郵便不正:村木元局長、無罪の公算大 部下の供述不採用

毎日新聞 2010年5月26日記事

 障害者団体への郵便料金割引制度を悪用した郵便不正事件で、虚偽有印公文書作成・同行使罪に問われた厚生労働省元局長、村木厚子被告(54)=休職中=の第20回公判が26日、大阪地裁であった。横田信之裁判長は、村木被告の事件への関与を認めた厚労省元係長、上村勉被告(40)の捜査段階の供述調書15通すべてを「(大阪地検特捜部の)取り調べに問題がある」として証拠採用せず、捜査を批判した。上村被告は公判では村木被告の関与を否定しており、捜査段階の供述調書は村木被告の有罪を立証する上で重要だった。立証の柱が「証拠能力なし」と判断され、村木被告は無罪判決を言い渡される公算が大きくなった。

 この事件では、実体のない障害者団体「凜(りん)の会」に郵便料金割引制度の適用を認める偽証明書を作成したとして、4人が起訴された。

 横田裁判長は「証明書の作成は自分1人でやったと伝えたのに、村木被告から指示された内容の調書を検事がでっち上げた」とする上村被告の公判証言について、「(上村被告が拘置中に記載していた)被疑者ノートの内容は公判証言に合致する。検事は村木被告関与のストーリーをあらかじめ抱いていた」と指摘。さらに、上村被告が自身の犯行を認めている点にも触れ、「虚偽の公判証言をする理由が見当たらない」と公判証言が信用できると判断した。取り調べ段階の供述調書に特信性(高度な信用性)を認めず、証拠採用を却下した。

 また上村被告のほか、横田裁判長が先月、一部無罪の判決(検察側が控訴)を言い渡した「凜の会」代表、倉沢邦夫被告(74)ら2人の調書についても「検察官による誘導があった」などとして証拠採用を却下した。

 検察側は、上村被告や塩田幸雄・厚労省元部長(58)ら8証人の捜査段階の検察官調書計43通について、「公判証言と内容が食い違うが、調書に特信性がある」とし、証拠として採用するよう地裁に請求していた。横田裁判長は、塩田元部長ら計5人の調書9通については「証拠能力までは否定できない」として証拠採用した。

 村木被告の公判は6月22日に検察側が論告求刑をし、同29日に弁護側が最終弁論をして結審する予定。判決は9月10日前後になる見通し。【日野行介】

 【ことば】郵便不正・偽証明書事件

 実体のない「凜の会」を障害者団体と認める厚生労働省の証明書を偽造したとして、村木厚子・元同省局長ら4人が大阪地検特捜部に起訴された。特捜部は「証明書の偽造は村木被告に指示された」とする同省元係長、上村勉被告の捜査段階の供述を立証の柱に据えたが、上村被告は裁判で「自分1人でやった」と主張を一変。凜の会代表の倉沢邦夫被告も捜査段階では「村木被告に証明書を依頼した」と供述し、公判では「村木被告に依頼はしていない」と翻した。

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