第3回チャレンジド・ジャパン・フォーラム開催

 「チャレンジドを納税者にできる日本」
 実現へむけたアクション・プランづくり

 
チャレンジド・ジャパン・フォーラム
NEW MEDIA 1997年9月号より転載

 コンピュータ&ネットワークは、チャレンジド(障害を持つ人を表す新しい米語)が健常者と同じ土俵で働ける可能性を膨らませている。しかし、その可能性を実現するためには、いろいろな面で従来の社会システムを変革する必要がある・・。

 「チャレンジド・ジャパン・フォーラム」は、こうした問題意識を持った障害当事者および支援者・企業人・研究者・官僚などの議論の場として、昨年の夏に生まれた。前2回のクローズド形式の集まりで、さまざまな可能性と問題点を抽出した同フォーラムは、今回、オープン形式で広く一般参加者を集め、その可能性と問題点をアピール。客席からの発言も取り込み、改めて新しい社会システム作りに向けた行動を誓い合った。その模様をレポートする。

 

チャレンジドの問題から生まれた
チャレンジングな社会変革の議論の場

7月8日(火)十名の来場者で埋まった。参10時30分、東京大学・山上会館の大会議室は、梅雨半ばの異常な猛暑にもかかわらず、百数加者の名簿を見ると、平日の昼間にもかかわらず会社員も多く、その中にはコンピュータ関連が多い。また、会場はテレビ会議システムで、慶応義塾大学湘南キャンパスおよびデジタルハリウッド大阪(マルチメディア関連の人材育成を行なう企業)の教室と結ばれていた。

 来場者の中には、従来の障害者や福祉に関連した催しのイメージとはかけ離れた雰囲気に戸惑いを覚えた人もいたに違いない。フォーラムを通じて、来場者は「チャレンジドの就労の問題には、新しい社会システムづくりの問題が凝縮されている」ということを実感したはずだが、そのことは、まずこの会場の雰囲気が象徴的に示していた。フォーラム座長で、電子マネーなどのデジタル革命を研究テーマとする須藤修氏(東大社会情報研究所助教授)は、開会に当たって次のように切り出した。

 「これまでチャレンジドは、社会福祉の保護対象と見なされて来ました。この保護の枠組みには、より発展させて行かなければならない部分もあります。しかし、保護一辺倒のフレキシビリティを欠いた枠組みが、社会参加意欲のあるチャレンジドの自立が阻んでいるのも現実です。我々はコンピュータ&ネットワークがもたらす可能性に着目し、チャレンジドの社会参加を促す新しい社会システムづくりを志向する人々の輪を広げたい」
 須藤氏は、その新しい社会システムづくりが、単にチャレンジドのための活動に止まらないことも強く指摘した。

 「政的に行き詰まるのは明ら21世紀、日本は世界でも類を見ない高齢化社会になります。このままでは、福祉や年金のシステムが財か。意欲ある高齢者にどういう形で社会を支える側に回ってもらうかを、真剣に考えなければなりません。チャレンジドの社会参加を可能にすることは、高齢者のそれを可能にする社会システムづくりにも通じます。ですから、我々すべての問題として、この活動を展開していきたいのです」

 このフォーラム、第1回第2回は、コンピュータ&ネットワークを武器にチャレンジドの就労支援をする大阪のNPO「プロップ・ステーション」(竹中ナミ代表)と本誌の共催で行われたが、今回はそれに須藤氏の所属する東京大学社会情報研究所が加わった。須藤氏が会場を借りる相談をしたところ、フォーラムの社会的意義・研究テーマとしての意義が評価され、研究所としての支援が決まったのだと言う。

 挨拶に立った同研究所の濱田純一所長は、「このような問題を産・官・学・民が一堂に会して議論することに、本質的にチャレンジングな存在であるべき研究者として、非常にチャレンジングなものを感じる」と述べた。「新しい社会システムづくり」といった問題は、役人が書いたシナリオを財界人や文化人が審議し、政治家が議決するというのが、これまでの日本のシステム。一番切実に問題に直面している庶民の当事者は、往々にして蚊帳の外に置かれてきた。

 しかし、このフォーラムは、草の根の当事者団体であるプロップ・ステーションの「チャレンジドを納税者に」という訴えに端を発し、中央官僚を含む各界の賛同者を集めてきた。そして、そのネットワークの拡大と緊密化それ自体が、賛同者たちの間に社会変革の機運を盛り上げてきた。「具体的に何をどう考え、どう変革すべきか」、各分野のさまざまな観点から掘り下げが続いている段階ということも含めて、チャレンジングな場になっていると言えよう。フォーラム第1部は、その「何をどう考えるか」の提言の場だった。


情報は弱さゆえにつながり
つながることで力を持つ


 慶大湘南キャンパスからテレビ会議システムで参加した金子郁容氏(同大学院教授)は、基調提言で「障害を持つ人々」「コンピュータ&ネットワーク」「雇用」という3要素の組み合わせに大きな可能性が秘められていることを指摘した。要旨は以下の通り・・。情報は、「こんなことで困っている」「こんなすごい話がある」といった切実に訴えたいものを持った人から出てくるものなので、チャレンジドとその周辺には本質的に情報の発信者が多い。また、情報は一人ではいられず、弱さゆえにつながり、つながることによって力を持つ。チャレンジドにとってコンピュータ&ネットワークは、切実な情報を発信してつながろうとする力を呼び起こすものとして意味がある。

 コンピュータ&ネットワークは障害の有無を問わない仕事を創出するが、雇用のための条件や環境をチャレンジドと企業が直接向き合って整えるのは難しく、プロップのような仲介者的な存在が必要。この部分にコストはかかるが、これまで「市場では、人材も含めて、需要と供給が価格によって自動的につながる」と考えられてきたのは間違いで、実はつながるシステムのために、税金によるものも含めて大きなコストを払ってきた。

 誰がどのようにコストを負担し、どのようなつながり方をすれば、チャレンジドや高齢者の意欲を生かせる社会になるか。それが、このフォーラムが提起している問題だ・・。『フラジャイル〜弱さからの出発』という著書を持つ松岡正剛氏(編集工学研究所長)は、金子氏の「情報は一人ではいられず、弱さゆえにつながる」という発言を受けて、次のように語った。

 「神戸の『酒鬼薔薇』の事件からも、我々が自分の意思や欲望を非常に見極めにくくなっている状況が感じられます。これは、学校から企業にいたるまで、『強がり』が人間を締めつけ過ぎた結果だと思います。そして、旧ソ連の解体や帝国主義的資本主義の終焉などに見られるように、世界的に『強がり』で築かれた社会が崩壊しています。いま必要とされているのは、『弱さ』をうまく扱える社会ではないかと思います」

 それは消極的なビジョンではなく、松岡氏が金子氏と共同研究も行なっている「ボランタリー・エコノミー」(自発する経済システム)という新しい社会システムへの展望だ。「社会一般にチャレンジドの問題をオープンに語り合える雰囲気が生まれています。そして、コンピュータ&ネットワークという、人間にとって本質的な多様な可能性を引き出す技術が普及しています。平均化された健常者が考えているよりも、もっとたくさんの突起や凹みを持った情報、そういう弱い部分を含んだ情報がつながり合い、多様な可能性を引き出す。我々は、高齢化社会に突入していきながら、そういう歴史上かつて持ちえなかった展望を持てるかも知れません」


チャレンジドの世界には
ビジネスチャンスが埋もれている


 研究者の理論的分析を裏付けるかのように、既にチャレンジドとつながることにビジネスの可能性を見出している企業経営者の発言が続いた。プロ向けの映像・音声ツールのメーカー・マクロメディア手嶋雅夫社長は、チャレンジドの潜在的な創造力に着目する。「私どもの製品を使うクリエイターの人たちは、従来の社会的ヒエラルキーとは関係ないところで生きている人たちです。恐らく著名なクリエイターには、小中学校時代オール5だったというような人は少なくて、突出した部分とくぼんだ部分を併せ持ったような人が圧倒的に多いはずです。私どもがチャレンジドに着目したのは、まさにその点であって、『障害を持った人だから支援したい』と思ったのではありません。ヒエラルキーの外で生きてきたことで、中にいる人とは違う視点や感性を持っている。そこにある潜在的なクリエイティビティの高さに着目したのです」

 そして手嶋氏は、真に優れたクリエイターを求める企業は、学歴や障害の有無に関係なく、純粋にクリエイティビティで勝負できる環境づくりを志向すると述べ、こう語る。「チャレンジドの方々は、身体的な面や教育の機会の面で現実的なハンディキャップがありますから、そこは他の人と同様に競争できるように底上げします。具体的には、ハンディキャップの部分の知識に乏しい我々とチャレンジドの方々との間に立ってそれをしてくれる、プロップ・ステーションのような存在を支援していきます」マイクロソフトの成毛真社長は、ある雑誌でプロップ・ステーションの活動を知り、自分の方から竹中代表にコンタクトを取ったというエピソードを披露・・。竹中代表の「チャレンジドを納税者に」という話を聞いて、成毛氏は「これは儲かるかも」と直観したと言う。理由は2つ。ひとつは「チャレンジドの世界は、まだ埋もれている優秀な人材の宝庫だ」ということ。もう一つは「チャレンジドの世界は、我々がちゃんとした製品を作れば、非常に大きなマーケットになる」ということ。この2つを、竹中代表に率直に伝えて、プロップのチャレンジドのためのコンピュータ・セミナー等の活動を支援してきたと言う。

 そして、「これまでの企業のチャレンジドとの係わり方は、施しを与えるとか同情的に接するという色合いが強かったと思います。しかし、これからは実利的なつきあいをして行った方が、双方とも幸せになれると思います。我々は障害の問題についてよく知りませんが、コンピュータ&ネットワークの問題ではプロ。チャレンジドの方々には、いろいろ困難な問題があると思いますが、そういう時はプロを利用することを考えて欲しい」と訴えた。


マイクロソフトが視覚障害者に
windowsの改良を約束


 さて、マイクロソフトは、視覚障害者の間ではすこぶる評判が悪い。「Windows 」が事実上の標準OSの地位を占めているにも係わらず、その日本語版を盲人には使えない状態のままにしてきたからである。フォーラム特別対談「Challengedと Wind-ows 」は、全盲の大学生・細田和也氏が成毛氏およびマイクロソフトのOS担当技術者とWindows について語るという刺激的な企画だった。実は、細田氏はプロップを介してWin-dows問題でマイクロソフトとコンサルタント契約を結んだばかり。Windows の壁に阻まれている多くの視覚障害者の思いを背負っての発言は、歯に衣を着せぬものだった。

 「ぼくらは『Windows95 は使えないもの』と思っていたので、昨年アメリカに行って全盲の人が使いこなしているのに接して、信じられない気持ちでした。英語版は音声の案内で操作できるようになっていて、アプリケーションも、ちゃんとしゃべるソフトがかなり出ています。ところが、日本では、今年になってやっと『これで何とか日本語版の操作も可能かな』というソフトが出ましたが、アプリケーションに関しては、依然としてほとんど使えるものがありません」

 たとえば、『ワード』で文書を書こうにもしゃべってくれない。音声環境のあるDOSで『一太郎』の古いバージョンを使って書く方が、よほど実用的だと言う。しかし、もはや社会はDOSの時代には戻らない。 Wind-ows 上で動かすGUIを使ったソフトがあふれ、それなしには仕事ができない。したがって、それを使えないと就職の道まで閉ざされかねないという状況になっている。

 「友人たちが『マイクロソフトは敵だ』と思うのも当然です。しかし、敵にしていても問題は解決しない。ぼくは、今回の話で、ユーザーになってメーカーを利用しようと考えました。一方、成毛さんはプロとおっしゃいましたが、ぼくも22年全盲をやっているので全盲の事情にかけてはプロです。ぼくを利用することで、マイクロソフトは全盲のニーズを知ることができる。お互いを利用することで、いいものができ、いい状況になっていけばいいと思っています」

 これに対して、成毛氏は「細田君に係わってもらって、いろいろお話を聞き、『これはいかん』と痛感しました。責任者として、お詫びしたいと思います。そして、Windowsを初めとした私どもの製品を、早急に視覚障害者を初めとしたチャレンジドの方々にも使いやすいものにすべく努力することを、ここでお約束いたします」。

 そして、マイクロソフト側は、ソフトハウスにアプリケーションを書く上での仕様を公開していくこと、周辺機器やソフトの基本的な機能を評価する上でアクセシビリティ(チャレンジドの操作可能性)を必須条件とすることなどを表明した。フォーラムは、発足時から「産・学・官・民それぞれの立場からの自由な議論の場」を志向するとともに、「それぞれの立場の人が自分のできることから行動に移して行こう」と訴えてきた。ソフト界の巨人・マイクロソフトが、「Windowsの視覚障害者対応」という大問題に対して明確な行動の意志を表明したことは、大きな収穫と言えよう。


チャレンジドと企業担当者
仕事の成功と条件的課題


 細田氏とマイクロソフトの対談に続いては、プロップ・ステーションで技術を磨いたチャレンジドと、彼らに仕事を発注した企業の担当者の、それぞれに思いが語られた。

 NTTのボランティアに関する総合情報ホームページ「ハローねっと・ぼらんてぃあ」は、リンク集のためのリンク先の抽出をプロップのチャレンジド4人に発注している。担当者の寺田淳氏は、その意図をこう述べた。「チャレンジドの方々にも喜んでもらえるようなホームページを作るには、当事者の視点が必要です。それを仕事として発注することで、チャレンジドの就労の拡大にもつながります。その意味で、プロップとはビジネスパートナーとしておつきあいさせていただいています」

 一方、仕事を受注したチャレンジドのひとりで、松田あきら氏は、「以前は通勤して仕事をしていましたが、身体がついていかなくなり、コンピュータ&ネットワークによる在宅就労を目指しました。いまの仕事は、自分のペースで時間配分しながらできるところがとてもいいと思います」。

 昨年、関西電力の記念事業のイベントでイラストを発注された久保利恵さんは、先ごろ同社から新たな仕事を受け、「また仕事をいただけるなんて思っていなかったので、とても嬉しかったです」。

 担当の絹川正明氏は、「普通のプロには期待できない新鮮な作品を描いていただいて、感謝しています」と述べ、チャレンジドと仕事する際の条件面の課題を指摘した。

 「このような形で仕事をしていただいた際に、どんな対価をお支払いすればいいか、基準がなくて判断に迷います。また、企業にはチャレンジドを法定割合雇用することが義務づけられていますが、このような雇用という形を取らない仕事もカウントするような仕組みがあれば、もっと企業がチャレンジドに仕事をお願いする機会が増えると思います」

 前出・マクロメディアの作品コンペに参加した吉田幾俊氏は、「ぼくは障害のためにまともな線一本引けませんけど、コンピュータのおかげでそれが出来るようになり、頭の中に描くイメージの通りに表現できるようになりました。自分の表現とともに、チャンスもすごく広がったと感じています」。

 これに対して手嶋社長は、「集まった作品には、技術的に素晴らしいものは多いんですけど、訴えるものが感じられるものが少なかった。これは最近よく見られる傾向です。ところが、吉田さんの作品は、まだツールを使いはじめて間もないから技術的には平凡なんですけど、お客さんの笑いを取るんですよ。チャレンジドの方々には、普通の人が遇わない目に遇っているせいか、『心の襞の数が多い』という感じのする人が多い。それをうまくアウトプットする道をつかめば、優れたクリエイターになれると思います」

 プロップのチャレンジドを率いて日本IBMのプロジェクトに参画しているボランティア講師の橋口孝志氏は、「これまでチャレンジドの在宅プログラマーは、私たちスタッフがお客様と詰めてきた仕事をオンラインで受けてオンラインで納めるという形でした。しかし、今回のプロジェクトではお客様のところにうかがって意見を聞いたり説明をしたりしています。こういうことで、『社会参加している』という実感が味わえたようです」

 これに対して日本IBM側の担当者・奥野裕志氏は、「代表の竹中さんから『品質と納期は保証します。価格も、チャレンジドだから安くとか、逆に高くとか、そういうことは無しにしてください』と言われ、それなら普通の発注先と同じ感覚でつきあえると感じて安心しました。プロップには、技術的にも大丈夫で、仕事を受ける体制もできているという具体的事例があるので、その辺をもっとPRしていいと思います」

 最初はチャレンジドも企業の担当者もお互いを知らないために、過剰に違いを意識し合ったり不安を感じたりする。しかし、具体的な仕事をすることで、障害の有無とは関係なく、仕事の質で相手を評価するようになる。そして、「もっと仕事を」と思った時、社会や組織の条件整備の必要を痛感する……。4組のやり取りからは、そんな現状が見えてくるような気がした。


問題山積の社会システム
変革は各自のできることから


 では、社会や組織にはどのような条件整備が必要なのだろうか。それがフォーラム第3部のテーマだった。

 大阪ボランティア協会の事務局長・早瀬昇氏は、プロップのような支援組織の法人化の必要性を指摘した。

 「日本の場合、『金儲けすんねん』ということだと簡単に法人(営利法人)になれるのに、『金儲けやない。公の利益のために活動するんや』ということだと、規制が厳しくてなかなか法人(公益法人)になれません。どんなにいい活動をしていても、法的根拠のない団体ということでは当然、企業などはパートナーシップを組みにくくなります」

 慶大総合政策学部教授で「構想日本」という政策提案グループの代表・加藤秀樹氏も、同じ問題をこう指摘した。

 「社会を担うセクターを官と民に分け、民=企業と考えるのは間違い。プロップが取り組むチャレンジドの就労の問題にしても、あるいは老人介護や環境保護の問題にしても、民の内で公益サービスを担っていく非営利の事業体の役割は、これからますます大きくなります。それを、法的・社会的にどう認めていくかを真剣に考える必要があります」

 この問題に関しては現在、NPO法案が国会で審議されているが、この法案の成立だけで問題が解決するわけではない。「通った場合、地方公共団体、特に市町村とNPOがいかに対等な立場で関係を構築していけるかが大きな問題になると思う」(自治省課長補佐)

「民法の公益法人と営利法人の規定に今後のNPOの活動にマッチしない点があるので、ここを考え直す必要もある」(フォーラム座長・須藤氏)という指摘もあった。

 また、障害者職業総合センター研究員の戸ヶ崎文泰氏からは、以下の指摘があった。

 「コンピュータ&ネットワークは障害者の在宅就労の重要なツールになりますが、障害者は学校教育の中で触れる機会が少ない。在宅勤務を望む障害者は、通勤の移動が困難だから望むのわけですが、在宅勤務の技術を学ぶための教育訓練を受けに行く移動も困難という現実があります。

 在宅勤務を始めてからの教育訓練をどうするかという問題もあり、在宅勤務者が管理職コースを歩めるかどうかという問題もあります。また、「雇用」という形を取れば、雇用保険を受けられますが、それに至らずに請負契約で仕事をしていく場合の制度的フォローがないという問題もあります……」

 フォーラム第1部と第2部では、大いなる可能性と具体的な成功事例が語られたが、社会システムの現状は、依然として問題が山積したままだ。会場から発言に立ったある地方から参加者からは、次のような声も聞かれた。

 「私の周りでは、障害を持った人ご本人は仕事をしたいという意欲を持っていても、その技術を身につける場がありません。結局、会社しか力をつける場はないのですが、コンピュータの話がまったく通じないような人も多い。小さな会社では一から教育訓練をする力がなく、なかなか雇えないのが現状です」恐らく、依然として多くのチャレンジドはこのような状況に置かれているというのが、現実だろう。

 フォーラムでは、香港出張のために欠席した『インサイダー』編集長・高野孟氏からのメッセージが紹介されたが、これを聞き、唐突だが、このフォーラムの問題に中国の経済発展を連想した。

 ○小平は「先に豊かになれる者から豊かになるがいい。社会主義とは、みんなで貧乏をすることではない」という先富論を唱え、市場経済という中国にとっては新しい社会システムの実験場を各地に作り、歴史的な経済発展を巻き起こした。だが、それは後に続こうとする者を完全に置き去りにしてしまう危険性もはらんでいる。

 このフォーラムは、いわば「先に社会参加できるチャレンジドから社会参加するがいい。弱者支援とは、福祉的保護の枠組みに閉じ込めることではない」と唱え、さまざまな実験的な取り組みを生み出し、かつてない規模のチャレンジドの社会参加を実現しようとしている。だが、その華々しい話題に耳を奪われて忘れてならないのは、依然として多くのチャレンジドはコンピュータの何たるかを学ぶ機会にさえ恵まれていないという現状。そのような現状を変える新しい社会システムを作ることが、このフォーラムの最終的な目標だ。

 慶大・金子郁容氏は、「この議論を発展させるために、VCOM上で『チャレンジド・ワーキング・フォーラム・メーリングリスト』を立ち上げます。皆さんとの継続的な議論の場にして行きたいと思っていますので、積極的に参加してください」と呼びかけた。

 このネットワークにアクセスできるような人々が、どれほどそれぞれの立場でオフラインにまで議論と活動の輪を広げていけるか。自由な議論と共に、具体的な活動の広がりにも期待したい。

●「プロップ・ステーション」及び「チャレ
ンジド・ワーキング・フォーラム・メーリン
グリスト」(CWF-ML) に関する問い合わせ先
Tel.06-881-0041
 E-mail: nami@prop.or.jp


東京大学社会情報研究所として共催を決めた浜田純一所長
   
チャレンジド・ジャパン・フォーラムの
座長として会の舵取りをリードする須藤修・東京大学社会情報研究所助教授
   
参加者が集中できるよう全体進行を担当した副座長の清原慶子・ルーテル学院大学教授
   
やっぱり「ナミねぇ」の声が一番大きく迫力があり、とは参加者の偽らざる声?プロップ・ステーションの竹中ナミ代表
   
新たな社会の枠組みをチャレンジドの問題を通して理論化してくれた松岡正剛・編集工学研究所長
   
「チャレンジドのもつ経験はクリエイティブ性で注目し、それをビジネスにつなげたい」とズバリ提言する手嶋雅夫・マクロメディア社長
   
視覚障害者に対するWindowsの対応の遅れを素直に詫び、その対応を即決した成毛真マイクロソフト社長。彼の行動力に期待が高まる
   
メディアの達人・細田和也氏とマイクロソフトの間中信一課長。この雰囲気を見るとWindowsの視覚障害者対応プロジェクトは成功間違いなし
   

「自分の仕事の評価を担当者ともっと重ねたい」とチャレンジド・ワーカーの松田あきら氏。松田氏はNTTのプロジェクトを担当

   
関西電力の記念事業で子供の作文をもとに絵で表現した久保利恵さん。関西電力では「これまでにない感性の表現で満足。今後も仕事としてお願いしたい」
   
マクロメディアのソフトを使ってグラフィックスを描くチャレンジドの画家・吉田幾俊氏。「マクロメディアのユーザー会で講演してもらうと参加者から笑いをとる」と手嶋マクロメディア社長
   
チャレンジドのプログラミングを講義する橋口孝志氏。「仕事としての対応の仕方も重要なポイント」と語る

 


第三回Challenged Japan Forumの開催呼びかけ文

フォーラムの音声レポート(制作途中バージョン)


第一回Challenged Japan Forumの報告
第二回Challenged Japan Forumの報告


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