産経新聞 1996年2月21日より転載

ネットワークで元気 プロップ・ステーション4

絵本作家目指して偶然に出会う

コンピューターを活用して、障害を持つ人達の就労を支援するプロップ・ステーション(tel06-881-0041)。その仕事の範囲は、データベースづくりからインターネット・ビジネス、芸術の分野までおよぶ。

「去年、全財産をはたいてパソコンを買ったら、その3日後に、新聞でプロップのセミナーのことを知ったんです。これって、運命的ですよね。」と大阪府枚方市の自宅で明るく話す久保利恵さんは、絵本作家を目指す21歳。
何万人に1人というホフマン病(筋無力症)と闘いながら、京都の成安造形短期大学を昨年卒業。夢への階段を一歩ずつ上っている。

利恵さんがコンピューターに関心をもったのは、短大の授業にCG(コンピューター・グラフィックス)のクラスがあったことから。

学校で習わなかった表計算や枠づくりの基本的なことを知りたいと、セミナーに申し込む。偶然が重なる。

この時期だけ、中級コースのCGで、絵本が専門的に取り上げられていたのだ。油彩や点描といった技法だけでなく、編集まで学べるチャンス。しかし、初級と中級の両方に通うとなれば、車いす生活の利恵さんには負担がありすぎる。

「短大を卒業して、ちょっと一息つけるねと言っていたのに、この娘はまた両方行くと言い出して」と母の広子さん(47)が笑う。そして、月4回、半年間、利恵さんは生まれてはじめての電車通学を体験する。

「それまでは、どこに行くにも父の車。点と点でしかなかった場所が、頭の中でつながったのは新鮮な驚きでした。これもプロップの効果かな」と利恵さん。横から広子さんが「車いすを押すの私。離れられない親子です」とちゃかす。

もう一つの予期せぬ収穫は、会員の通信手段であるパソコンネットワーク「プロップ・ネット」体験だ。車いすで大阪に遊びに行くには、どうアクセスすればいいかといった質問にも、多くの人から答えが返ってくるパソコン通信の妙味を知る。

「今は自分の手で絵本を描くことで精いっぱいですが、絵本作家として認められたら、いつかCGを使った作品にも挑戦したい。CGは画像を斜めにしたり、逆さまにしたり、遠ざけたり、近づけたりといったことがマウス一つでできるので、手で描くのとは違った味が出せますから」

利恵さんは今、プロップのCGセミナーのボランティア・スタッフでもある。(服部素子)

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