郵便不正元局長公判 「予想外だ」検察衝撃 調書却下に天仰ぐ

読売新聞大阪朝刊 2010年5月27日記事

◆弁護団、無罪を確信 
  「予想外だ」。検事はそう言い残して法廷を立ち去った。26日、大阪地裁であった厚生労働省元局長・村木厚子被告(54)の虚偽有印公文書作成事件の公判。立証の柱に据えていた元係長・上村勉被告(40)らの供述調書の証拠請求が却下されたことに、検察側はショックを隠しきれなかった。一方、弁護側は「無罪は動かし難いものになった」と勢いづいた。次官候補の呼び声もあった女性キャリア官僚を巡る事件は、裁判が結審する前に無罪の公算が大きくなる異例の展開となった。

 地裁で最も大きな201号法廷。横田信之裁判長が検察側の証拠請求の多くを却下した瞬間、3人の公判担当の検事の表情は一気に険しくなった。一人は天を仰ぐように顔を上に向け、特捜部で捜査の主任も務めた検事はうつむいて手帳に視線を落とした。

 横田裁判長は約2時間にわたり8人の調書それぞれについて、証拠採否の理由を述べた。「取り調べに誘導があった疑いがある」「担当検事が上司にうその報告をしている」。捜査を批判する言葉が続いた。

 「判断を誤っています」。横田裁判長の説明が終わると、検事の一人が立ち上がって異議を申し立てたが、横田裁判長は陪席の裁判官とわずかに言葉を交わしただけで、棄却した。

 閉廷後、検事は「予想外の事態だ。頭を整理する」と語るのがやっとだった。

 検察当局は公判中を理由に詳しいコメントはしなかったが、動揺は大きい。ある検事は「調書は採用されると思っていたが……。これまでに採用された証拠や公判供述で有罪認定される可能性はなくはないが、正直、厳しいと思う」と、言葉に敗北感をにじませた。

 一方、村木被告の主任弁護人の弘中惇一郎弁護士は閉廷後、大阪司法記者クラブで記者会見。「どのように調書が作られたかまで突っ込んで判断してくれた。これまでまかり通ってきた特捜部のやり方を具体的に厳しく批判しており、高く評価したい」と述べた。

 村木被告は、弁護団を通じて、「裁判所が丁寧に証拠を検討してくださったことに感謝しています。一日も早く無罪が明らかになり、社会復帰できる日が来ることを心から願っております」とのコメントを出した。

 ◆構図の中核否定

 川崎英明・関西学院大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話「検事の調書は証拠能力があると判断されるのが一般的で、公判で採用されない事例は決して多くない。外形的に見れば一部の調書の証拠能力を否定しただけで、他の全証拠から判決が導かれることになるが、今回採用されなかった調書は、検察が描く事件の構図の中核部分にあたる。実質的には無罪判決に大きく近づいた、と言える」

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