NEW MEDIA 2000年6月号 (2000年5月1日発売)の続き

【特別鼎談】

成毛さん・阿多さんとナミねぇのスーパー鼎談

話は弾んで、『ニューメディア』誌に掲載された話の後もさらに続きました。ここに続きを掲載します。

「障害者」で区別は非合理

竹中

何か目的を達成する時に、一番重要なのは教育ですね。さっき阿多さんが、「やる気を高めるには、お金をあげるよりも教育への支援が大事」とおっしゃいましたけど、いまプロップのセミナーを支援してくださっているのは、すべてマイクロソフトを初めとした企業なんです。ハードやソフトをチャレンジドに配るんじゃなくて、プロップに寄付してセミナーを支援する。

そこで勉強した人は、次のステップに進むために必要なものは自分で買うようになります。だから、その前の勉強する場を広げることが大事ということで、ご支援をいただいています。そこが非常に重要なポイントだと思います。

成毛

障害を持った人も、人それぞれですよね。障害を持っていない人は障害を持っている人を「障害者」と一括りにして終わりにしてしまうけれど、これはヘンですよ。健常者にいい人もいれば悪い人もいるように、障害者にもいい人もいれば悪い人もいる。障害の有無で判断するより、いい人かどうか、やる気がある人かどうかで判断してつきあったほうが、はるかにいい。わかりやすいと思います。

マイクロソフトでは、法定雇用率の障害者を雇用することに関しては、当然、何とか達成できるように努力しています。ただ、ぼくは障害者を区別してはいけないと思っています。たとえば、細田くんは全盲ですけど、平均的な社員より間違いなく仕事ができる人間です。そういう意味で、障害によって区別するのはおかしいと思っているんです。

ただ、そうは言っても、障害者には教育の機会が十分でないという問題がありますから、それを考えないで「障害者を区別しない」と言ったら、わがままになります。ですから、法定雇用率の達成にも努力するわけです。

細田くんや森くんに来てもらって良かったのは、他の社員たちが「障害者だからと言ってヘンに区別する必要はないんだ」とわかったことですね。障害があっても自分より仕事ができる人間を目の当たりにしたわけですから。

納税世界一のチャレンジドは

成毛

それと、障害を持っている人たちへの一般にイメージが、どうも車椅子の人とか脳性麻痺の人に偏ってますよね。学習障害とか自閉症とか、いままで見えなかった障害を持つ人がかなりいる。もっとそういう人に光が当たらなければいけない。

「チャレンジドを納税者に」という話に戻ると、いま世界で一番税金を払っているチャレンジドは誰だか知っていますか? その人は自分でも障害者であると公表していて、去年の納税額は10億円を越えているかも知れません。

竹中

誰やろ・・・・・・?

成毛

俳優のトム・クルーズです。彼は読字障害を持っていて、セリフは耳で聞かないと覚えられないんです。学習障害の一種で、文字を見ることはできても文字として認識できないんです。学習障害には、耳は聞こえても言葉として認識できない人もいるそうですけど、とにかくトム・クルーズはそういう障害を持っていて、そのことを公表して活躍している。

障害を持っていても才能を発揮できるという意味では、プロップの吉田幾俊さんなんかも非常に可能性を持っていると思いますね。もっとも彼は、映画俳優よりも吉本芸人のほうが近いかも知れませんが(笑)。

竹中

実はこの前、吉本の人と飲んで、えらく気に入られていました(笑)。

プロップでは「あんたら、笑いを取れへんかったら、プロップにおれへんで」とか言うものですから、けっこう皆、笑いの感度が磨かれているんです。吉田くんもそう。

吉田くんの場合、初めてプロップに来た時は、脳性麻痺の言語障害が重くて、周りの人はほとんど彼の言っていることを聞き取れなかったんです。ところが、筆だけでは表現できないとパソコンで描くようになって、どんどんすごい絵を描くようになるにつれて、しゃべくりもどんどん滑らかなになっていったんですよ。不思議なものですよね。

最近では、私と高座に上がって掛け合い漫才みたいに話をする時も、会場の笑いが話にかぶさらないように、ちゃんと間を取って話すようになりました。もう本当に芸人になってきました(笑)。

競争の時代こそ可能性の時代

竹中

とにかく、人は本当に自分にできることと出会った時、すごく化ける。彼に限らず、そういう人を私は何人も見てきたので、これからも一人でも二人でも多く、そういう人を生み出して行けたらいいと思っているんです。そういう人がどんどん生まれることで、「オレもああなりたい」「私もこうなりたい」という人が出てくると思うんです。

最初に前例のないことをする人は大変ですけど、その人が道を切り開いて成功のプロセスが見えてくると、「じゃあ、私もあのプロセスを踏んで」と続く人がたくさん出てきます。皆が血の汗を流す必要はないので、それはそれでいいと思います。でも、プロップでがんばっている人たちは、血の汗を流してでも自分の道を切り開きたいという人たちですから、とてもおもしろいですよね。

成毛

おもしろい時代だとも思います。経済の世界では、First come, all takeという言葉があって、要するに、最初に進出していかに早くその事業を展開するかが大事なんですね。それができると、Winner takes allといって、最初に進出した人が全部その市場を取っちゃう。市場主義では、いろいろな分野でそういうことが起こってしまうんですね。マイクロソフトだけではなくて。

だから、市場主義が行き過ぎると、一番最初にサファリに入ってきたライオンが、そこにいるシマウマを全部食べてしまうみたいなイメージの社会になってしまう。それでいいというわけではないんですけど、いまの日本はそっちに向かっているので、その意味でも、チャレンジドの皆さんも何かをやるなら、早く始めたほうがいいですね。

竹中

そうであれば、なおのこと、チャレンジドの自己研鑽の機会がもっと必要だと思います。もし自己研鑽の機会がチャレンジドにも平等に開かれていたら、作業所で全員が箱折り、全員がクッキー作りということにはならないと思います。

もちろん、あれを否定するわけではありません。少なくともそういう場はあるということで、本人や親御さんたちを支えてきたわけですから。しかし、これからは一人一人に自己研鑽の機会があって、全員で単純作業の世界から、それぞれの能力に応じたの仕事へと脱却できるようにしていかなければいけない。

で、どれだけ働くかも、それぞれに身の丈に合った働き方でいいと思うんです。「体調のコントロールを考えると1日3時間がいいところ」という人は、3時間働けばいい。無理をしてはいけない。いままでは、そういう働き方を認めないから「障害者は働けない」ということになっていたんですけど、これからはそれではいけないと思うんです。

人の行かないところへ

竹中

ところで、成毛さんはネパールから帰って来られたばかりだそうですね。何でまたネパールに?

成毛

けっこう世界の妙なところを旅行するのを趣味にしていまして、去年は中国の新疆ウイグル自治区、その前はケニア、モンゴルに行きました。われわれが勝手に「文明国」と呼んでいる国々の人たちとは日常生活が全然違う人たちに接することは、世界を広く知る上で必要なことかなと思いまして。

竹中

阿多さんも社長になられたら、ときどき休みを取ってネパールとかに行きたいと思いますか(笑)。

阿多

そんな休みが取れるのかどうか、なってみないとわからないですけど、気持ちはありますね。成毛さんがいろんなところに行かれて見聞を広められて、「これがこの会社にとって正しい」というディレクションをされて、私はそれを受けて仕事をしてきたわけですけど、今度は自分でどっちに舵を切るのか決めなければいけない。成毛さんが行ったようなところには全然行ったことがないので、そういう方面の見聞も広めなければいけないかなという気はしています。

竹中

成毛さんも、そういうことを考えて、いろんなところへ? でも、実は趣味なんじゃないですか(笑)。

成毛

ええ。基本的に、人のあまり行かないところに行く。もともとが、人のあまりやらないことをやるという、へそ曲がりなんですね。それが高じてこうなっているだけで、あまり深く考えてやってないんです(笑)。

竹中

ということは、今回の社長交代も、そのへそ曲がりで、また新しく人のやらないことをやろうと考えてのことなんですか?

成毛

そうですね。というか、まず、8年も社長をして来ると、だんだん慣れが出て来てしまうんです。なおかつ、阿多のような部下がいましたから、最後の1〜2年は楽をし過ぎました。といって、社長を辞めてまたこの会社の中で現場に戻ってというわけにも行かないですから、また何か新しい領域に挑戦してみようと。正確には「会社を辞めて」というワケじゃないんですけどね。一応、取締役ですから。

竹中

阿多さんは、「次期社長に」という話を受けて、どうでしたか?

阿多

迷いましたよ。最終的に受ける決断したのは、「やっぱりこの会社が好きやな」と思ったからですね。すごく好きで、これからも居続けられると思ったので、「そう思える間、がんばろう」と。

で、社員への最初の挨拶では、本音でその気持ちを伝えて、「がんばります」という約束をしました。

人のやらないことを

竹中

成毛さんは社外取締役のような形になって、ご自分で新たに会社を作られるそうですけど、それはどんな会社なんですか。

成毛

会社というよりも事務所的なものですね。金融テクノロジーを駆使してファンドマネージメントをするような、せいぜい10人ぐらいのグループです。

竹中

IT産業とは関係ないんですか?

成毛

直接関係はありません。皆さんからお預かりした投資資金を株で運用するのを投資信託と言いますけど、われわれが今度やるファンドは株への投資ではなくて、事業への投資です。それも古い産業への投資です。

たとえば、昔から自動車のある部品だけを作り続けてきた町工場とか、地元だけで続いてきた学習塾とか。こういう人たちには、だいたいものすごく真面目に仕事をしてきた人たちで、中には「このことにかけてはピカイチ」という人もいるんです。

ところが、世間的には「もうこのご時世では古いし、トシもとってきたので」と見られて、新しいことをしたくてもなかなか銀行からお金を貸してもらえない。だから、最新のコンピュータ設備を入れることもできないし、それを駆使する人材を雇うこともできない。ヒト・モノ・カネが手に入らないわけです。

それを提供していこうというのが、いま考えている新しい仕事です。とりわけ、コンピュータを使った取り引きに進出してもらうのを支援するような、そういうタイプのファンドマネージメントです。

ある意味では、プロップの仕事と似ていると思います。

竹中

えっ、そうですか?

成毛

ヒト・モノ・カネがなくて新しいことができないというのは、ビジネスにとって非常に重い障害なんですよ。なかなか自力では乗り越えられない。でも、何か一ついいものがあれば、再生はできる。それを支援しようという仕事なんです。

竹中

そう言えばこの前、神戸でIT関連のシンポジウムがあって、ITがもたらす可能性について非常に話は盛り上がったんですけど、最後に会場から質問を受け付けた時に一人のオジサンがこうおっしゃった。

「ウチは金型の技術では絶対に負けへんけど、いま経営は沈んでいくばかりで、これから私はどうしたらいいのでしょう」。会場は「うわっ、暗い質問が出てしまいましたね」という感じで盛り下がってしまいました。でも、すごく大事な問題ですよね。

成毛

金型にもいろいろな分野がありますけど、恐らく日本でそれぞれの分野で優秀な会社を100 社集めたら、世界最強の金型メーカーになると思います。

ぼくらはインターネットなどを駆使して、そういう仕組みを作ったり、海外への情報発信をしたりすることをお手伝いできると思います。

たとえば、10人でやっている小さな金型工場だけど、この分野ではすごい技術を持っているという会社があるとします。しかし、いかに「この分野ではすごい」と言ってもその会社がこれから最新のコンピュータ設備を入れて、それを駆使できる技術バリバリの人や英語バリバリの人を雇って世界に打って出るというのは、非常に難しい。そういう企業が再生できるビジネスモデルを作って行こうというのが、ぼくらの狙いです。

竹中

いつ頃から、そんなことを考えていたんですか。

成毛

もう1年以上前からです。先ほどのネパールの話ではありませんけど、へそ曲がりですから、人のやっていることはやりたくないんです。

インターネットの世界ではバカ儲けしている会社がすでにいっぱいありますから、そういうのと同じことをやっても絶対に勝てない。いまからそういう会社相手のベンチャーキャピタルをやってもソフトバンクの孫さんに勝てる見込みはまずない(笑)。

じゃあ、そういう人たちがやらないことをやってナンバーワンになろうと。誰もやってないことをやる限りにおいては、必ずナンバーワンになれるわけですよね(笑)。

竹中

プロップの始まりも、まさにそうでした。そういうところで気が合ったんでしょうかね(笑)。

成毛

お互い、誰もやらないことをやって没落しないようにしましょうね(笑)。「あんなこと始めたけど・・・・・・」

竹中

「やっぱりダメだった」なんてことにならないように(笑)

そうならないように頑張って行きますので、どうか今後ともご支援をよろしくお願いします。今日は本当にありがとうございました。

(text 中和正彦)

中和 正彦 ジャーナリスト
1960年神奈川県生まれ。明治大学文学部卒。
出版社勤務の後、フリー編集者を経て取材執筆活動に専念。チャレンジド関連、特にパソコンとチャレンジドの関わりに関する取材の第一人者です。
また、バブル崩壊後の経済や社会、教育問題を幅広く執筆中しておられます。
「朝日パソコン」「月刊ニューメディア」などに、チャレンジド関連記事を長年にわたり連載中。
プロップ支援者として、flankerではボランタリーにライティングを買って出て下さっています。
ジャーナリストとしてはめずらしく(?)寡黙な方で、日頃は訥々とした語り口。アルコールが入っても、少し饒舌になるだけ。でも執筆にかける情熱が、眼鏡の奥の瞳にキラキラしている方です。中和さん、また飲みましょねっ!(ナミねぇ より)

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