江川紹子さんの、厚子さん第15回公判傍聴記

ジャーナリスト江川紹子さんの、厚子さん第15回公判傍聴記です。前回に引き続き江川さんの了解を戴き、ツイッターを時系列にまとめました。

2010年3月25日

 

☆ツイッターは140文字以内でコメントを送るシステムです。
ナミねぇのツイッター
江川紹子さんのツイッター

大阪地裁村木公判で、村木厚子被告の上司だった塩田部長が、自民党の国会議員から金を受け取ったことが明らかになりました。ちょうど日歯連の問題がクローズアップされていた時期。取り調べ検事は、「贈収賄の可能性もある」として取り調べを行ったと証言。

調書に書かれた自民党議員とはいわゆる厚生族の「キムラヨシオ氏」とのこと。東京で政界の取材をされているジャーナリストは、ぜひ、真偽の確認を!事実なら、なぜ自民党議員が、この時期に厚労省幹部に現金を?

取り調べで、民主党の石井議員の働きかけがあったことを認めた塩田部長が実は自民党議員から金をもらっていたほか、業者からも金品を受け取っていたことも判明。塩田部長は村木課長(当時)に、公的証明書の指示したとされる人物。なぜ彼は本件でも逮捕されず、贈収賄にも問われない?

話が後先になりましたが、今日の証人は前回に続いて塩田部長ら4人の重要証人の取り調べを担当した林谷検事。今日は弁護側の反対尋問。林谷検事は、取り調べの時のメモを廃棄。その点について弁護人が「取り調べメモは証拠開示の対象になるということは分かっていましたね」と鋭く追及

同検事は、廃棄したメモが本来証拠開示の対象になることは知っていた、と認めた。弁護人はさらに、同検事が取り調べた凜の会の河野容疑者(当時)の弁護人が、捜査が行われている当時に文書ででメモを廃棄しないように求めていたことも指摘。同検事がこの文書を読んでいることも確認

にもかかわらず、メモを廃棄したことについて「証拠隠滅に当たるとは考えなかったのか」と弁護人、厳しく追及。検事は「考えなかった」。弁護人「不安は?」検事「なかった」弁護人「それは検事という立場だからか」検事「私がいらなくなったから捨てただけ」

メモが破棄されたのは、公判前準備手続きが始まった頃。しかも、この検事だけでなく、軒並み取り調べメモは廃棄されているとのこと。検察側の組織的証拠隠滅の可能性も?あるいは公的文書の私物化?いずれにしろ、大阪地検の対応は問題

検事に「特捜をなめるのか。一泊でも2泊でもしていくか」と脅されたという証言を否定。「勾留が長くなるかどうかはあんた次第だ」と威嚇されたという証言も否定。河野容疑者の弁護人から取り調べの録音録画の申し入れもあったが、それを読んだ後でも、検事は録音録画はしていない

塩田部長の取り調べについて。検事は、本件に塩田部長がどう関与したのか知らないで調べを始めたと、証言。それなのに「(塩田氏は)びくびくして、『私も逮捕されるんですか』と言っていた」と。初日に4通の調書を作成し、その2通目に、自民党議員から金をもらった件について記載。

弁護人は、「石井議員に公的証明書を作ったという話を塩田さんが否定した後に、贈収賄っぽい話を調べている。相手は萎縮するとか、強く自分の意見を主張できなくなるのではないか」と問う。検事が「そりゃ、気持ち的には萎縮するでしょう。金品もらって萎縮しない方がおかしい」

検事が思うような供述がとれない時に、自分も逮捕されるのではないかとビクビクしている相手の弱みを付いて、検察側に迎合するようにし向けたのではないか、と印象づけるやりとり。塩田部長は被疑者としての取り調べを受けたが、起訴されずにすんだ。

午後の公判:林谷検事への弁護側反対尋問の続き。検察側は厚労省が障害者自立支援法を通すために野党議員からの要請で、実態のない障害者団体に公的証明書を偽造した、という筋書きを立てている。その根拠となった厚労省関係者の検察官調書について弘仲主任弁護人が聞く。

「塩田部長に自立支援法について聞いた調書を作った目的は?」林谷「どういうことで政治家に気をつかわなけきゃならないのかという、当時の背景を聞いた」弁護人「本件の動機について聞いたのか」「林谷「ではなくて背景事情。一般論として官僚がどう動くのか聞いた」

弁護人「主任検事からこの点を聞けと指示があったのか」林谷「それはない」弁護人「ところが、他の厚労省関係者も一斉にこの時期に自立支援法について調書で語っている」。弁護人は6人の検事が6人の厚労省関係者が、2日の間に同趣旨のことを調書で語っていると指摘。

弁護人「これが偶然というのか」と追及すると、林谷検事「必要なら調書を取ってくれという指示くらいはあったかもしれない」と証言をぼかす。弁護人は「これが動機だというので、一斉に調書を取れと指示があったのではないか」と追及。林谷「そういうことはない」と否定

続いて、裁判官が尋問。裁判官の関心は、林谷検事の取り調べ態度と、取り調べメモの廃棄問題に集中。左陪席裁判官は、塩田部長に対して、林谷検事が容疑事実を告げず、「なぜ呼ばれたのか分かるか」とただしたのはなぜか、と聞く。林谷「(塩田は)相当ビビっていたので」と。

左陪席は、塩田部長の天下り先で業者からもらった金品などが押収され、収賄の疑いも出てきたことに関連して、「本人は何の件で調べられているのか分からないかもしれないですね」と問う。林谷検事、それを認める。すると左陪席裁判官は……

「なのに『何で呼ばれているか分かりますか』なんて聞いたら、相手は余計にビビるかもしれませんね」と。さらに、柱谷検事が調書内容を被疑者に確認する方法についても確認。

林谷検事は、被疑者を座らせて調書を黙読させ、自分はその右後ろに近接して立ち、右手で一行一行指し示しながら音読するという方法を取っていたと証言。体格のいい検事が後ろから覆い被さるようにする様子が、法廷で再現された。被疑者にはかなりの圧迫感がありそう。裁判官は……

「いつもあのスタイルなんですか」と怪訝そうな顔で、素朴な疑問を呈していた。続いて右陪席裁判官。メモを廃棄したことについて「メモがあれば調書の信用性が証明されるのではないか」と問う。林谷「取り調べのためのメモで信用性を証明するためのメモじゃない」と弁明

裁判官は重ねて「調書の内容がメモと同じであれば、信用性は高まりますよね」と確認。裁判官のメモについての追及に、林谷検事は「そう言っていただけるなら、残す意味はあるかもしれない」などと困惑気味。裁判官が、ここまで検事を突っ込むのは珍しい。

そして裁判長。立ち会い事務官はメモを作っていないのか、主任検事に提出する報告書を作ってないのか、と聞くも、林谷検事はいずれも「作っていない」と。裁判長は取り調べをしても調書を作らない日が何日も続いていることについて「意図する供述が出ないので作らなかったのでは」と

林谷検事は、以前やはり大阪地検特捜部が捜査をした生駒市前市長らの汚職事件でも被疑者ら2人を取り調べ、いずれも公判で取り調べ調書の信用性が問題となって、証人尋問を受けたことがある。裁判長はその時のことについて「やはりメモについてのやりとりが弁護人とあったか」と聞く

「はい」と林谷検事。「その事件ではメモはどうしたのか」と裁判長。「廃棄してました」と林谷検事。裁判長は「その時も関係者とあなたとの間で供述が食い違ったんですね」と確認。林谷は「はい」と認める。そういう経験があるのに、今回もメモを廃棄したことに裁判所は強い関心を示す

続いて3人目の取り調べ検察官は、公的証明書偽造の実行犯上村係長の取り調べを行った国井検事。長髪、細身。検察側の主尋問で、国井検事もまた、取り調べメモを廃棄していることが明らかになった。廃棄に理由を聞かれ「必要ないから」と

国井検事、よく言えばクールなエリート、悪く言えば冷たく高飛車な感じ。上村係長は最初単独犯だと自白した。しかし、上村係長が公的証明書の前に稟議書の偽造を行ったことを聞いても否定し、現物を突きつけ、上村係長の署名を示して、ようやく認めたことを挙げ、「ことさらに虚偽を…

供述しているんだろうと思った、とのこと。上村係長が偽造した公的証明書を保存したフロッピーを自宅に隠した場所についても、すぐに本当のことを言わなかったなど、彼がなかなか真実を語らない人物だったと印象づける証言が続く

その後も厚労省関係者についてなかなか供述せず、ようやく村木課長の指示を認めた後も、詳細を聞いても「もう少し時間をください」といってなかなか語らなかった、と国井検事。厚労省ぐるみとなると、ノンキャリの同僚たちも肩身の狭い思いをするので上村は組織擁護をしたと国井検事

その上村に対し「村木さんも本当のことを話せばすっきりする。悪い人じゃないし、いずれ本当のことを話してくれるでしょう。一緒に村木さんを信じましょう」と言ったら、上村は「分かりました」と納得してくれた、と国井検事。ホンマカイナ?

泣きながら、時に絞り出すような声で国井検事に供述を押しつけられた状況を訴えた上村に対し、時に薄笑いを浮かべているのではないかと思えるくらいの感じで、よく言えば落ち着いた、悪く言えば上から目線の態度で供述を続ける国井検事。次回、弁護人や裁判官は何を尋ねるのだろうか

取り調べ検事の証人尋問は、通常、調書を証拠採用するための儀式に過ぎず、裁判を傍聴していて最も退屈な時間。被告人が無理な取り調べを訴えて検事が呼ばれることが多いのだが、検事対被告人となると、裁判官もおざなりの質問しかせずに、検事の言い分を認めてしまうことが多いからだ

しかし、この村木公判に限っては、検事尋問の中で、検察側の問題点や疑問点が浮かび上がっている。特に、裁判所がメモの廃棄や検事の取り調べ態度、捜査の手抜きなどについて次々に鋭い、あるいは素朴な(つまり普通の人が疑問に思うような)質問を次々に発し、検察側を困惑させている

今までだったら、たいした苦労もせずに裁判官は検察側の言うことを信用してくれたのに、今回は違う…と検察側が戸惑っている有様が、見ていてありあり。それは、被一人ではなく、検察側が出してきた証人が軒並み調書と異なる証言をするのに、裁判所の疑問を持ち始めているからだろう

焦った検察側は、新たな証人申請や証拠申請をしてきた。たとえば、すでに尋問を終えている凜の会の倉沢代表をもう一度呼びたいと言い出した。また、以前は無視していた調書類も証拠申請。石井議員の証言の時、手帳を示そうとしたら、検察官ややっきになって……

「公判前整理手続きで出されてないものを出すなんて、手続きを形骸化させる」と反対してきた。今回の検察側の対応こそ、公判前整理手続きを形骸化させるのではないか?なりふり構わずの態度に、検察側の焦りが伺える

大阪のNHKは結構長く、メモ問題をやってました。けど、関西ローカルなんですよね

ちなみに、この事件の主任検事だった前田検事と取り調べた4人に公判廷で調書を否定された林谷検事は、この公的証明書偽造事件の捜査の後、東京に出張して、民主党の小沢氏を巡る、いわゆる西松事件の捜査の応援をしたそうです

ページの先頭へ戻る