7月9日法制審特別部会「取り調べ全過程での可視化(録音・録画)」を答申。対象は全事件の2-3%

2014年7月12日

村木厚子さんの冤罪事件を機に設置された
法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」が
7月9日
警察と検察に取り調べの全過程の記録・録画(可視化)を
義務づける答申案を決定しました。

この答申を受けた法務省が、刑事訴訟法や刑法などの
改正案を国会に提出するのは来年になります。

「可視可の対象が2-3%」と、まだまだ少ないものの
冤罪当事者を体験した村木厚子さんはじめ
「冤罪が起きない社会に!」と願う多くの国民の声が
「可視化の義務化」という答申に結びついたと、
ナミねぇは思っています。

7月10日付けの読売新聞に、
答申の経緯・内容などの詳細が掲載されましたので、
ご尽力された皆様に敬意を込めて
抜粋・転載させていただきます。

☆関連サイト
村木厚子さんの完全な名誉回復を願うサイト
 https://www.prop.or.jp/news/topics/2009/20090727_01.html

<by ナミねぇ>

 

取り調べ 可視化義務づけ…法制審部会 司法取引も導入

 新しい捜査・公判のあり方を検討している法制審議会(法相の諮問機関)の特別部会が9日開かれ、裁判員裁判対象事件と検察の独自捜査事件で、警察と検察に取り調べの全過程の録音・録画(可視化)を義務づける答申案を決定した。容疑者らが捜査に協力すれば刑事処分を軽くする司法取引の導入や通信傍受の拡大も決まり、刑事司法制度は大きく変わることになる。

 委員26人全員一致の結論。法制審は秋の総会を経て法相に答申する。法務省は、刑事訴訟法や刑法などの改正案を来年の通常国会に提出する考えだ。

 答申案には、起訴後に検察側が証拠の一覧表(証拠リスト)を被告側に交付する制度の新設や、国選弁護制度の対象を容疑者が逮捕された全事件に拡大することなど、9種類の制度改革が盛り込まれた。可視化の対象は容疑者が逮捕された事件の2〜3%で、一定期間後に対象の見直しを検討する規定も加えられた。

 司法取引は、汚職や詐欺などの知能犯罪や銃器・薬物犯罪などで限定的に導入される。

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取り調べ適正化へ一歩…法制審特別部会答申案


記者会見する委員の村木次官(右)ら(9日午後、東京・霞が関で)=伊藤紘二撮影

 密室で行われてきた容疑者の取り調べについて、捜査機関に録音・録画(可視化)を義務づける制度の導入が9日、法制審議会の特別部会で決まった。司法取引など新たな捜査手法の導入も決まり、刑事司法は大きな転換点を迎える。制度改革が実現した背景と、今後の課題を探った。

(社会部 田中史生、小田克朗)

可視化「全過程」で決着

◆密室の危険性

 「取り調べが適正だったかどうかが、今後は客観的に示されることになる。将来への第一歩になり、可視化義務づけの意味は大きい」。2010年の郵便不正事件で冤罪えんざいの被害を受け、特別部会の委員になった村木厚子・厚生労働次官(58)は部会終了後、答申案への期待を語った。

 日本ではこれまで、取調官が容疑者と関係を築き、自白を引き出す取り調べが主流だった。しかし、密室で行われる取り調べでは、取調官の威迫や誘導によって、容疑者が虚偽の自白をする危険性もあった。

 実際、09年にDNA型鑑定で無期懲役囚の無実が判明した「足利事件」では、自白調書が作成されていた。郵便不正事件でも、大阪地検特捜部検事の誘導的な取り調べが問題になり、特別部会の設置につながった。

 可視化では、取調室にビデオカメラとマイクが設置される。取調官が最初に録画することを伝え、容疑者が同意すれば、両者のやり取りが一言一句、DVDに記録される。公判で被告の供述が問題になっても、DVDの映像を見れば、取り調べで威迫や誘導がなかったかを確認できる。

 09年に裁判員裁判が始まると、裁判所も「一般市民が供述調書の真偽を判断するには、可視化が不可欠」との姿勢を強めた。

◆警察・検察に変化

 警察と検察は当初、「容疑者の自白が得られなくなる」として可視化に強く反発した。その姿勢が変わったのは、可視化が「武器」になる場合があることが明らかになったためだ。

 裁判員制度の開始前から、警察と検察は一部の事件で可視化の試行を始めた。最高検が試行結果を検証したところ、取り調べを録画したDVDが公判に証拠提出された裁判で、「検事が丁寧に容疑者の言い分を聞いている」などとして調書の任意性が認められたケースが少なくなかった。

 被告が否認に転じた放火事件では、逮捕当初に犯行状況を供述した様子を映したDVDを、裁判所が証拠として採用。可視化が、調書の補完にとどまらない「威力」を持つことも示した。ただ、逆に検事が誘導しているとして調書の信用性が否定された例もあった。取り調べを担当する一部の捜査員からは「可視化によって容疑者と人間関係が築けず、真相解明が遠のきかねない」との懸念が示された。

◆全事件の2〜3%

 特別部会では、捜査への悪影響を最小限にとどめたい捜査機関側の委員と、「全事件での取り調べ全過程」の可視化を求める弁護士や有識者の委員が鋭く対立した。警察の委員は、取調官の判断で可視化を調書作成の場面などに限定できる「裁量案」を主張。これに対し、「捜査側に都合のいい部分だけ可視化したのでは、取り調べの適正化に逆行する」と強い反発が出て、警察側が押し切られる形で、毎回の取り調べを最初から最後まで可視化する「全過程」で決着することになった。

 一方、可視化の対象事件では、弁護士側が妥協し、裁判員裁判対象事件と、検察の独自捜査事件に限定した。容疑者が逮捕される全事件の2〜3%に過ぎないが、殺人などの重大犯罪や供述内容が争われやすい特捜部事件は含まれる。

 委員の小野正典弁護士は「対象事件には不満が残るが、絶対に譲れなかった全過程の可視化が実現したことが重要だ」と話す。

 最高検は6月、裁判員裁判対象事件以外でも、容疑者や被害者らの供述が公判で問題になりそうな場合は、積極的に可視化を試行するよう全国の地検に通知した。答申案は、法制化後の運用と試行状況を参考に、可視化の見直しを検討するともしており、対象事件を拡大するかどうかが今後の課題となる。

 

「司法取引」「通信傍受」で補強…捜査に制限 懸念も

 答申案には、新たな捜査手法として「司法取引」と「通信傍受の拡大」が盛り込まれた。取り調べの可視化で捜査が制限されることを懸念した捜査機関側が、導入を求めたものだった。

 組織犯罪では、末端の容疑者が、組織からの報復を恐れて供述をためらうことがあった。可視化が組織犯罪などにも拡大されれば、容疑者の口はますます固くなる可能性がある。司法取引は、容疑者らに刑事処分を軽くすると提案することで、上層部の関与などを供述しやすくする狙いがある。

 また、通信傍受は、対象犯罪を薬物犯罪など4種類から殺人や窃盗、詐欺など13種類に一気に広げた。事件関係者の通話の傍受は客観的な証拠になり、可視化で得られにくくなる供述を補完する。組織の解明が難しい振り込め詐欺などの捜査に当たる現場の期待は大きい。

 特別部会で委員を務めた佐藤英彦・元警察庁長官は、「可視化の拡大によって一定程度、真相解明のための捜査力にマイナスが生じるが、そこを二つの捜査手法が補うことで、やっとバランスが取れる形になる」と説明する。

 司法取引は、刑事責任を軽くしたいために容疑者らが虚偽の供述をし、冤罪を生む危険性も指摘されている。

 ただ、検事の誘導によるかつての部下の供述を基に逮捕・起訴された村木次官は9日の会見で、「これまでは密室の中で司法取引に似たことが行われてきたが、今後は透明なルールの下で実施されることが非常に重要だ」と前向きに評価した。

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刑事司法 新時代へ…法制審特別部会 答申案

検察不祥事を機に、新たな刑事司法制度について検討してきた法制審議会の「新時代の
刑事司法制度特別部会」が9日、3年余りの議論の末にようやく答申案の合意にこぎ着けた。これまで密室で行われていた取り調べを録音・録画(可視化)する一方、新たな捜査手法として司法取引を導入し、通信傍受を拡大することなどを決めた。新制度により公正な捜査・公判を実現しつつ、巧妙化する犯罪に対応できるのか。新制度の内容をまとめた。
(社会部 小田克朗、前田泰広)

議論3年余り 認識一致

◆司法改革の「宿題」

 特別部会がスタートしたきっかけは、2010年、大阪地検特捜部が摘発した郵便不正事件での冤罪えんざいの発覚だった。検事が描く筋書きに沿うよう関係者の供述調書が多数作られ、村木厚子・厚生労働次官(当時は厚生労働省局長)が犯人に仕立て上げられた。

 第三者機関「検察の在り方検討会議」は、取り調べに過度に依存した捜査・公判が事件の背景にあったと指摘し、刑事司法の抜本的改革を当時の江田法相に提言。法相は取り調べの可視化などの検討を法制審に諮問し、11年6月に特別部会が設置された。

 取り調べの可視化は、日本弁護士連合会や一部の学者が、実現を訴えてきた課題でもある。裁判員制度の導入を決めた政府の司法制度改革審議会でも議論されたが、捜査機関側が「容疑者から供述を得にくくなる」と激しく抵抗。01年の最終意見書では「現段階で結論を得るのは困難」と決着が先送りされた。

 最終意見書は「司法取引」の導入も将来の課題の一つに挙げており、特別部会は、司法制度改革で積み残された「宿題」に答えを出す場ともなった。

◆絞り込み

 特別部会の委員には、捜査機関と弁護士会、裁判所など刑事司法に携わる立場だけでなく、村木次官ら有識者、犯罪被害者、大学教授など様々な立場から26人が名前を連ねた。

 主要テーマは可視化だったが、新しい捜査手法、容疑者らの権利保護、被害者への配慮など、刑事司法全体のバランスを考慮した結果、検討する改革のメニューは膨大になった。

 そこから、30回に及ぶ議論で、全委員が折り合えるものは残し、意見対立が解消できないものは除外して絞り込んでいった。例えば、暴力団事務所などに機器を設置して行う「会話傍受」は、捜査機関側が新手法として認めるよう求めたが、弁護士の委員らが「プライバシー侵害の危険性が大きい」と強く反発し、見送られた。

◆「妥協の産物」

 捜査機関側が可視化の受け入れと引き換えに導入を求めた司法取引も、最後まで調整が続いた。

 今年4月の試案には三つの制度が盛り込まれていたが、このうち、自分の犯罪で重要事実を明かした被告らの刑を軽くする「刑の減軽制度」は、裁判所などの反対を受けて除外。「協議・合意制度」と、刑事責任を追及しないと約束して証人に発言してもらう「刑事免責制度」が、弁護士の委員の反対に遭いながらも答申案に残った。

 一方、弁護士の委員も、逮捕された容疑者全員に国選弁護人を付けるという「悲願」を実現させた。

 明治大法科大学院教授の川端博委員は6月30日の部会で「『立法は妥協なり』という法格言がある」と発言。「それぞれ実現したい意見を削られながらも、譲り合って共通認識に達したことが重要だ」と、3年余りに及んだ特別部会を振り返った。

 

可視化…範囲狭く将来見直しも

 今回の改革の目玉だった取り調べの可視化は、裁判員裁判対象事件と検察の独自捜査事件で義務付けられることになった。警察、検察とも原則、逮捕・勾留した容疑者の取り調べを最初から最後まで全過程で映像に残さなければならない。

 ただ、捜査への影響は検察と警察で異なりそうだ。この3年で可視化の「試行」に積極的に取り組んできた検察は、2013年度の可視化の実施率が裁判員対象事件(3892件)で99%、独自捜査事件(123件)では100%に達した。しかも、両事件とも7割超で取り調べ全過程を可視化できており、法制化を事実上先取りしていると言える。

 一方、警察は12年度、裁判員対象事件(3415件)のうち77%で可視化を実施したが、供述調書に容疑者がサインする場面などに限られており、取り調べ全過程の可視化は1件もない。

 元警視庁捜査1課長の久保正行氏は、「物証に乏しく、取り調べしか解明の手段がない事件もある。可視化により、治安が悪化する可能性もある」と指摘。昨年の捜査員へのアンケートでも、「取り調べ全過程の可視化をすべきではない」との回答が多数を占め、可視化への抵抗は大きい。

 ある検察幹部は、「取調官が容疑者の供述の矛盾を突く技術を磨くなど、捜査力を低下させない取り組みが必要になる」としており、警察、検察とも今後、可視化時代を見据えた研修に力を入れることにしている。

 とは言え、可視化が義務付けられるのは、容疑者が逮捕される全事件の2〜3%にとどまる。虚偽の自白などで4人の誤認逮捕を生んだパソコン遠隔捜査事件も、現状では可視化の対象にならない。

 弁護士や有識者の委員の間には「可視化の対象が狭すぎる」との不満が根強く、将来の拡大も含めた見直しの規定が盛り込まれた。今後、可視化していない事件で、無理な取り調べなどが発覚すれば、可視化の対象を巡る議論が再燃する可能性もある。

 

司法取引…供述の信用性焦点

 「事件に関与したのは、あなただけではないはず。真相を話してくれれば、起訴はしない」。20XX年、東京拘置所内の取調室。独占禁止法違反(談合)の疑いで逮捕したゼネコンの社員に対し、東京地検特捜部の検事はこう切り出した。

 社員は、接見に訪れた弁護士に相談し、検事の提案に応じることを決意。翌日、弁護士同席の下、「談合は社長の指示だった」と供述し、指示内容を記したメモを知人に預けたと明かした。検事は供述やメモの内容を「合意書面」にまとめた。

 特捜部は社員を不起訴にする一方、社長を起訴。社長は争ったが、合意書面が有力な証拠となり、有罪判決を受けた――。

 日本版の司法取引として導入される「協議・合意制度」によって、警察も検察も、このような捜査が可能になる。

 適用されるのは、汚職や詐欺などの知能犯罪や銃器・薬物犯罪など。裁判員裁判対象事件は、「取引で容疑者らの刑が軽くなることは、被害者らが納得しない」として除外されたが、巧妙化が進む組織が絡んだ犯罪に対して、司法取引は大きな武器になるとみられる。

 ただ、取引によって、冤罪えんざいが生まれかねないとの懸念は根強い。容疑者らが「自分の刑事責任を軽くしたい」と考え、ウソの供述によって無実の第三者を引き込む可能性もあるためだ。

 これを防ぐため、虚偽供述罪(罰則は5年以下の懲役)も併せて創設された。だが、裁判所の委員からは「供述が信用できるという制度的裏付けに乏しく、裁判官は疑問符を持って聞くことになるだろう」との意見も出た。

 また、司法取引で得た供述などを基に組織トップらの刑事責任を追及する際、公判に合意書面を証拠として提出する必要があるため、誰が取引に応じたのか相手方に知られることになる。

 ある検察幹部は「暴力団犯罪や企業犯罪では、報復を恐れて情報提供をためらうことも考えられる。粘り強く説得するなど、まずは慎重に進めるしかない」と話している。

 

通信傍受…特殊詐欺なども対象

 通信傍受の対象拡大は、警察捜査の現場からの強い要望を受けて実現する。

 2000年の通信傍受法の施行で、捜査機関は裁判所の令状に基づき通信傍受ができるようになった。しかし、対象犯罪は銃器、薬物など4種類に限られ、実際に適用した事件も年間10事件程度にとどまっていた。

 特別部会は、複数犯による殺人や詐欺、窃盗、傷害など9種類の犯罪も対象に加えた。特に高齢者を狙った振り込め詐欺など、「特殊詐欺」の昨年の被害額は489億円と過去最悪となっており、警察幹部は「通信傍受で犯行グループを解明できる」と期待する。

 特殊詐欺事件では、被害者宅に金を受け取りに行く「受け子」や、被害者の振込先の口座から金を引き出す「出し子」を逮捕しても、組織の上部メンバーの名前や顔を知らないことが、捜査の壁になっている。

 通信傍受が可能になれば、〈1〉受け子らの周辺捜査から上部メンバーの電話番号を特定〈2〉上部メンバーの通話を傍受〈3〉その内容から謀議の様子、他の主犯の顔ぶれを割り出す――との手順で、組織の摘発につなげられる。

 また、これまでは傍受の際、携帯電話会社の担当者らの立ち会いが必要だったため、休日や深夜の傍受をしにくい実情があった。だが、新制度は、傍受した音声データを暗号化して改ざんを防ぐ措置を取れば、立ち会いを不要としたため、捜査機関にとって使い勝手が増した。

 一方、弁護士の委員から、「通信の秘密を害する以上、傍受は真にやむを得ない場合に限定すべきだ」との指摘があり、追加された9種類の犯罪については、共犯者らに役割分担がある組織犯罪であることを裁判所に示すことが条件とされた。警察庁幹部は「通信傍受を実施する上で障害になる可能性がある。傍受が急増することにはならないかもしれない」と懸念ものぞかせている。

 

運用次第 検証が重要…
特別部会発足時の検事総長だった笠間治雄弁護士

 可視化の義務付けを全事件に広げるのは、必要性や捜査機関の業務量を考えると妥当ではない。裁判員裁判対象事件と検察独自捜査事件に限定したのは適切だ。特捜部の事件は警察が送致する事件と違い、他機関のチェックが働かないからだ。

 これで無理な取り調べは減るだろうが、自分の構図に合わない証拠が目に入らず、思い込みで捜査する危険性は残る。警察、検察には、虚心坦懐たんかいに証拠と向き合う姿勢が求められる。

 一方、可視化が取り調べの適正さを証明するだけのものとしたことは疑問だ。取り調べの映像を有罪立証のための証拠として扱えるよう規定すべきだった。

 司法取引の導入は評価したい。これまで、容疑者から共犯者の関与を引き出すには説得を重ねるしかなかった。ただ、犯罪組織が「応じるな」と容疑者らに強いることも想定され、効果は未知数だ。積極的にノウハウを蓄積してほしい。

 被害者の氏名や住所を秘匿できる規定を設けるのは理解できなくはないが、心配もある。弁護人が反証のために被害者を特定したいのは当然。秘匿の対象を広げすぎない運用が必要だ。

 激しく対立する意見をまとめた特別部会には敬意を表したい。新制度は運用次第の点が多く、導入後の検証が重要だろう。

 

冤罪の防止 軽視した印象…
元東京高裁部総括判事の
門野博・法政大教授(刑事訴訟法)

 新たな捜査手法がほぼ捜査機関側の要望通りに実現する一方、捜査の適正化のための制度改正は不十分なままに終わった。冤罪えんざい防止という改革の出発点が軽視された印象を受ける。

 可視化が捜査の全過程で義務付けられる仕組みになったのは評価できる。ただ、対象とする事件は、比較的刑が重く、裁判官3人で合議する「法定合議事件」にまで広げるべきだった。最終案は、対象事件を狭く限定しただけでなく、供述が得にくい事件などは除外できるとしており、捜査機関の運用で可視化されない部分が拡大しすぎないよう、注意する必要がある。

 司法取引は、その危うさについてもっと議論が必要だったろう。捜査機関側は「先進諸国は導入済み」とアピールしたが、それらの国でもむしろ、虚偽の供述で冤罪を招きかねない制度だと認識されている。裁判所は、司法取引で得られた供述を信用しない可能性が高く、捜査側のメリットは実は大きくないとも考えられる。

 司法取引と通信傍受はいずれも、「監視社会」を強化する仕組みで、そこまでやっていいという国民的合意が現時点であるかは疑問だ。新制度が、無辜むこの人間を罰しないという刑事司法の最も重要な目的に沿っているのか、厳しくチェックしていく必要がある。

*2014年7月10日読売新聞より抜粋させていただきました

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