厚子さん、第17回公判傍聴記 by ナミねぇ

2010年4月15日

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4月14日(水)寒の戻り、というにはあまりに寒い朝。地方によっては「寒波襲来」とか。
つい先日、真夏日さえあったのに、今年の天候はホンマに異常やっ!と呟きながら大阪地裁に到着。

厚子さん第17回公判。今日の午後はいよいよ厚子さん自身が証言台に立たれることもあり、
厚子さんのお嬢さん2人や、厚子さんを尊敬する厚労省時代の後輩たち数名も傍聴に来られている。今日の厚子さんは、くっきりした縦ストライプのブラウスにダブルのスーツ姿。襟元に着けたオレンジ色のスカーフが濃いグレーのスーツに生えて、表情が明るく見える。
とても落ち着いた雰囲気で入廷して来られたので、傍聴席に穏やかな雰囲気が広がった。

10時開廷。午前中は検察側証人として、取調べを担当した高橋副検事と牧野副検事が出廷したが、二人とも、検事側からの尋問に対しては終始前を見つめて淡々と答える。
結論から言えば、二人の取調官は、常に前田主任検事の指示を仰ぎながら取調べを行った、というか前田主任検事が想定した結論に沿って取調べを進めたことがよく分かる証言だった。

印象的やったのは、高橋副検事が信岡弁護士に「前田主任検事からの指示は・・」と聞かれた時にチラッと検事側席の方を向いたので、すかさず信岡弁護士から「主任検事が居るとプレッシャーを感じますか?」と突っ込まれ「い、いえ・・・」と俯いたこと。
そして二人目の証言者である牧野副検事は、検事側尋問では一度も検事席を見ることなく証言し、反対に弁護側尋問になると身体を弁護側に向けて、身振り手振りを交えて答えるその様子から、証言者交代の僅かな時間にも上司からの指示が飛んでいたことが伺われた。

高橋検事は、取調べに対して「記憶がない」と一貫して否認し続ける田村元補佐と(厚労省職員)K氏の否認調書を一通も作成して居ないのだが、このことについて弁護側から問われると「本当は記憶に残っているのに(わざと)隠しているのだから、思い出すまで調書を作成する必要は無い」「否認調書を作成すると、嘘をついても良いのだと思わせることになる」と答える。「証言の変遷を記録することを必要とは思わないのか」と河津弁護士が聞くと「思わない。前田主任に報告したら、不要だ、思い出した部分だけ調書にしといてくれ、と言われた」と答え、取調べ検察官たちは前田主任検事の方針に粛々と従って取調べを行ったことが、傍聴席にストレート伝わった。

「6月7−8日に作成された調書で、多くの証人から一斉に『自立支援法を成立させるため』という文言が出てくるが、これも主任の指示か?」と弘中弁護士が聞くと「指示はなかった。証人が自発的に喋った。」と言いながら「主任の指示で調書にした」と答える高橋検事。

公判終了後の記者会見で弘中弁護士が明らかにしたのだが、田村補佐、北村補佐が6月7日、塩田元部長、江波戸室長、村松係長、N氏が8日に、「自立支援法を通すために」という調書を、まさに一斉にとられているのだ。

「主任の指示というのは会議などで出されるのか、一対一か?」と弘中弁護士が聞く。
「一対一です。」と答える高橋検事。 「指示はどのように受けるのか?」「取調べが終わってからだけでなく、休憩時間などにも受ける。自分は東京、主任は大阪地検に居るので電話で指示を受ける。」と、忠実に職務に励んでいることを強調する高橋検事。

う〜む、検察という組織は、取調べ内容などを組織全体で共有し、確認や評価、批判をしあいながら捜査を進めるのかと思ってたけど、違うんやな!! 主任検事がストーリを創ったら 部下たちは疑うこと無く(疑うことを許されず!?)ストーリに沿って捜査を進めるんや、ということを痛感した。

また取調べでは、すでに取られた別の被疑者の供述調書(否認供述は一切書かれていない)を手元に置いて「誰それはこう言ってるぞ」と迫るのだが、その理由を高橋検事は「他の取調官以上の調書を取るよう、主任から指示されてのこと」と証言。取調官どうしを競わせる手法が使われていると分かる。

「田村補佐の取調べ前に見た資料は何か?」と弘中弁護士が聞く。「それまでの供述調書や捜査報告書などだが、それが資料の全てかどうか分からない。しかし・・・主任から回って来たものは全て見る」と応える高橋検事。
高橋検事が、証人席でただ一度だけ前田主任検事のほうをチラ見したのは、プレッシャーからなのか、忠誠心を認めてもらいたいためなのか・・・いずれにしても「主任検事の判断が、絶対遵守すべき捜査基準なんや!」と、強烈に伝わってくる。

裁判官から「取調べメモ」の破棄について糺された時は、高橋検事も(今日の二人目の証人である)牧野検事も、すでに出廷した取調べ検察官たちと同じく「不要だから」と言い切った。高橋検事は「調書は、どの部分を書き込むか主任からの指示を受けたものだが、メモは自分の走り書きなので役立たない」と”補足”までしてみせる。そして「誰それから、こういう供述を得ているよ、というのは圧力ではないのか?」と裁判官に聞かれると「ちょっと・・・意味が分かりません。」と、本当に戸惑った様子を見せるのだった。

牧野検事は、記者会見で弘中弁護士から「便利屋」と評されたほど、主任検事の指示によって日替わりで何人もの取調べに当たってるのだが、弁護側の尋問に対しても、裁判官からの尋問にも答えが常にしどろもどろで、時には検察官席に目で助けを求める様子を見せ、裁判官から注意を受ける一幕も。その検察官側には、前田主任検事が奥まった席からガンを飛ばしているというシチュエーション。

二人の副検事の尋問終了後、検察側により河野、倉沢、塩田、木村の4氏の調書が証拠請求された。4氏については、検察官調書と食い違う証言をした重要証人だからという理由だが、「自分に都合の良いところだけを調書にしておきながら、今になって覆した証人の調書を証拠請求するのはおかしい!」と弘中弁護士が激しく抗議して攻防の結果、「証拠物」として採用された。調書がえぇかげんで一方的なものやということは、すでに明確になっているけど、裁判が長引くのが心配やな。

昼休み終了後、なぜかいきなり法廷入り口でボディチェックが始まった。理由の説明は無し。江川紹子さんはじめ傍聴者がすべてチェックを受けたそうやけど、チェックに気付かないで「うっす!」などと言いながら、キャリーバックを引っ張って傍聴席に走り込んだ私は、なぜかチェックを受けずじまい。江川さんに呆れられてしまった。

そしていよいよ、厚子さんが証言台へ。
弘中弁護士から「公務員としての思い」を問われ、「大学の時の恩師から、公務員は国民の願いを法律や制度にして行く翻訳者だ、と言われた言葉を最も大切にしている。」と、少し緊張が感じられるものの、いつもの穏やかな表情を浮かべ、明瞭な声で尋問に応える厚子さん。

「女性、高齢者など、日本において遅れている分野の仕事にはやりがいがある。この分野は民間の人も大変努力されているので、信頼に応えたいと思いながら仕事を続けて来た。平成9年に旧労働省で障害者雇用対策課長として、初めて障害問題に取り組んだ。『働くこと』は、障害の有無にかかわりなく人間の尊厳にとって、とても大切な問題であり、障害があっても働けることが当たり前の社会にしなければならないと思った。女性も障害者も、能力が高くても社会的偏見などで働けない場合が多く、よく似た問題だと思っていた。労働省で障害者に関わる課は一つしかないので、ここだけか・・・と思っていたら、厚労省になって改めて福祉分野で(障害者問題に)携わることができた。」
厚子さんの声が静かに法廷内に広がる。

そう・・・プロップ・ステーションは、厚子さんが障害者雇用対策課長に就任された年に、草の根のボランティアグループから厚生大臣認可の社会福祉法人となり、それからずっと「障害者(チャレンジド)が、当たり前に働ける日本」を目指して、厚子さんと私は二人三脚で歩んで来たのだ。拙著「プロップ・ステーションの挑戦〜チャレンジドが社会を変える〜(筑摩書房)」を厚子さんに手渡し「これ読んでくれへん」と言うと、一日で読み終え「ナミねぇ、これで私は上司と闘えるわ」とニッコリ微笑みながら言われたのを、昨日のことのように思い出す。「女問題も、障害者が働きにくいのも根っこはおんなじ、日本システムの課題だからね。それを変えなくっちゃ!」と、朗らかに言った厚子さんに「わぁ、官僚にもこんな人が居てはるんや。私ら同士になれるかも!」と強く感じた、あの日。

その厚子さんが、検察の創作ストーリという罠にはまって5ヶ月間も勾留され、公務員の仕事を奪われ、今、裁判を戦っている。こんな理不尽なことが有ってえぇもんか!!
いやいや、怒ってる場合ちゃう。厚子さんが冷静に証言してはるのに、私が血ぃのぼってどないすんねん。どぅどぅどぅ・・・と傍聴席で自分を諌める。

「それが、今回の福祉企画課長ですね。」弘中弁護士の問い掛けが続く。
「はい、もう一度やれる!と嬉しかったです。」と厚子さん。
「でも、支援費で予算が不足し、障害者団体が厚労省を取り巻く状況の中で、自分にやれるかな、やらねばならない、という思いでいっぱいでした。」

支援費制度の導入で、行政が障害者の施設やサービスを規定する制度から、障害者自身がきちんと契約してサービスを得る制度に転換したものの、財政面が脆弱で「補助金の枠」を超えると地方自治体が持ち出すか、サービスを止めるかという状況に陥ってしまい、年度当初は予算を無理に圧縮したり(高齢施策などから)流用したりしたが限界が来たことから、制度の見直しが必要になった・・・という経緯を厚子さんが簡潔に説明する。

そこで、高齢者の介護保険制度の年齢制限をなくし、保険料を支払うことで若い人も障害を負ったら使えるという方向で行けないかということを介護保険の審議会にかけたが、なかなか進展せず、16年8月ごろから新たな制度設計をしようということになり、10月にグランドデザインをまとめた。
サービスの選択、大型(収容型)施設ではなく街の中で暮らす、働くことを当たり前にして行く、国民全体で支える、など支援費の良いところも取り入れ、11月頃に「介護保険を使わずにやる」ということで財務省も説得できた時、自立支援法の骨格が固まった。そして
17年1月に始まる国会に法案提出する、という経過をたどりました。

厚子さんの説明を聞いて弘中弁護士が「すると自立支援法は、16年の夏から暮れにまとまった訳ですね」と質問する。「そうです」と厚子さん。
「(この事件は、自立支援法を通すため、石井議員からの要請を断り切れなくて起きたというのが検察のストーリーだが)それなら16年6月に、自立支援法が理由でということは・・・」「あり得ません」厚子さんがキッパリ答える。
「インターネットなどで審議会関連を調べると、経緯がすべて確認できます。」

その後、同僚から「メモ魔」と言われる厚子さんの手帳や、日々細かく綴ったノートの(手書きの)内容をパソコンに移した資料などを元に、弘中弁護士が16年6月1日から10日間の、厚子さんのスケジュールを法廷内のディスプレイに映し出して確認する。
まさに分刻みで会議、打合せ、委員会、与野党議員への説明、関係団体回り、などなどなどがビッシリ続いており、「アポなしで倉澤氏が訪れて、厚子さんから手渡しで偽造証明書を受け取ること」など「やれるもんならやってみなはれ状態」やったことが明らかにされた。

また厚子さんが上村係長に直接指示したという点については「直属の上司の頭越しに、私が係長に指示するような失礼なことは、あり得ない。また交付や通達は通常郵送される。石井議員についてはお名前とお顔は存じ上げていたが、話をしたことは一度も無かったし、石井議員と厚労省との関わり自体も無かった。」と述べた。

逮捕の状況については「遠藤検事から大阪地検に前日出頭要請があった。倉澤氏からの依頼や、上司から指示を受けて部下に自分が指示しただろうと、何度も何度も聞かれたが、記憶にも無いし、覚えてもいないので話が噛み合わなかった。」弘中弁護士が「逮捕は遠藤弁護士から告げられたのか?」と聞く。「知らないことを、知りませんと言って逮捕されるなんて、なんか非常事態のような気持ちで・・・手続き説明では、10日間の勾留が1回更新されて20日間。それから起訴するかどうか決まるが、あなたは起訴されます、と言われました。決まってるなら20日間は何なんだ、と思いました。」と、初めて厚子さんの声が悔しそうに震える。

「真相解明が検察の役割のはずなのに、検察がそんな方針ならどうすれば良いんだろうと、思いました。」

「調書を拒否したことは?」「ありました。長い調書を持ってこられたけど、塩田氏や上村氏への悪口などがいっぱい書かれていて、これは自分の人格と違う!と拒否しました。」
「その調書は面前口授ではなく(遠藤検事が)出来上がったもの持ち込んで来たんですか?」と弘中弁護士。「はい。立派な否認調書ですよ、どこが気に入らないのか言いなさい、と言われて、全く別人格の内容なので一部だけ直せるものではない、と答えました。すると検事が『これは検事の作文です。書きなおします』と言って、作り直されました。でも納得できない部分があったので、明日弁護士に相談させて下さい、と言うと、自分は今日だけで、明日は検事が変わる、と言われたので、徹底的に直してもらって(否認調書に)サインしました。」と、厚子さんが話す。

遠藤検事の直した調書にサインしたことについて「明日は人が代わると言われたことと、逮捕前に女性事務官たちの雑談から、失礼な言い方だけど、割とましな人と思ったので・・・」と厚子さんが言うと、傍聴席からクスクス笑いが起きる。「でも、二人でかなりやり取りして調書を書き直し(私が)サインします、というと『決済を取る』と言って出ていかれたので、もし上司がダメと言ったらどうするの・・・と、すごく失望しました。」

「罰則などについては何か聞きましたか」と弘中弁護士。
「執行猶予がつくだろう、たいした罪ではない、と言われ、非常に腹が立ちました。私にとっては・・・・」厚子さんの声に涙がまじり、嗚咽となる。
「公務員としてやってきた30年間の信頼を、全て失うのです・・・・」
厚子さんの小柄で細い背中が震え続ける。隣の席で傍聴している二人のお嬢さんも目を真っ赤にしている。
「今日はこれで。」裁判長が、閉廷を告げた。

厚子さんの証言は、明日も続く。

<文責:ナミねぇ>

 

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