郵便不正 厚労省元局長 無罪の公算 大阪地裁 元係長供述調書を却下

読売新聞大阪朝刊 2010年5月27日記事

 郵便不正に絡み、自称障害者団体に偽の証明書を発行したとして、虚偽有印公文書作成・同行使罪に問われた厚生労働省元局長・村木厚子被告(54)の公判で、大阪地裁は26日、村木被告の指示を認めた厚労省元係長らの捜査段階の供述調書について、検察側の証拠請求を却下した。横田信之裁判長は「検事の誘導を受けた可能性が高く、(調書に)元係長の意思に反する内容が書かれた疑いがある」などと決定理由を述べ、取り調べに問題があったことを指摘。検察側が「有罪立証の柱」と位置付けてきた調書が証拠採用されなかったことで、村木被告に無罪が言い渡される公算が大きくなった。〈関連記事35面〉

 横田裁判長はこの日の公判で、村木被告の関与を認めた元係長の上村(かみむら)勉被告(40)ら、8人の検察調書計43通のうち、上村被告や自称障害者団体「凛(りん)の会」元会長・倉沢邦夫被告(74)、元会員(68)らの調書計34通を却下。凛の会元会員・河野克史(ただし)被告(69)ら5人の調書の一部は採用した。

 上村被告は今年2月、村木被告の公判で証人出廷した際、捜査段階の供述を翻し、「証明書発行は独断だった」と証言。公判で「検事が調書の訂正に応じてくれない」などと記した被疑者ノートが証拠採用された。

 横田裁判長は、被疑者ノートの記載が公判証言と一致することなどを挙げ、「調書は検事が想定したストーリーを基に作成した可能性が否定できない」とし、公判証言の方が信用性が高いと判断した。村木被告と共謀したとする倉沢被告の供述についても、「検事から厚労省関係者らの供述を聞かされた後に変遷しており、誘導を受けた可能性が高い」などと指摘した。

 起訴状では、村木被告らは共謀し、2004年6月上旬、偽の障害者団体証明書を作成。倉沢被告らはこれを悪用し、郵便料金を不正に免れた、とされる。

 村木被告に対する論告求刑は6月22日。同29日に弁護側の最終弁論があり、判決は9月の見通し。

 大阪地検の玉井英章・次席検事は「公判中であり、コメントは差し控えたい」としている。

 ◆「検察誘導」厳しく批判(解説)

 大阪地裁の決定は、村木被告の判決の行方を左右する重みを持つ判断だ。

 この結論が導かれた背景には、捜査に対する裁判所の厳しい視線があった。その根拠となったものの一つが、上村被告が拘置中に記した被疑者ノートだ。公判に証人として出廷した上村被告は「検事から『みんなの記憶を総合して多数決で決めるべきだ』と迫られた」と証言。被疑者ノートにも、「多数決で決めるべき。私に任せて」という取り調べ検事の言葉が記されていた。

 検察側は取り調べ検事を証人出廷させ、上村被告の証言を否定したが、それを裏付ける証拠はなく、関係者を取り調べた際に供述内容を記録したメモなどもすべて廃棄されていた。

 横田裁判長はこうした状況から、取り調べに誘導があったと指摘し、「検事の意向に沿う供述をするまで調書を作成しなかった」「他の関係者の供述と整合させて供述調書を作成した」などと批判した。

 特捜部は取り調べのあり方や、メモの保管・開示などの方法についても見直しを迫られている。

(社会部 日比野健吾)

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