イラストレーターを駆使してポスター製作、サイト制作など様々な仕事をできる人が少なくない。周りが配慮しなければならないこともあるが、仕事に関しては、ハンディのない人ができないこともできる。
○○ができない人を障害者と呼んできた。私がなぜ、あえて「チャレンジド」というその人の中にある可能性に着目する言葉を必死になって使うのか。だれだってその人のネガティブな部分を見たらダメ。寡黙でコミュニケーションをとるのが苦手な人でも、どんな障害があっても、例えばパソコンを使って仕事ができるのならそれを仕事にすればいい。
雇用率という制度があると、それを達成さえすればいいというのが社会通念になる。それでは差別は解消されない。チャレンジドが働く場がなく、働いて認められることもなかった時代から考えればよかったとはいえるが、雇用率制度だけでは彼らの能力を生かすことにはつながっていかない。
すでに雇用されて能力を発揮する人だけではなくなっている。起業して活躍している人もいる。自己プロデュース能力の高い人も少なくない。乙武洋匡君(文筆家、NPO法人代表)や聴導犬普及に取り組む安藤美紀さん(NPO法人代表)、ユニバーサルデザインの環境づくりに努める松森果林さん、ユニバーサルマナーの普及に取り組んでいる垣内俊哉君(会社社長)……。社会の変化を捉えて制度は変えていかなければならない。
Q
障害者差別解消法が4月に施行される。
法律の名前に違和感を覚えているとか。
A
世の中に差別・区別はいろいろある。ことさら障害者だけに差別が残っていると思わせるようなネーミングはやめた方がいいと個人的には思ってきた。ネーミングは非常に重要なことだ。この議論が始まった頃からずっと言い続けてきた。WHO (世界保健機関)などが言っている差別禁止法というのは、深刻で苛烈な差別が残っているような国が世界にはたくさんあるので、そういう国では必要な考え方だ。ただ、日本は事情が少し違う。障害者には特別な手当てがあり、補助具も相当研究が進んでいる。これだけのことを実現している国は世界でも少ない。
法律で差別を完全に解消するのは難しい。今の日本に必要なのは差別を解消することよりも、働く意欲のあるチャレンジドがきちんと稼ぎ、タックスペイヤー(納税者)になるためにはどうしたらいいのか、一緒に考えようという法律だと思う。
質問を終えて
2000年に起きた有珠山噴火災害の取材で北海道伊達市に滞在した際、知的障害者の作業所を訪ねたことがある。地元名産の菓子の箱を折り、成形する作業。正確でしかも素早い動きを黙々とこなしていく様子に感じ入ったのを覚えている。
障害者は能力が低いのか? 働くことはできないのか? 答えはNOだ。人それぞれ個別に多様な能力を持っている。働く環境の方が整備されていないだけだ。竹中さんが指摘するように、そもそも企業を中心にした社会が障害者を福祉、つまり保護の対象としかとらえず、本格的な就労を期待してこなかったのが現実だろう。
「一億総活躍社会」づくりが叫ばれている。意欲があれば、どんな立場の人でも活躍できる環境づくりこそ、そうした社会づくりのベースになるのではないか。
(副編集長 川上 寿敏)