厚労省文書偽造 村木元局長公判
供述調書証拠扱い 来月判断 「不採用なら無罪濃厚」

2010年4月19日

神戸新聞4月19日付夕刊記事より

厚生労働省の元局長村木厚子被告(54)が虚偽有印公文書作成・同行使罪に問われた文書偽造事件の裁判で、大阪地裁(横田信之裁判長)は5月26日、検察側が求めていた厚労省関係者らの供述調書の証拠採用を認めるかどうか、判断を示す。すでに計17人の証人尋問と被告人質問が終了。供述調書は今や検察側の主張を支える唯一最大の柱で、却下の場合、9月上旬とみられる判決を前に無罪が濃厚となる。厚労省側証人が次々に調書の内容を否定する異例の展開をたどった裁判は重大な局面を迎えそうだ。

証拠採否の鍵となるのは、検察の取り調べの正当性だ。これまで18回あった公判では、捜査段階で村木被告の関与を認めたとされる厚労省関係者らが証人として出廷し、次々と自身の調書の内容を否定。序盤から検察側の構図が崩れた。

法廷では「検事から『特捜なめるなよ』と何度も言われ、調書に署名した」「『ほかの同僚が認めている』と言われた」など、取り調べの内幕をさらすような証言が相次ぎ、証人出廷した民主党の石井一参院議員も「何か政治的な意図があるのか」と捜査に疑問を示した。

郵便制度悪用に絡む事件の構図が崩れ、窮地に立った検察側は調書の信用性回復に全力を傾注。取り調べを担当した大阪地検特捜部の検事ら6人を証人として投入した。「大声は出したが、暴行や脅迫はない」「元部下は泣いて被告の指示を認めた」など、取り調べの正当性を強調する戦術に打って出た。

ところが狙いとは裏腹に、捜査のほころびを指摘される場面もしばしば。証人が取り調べで村木被告の関与を否定したのにその部分の調書がないことが判明した際は、裁判官が「なぜ作らなかったのか。そういうものなのか」と厳しく詰め寄った。

検事ら6人全員が取り調べ状況を記録したメモを廃棄していたことも発覚。「変な疑いが起こるとは思わなかったのか」と不信感をあらわにする裁判官に、検察側は焦りの色を隠せなかった。

刑事裁判では供述調書に高い信用性を認めることが多い。だが裁判員裁判が始まり、法廷での肉声を重視する流れは強まっている。ある検察幹部は「1通も採用されなかったら無罪だ」と危機感を募らせる。

調書は証拠採用されるのか―。元最高検事の土本武司筑波大名誉教授は「特捜部は自分たちが描いた構図に当てはめるような調書の作り方をすることが多いが、暴行や脅迫がないと認められれば採用されることが多い」と指摘する。

土本氏は、今回は証拠採用されるケースと予想するが「裁判官は法廷での証言を信用する傾向が強く、調書と証言を比べた上で無罪にする可能性は十分ある」と検察側の有罪立証には厳しい見方を示している。

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