支援企業探訪

マイクロソフト株式会社


お話 代表取締役社長 成毛 真
Interview プロップ・ステーション 竹中ナミ
Words & Photo ジャーナリスト 森川明義

 昨秋のウインドウズ95リリース以来、ますます注目が集まっているマイクロソフト社の成毛真社長に、プロップ・ステーション代表の竹中ナミ代表が直撃インタビュー。成毛社長は、多忙の中、2時間あまりにわたって、チャレンジド(障害を持つ人)や高齢者に向けての取り組みを率直に語った。一貫しているのは、福祉的なアプローチではなく、あくまでも対等のパートナー、ユーザーとして見ていこうとする姿勢。この中で、成毛社長はプロップに対する一層の支援・協力を約束してくれるとともに、ビル・ゲイツ会長が6月に来日する予定であることを明らかにした。竹中代表の「是非、大阪に」という要望に対しても「プロップとの共催で講演会を」と積極的に検討してくれることを約束。日程が合えばだが、6月にはビッグなプレゼントが・・・という期待を抱かせてくれた。


コンピュータの第三の道

写真:Windows95  竹中(以下プロップ・ステーションに対するご支援、ありがとうございます。一月から開始しているウインドウズ95のセミナーはすごい人気で、かなりお断りしている状況です。ユーザーの熱い思いがひしひしと伝わり、待ち望まれていたOSが出たという感じです。
 セミナーの対象は、今までコンピュータと一番縁遠いと思われていた障害を持っている人や高齢者なんですが、そういう人たちが一般の人以上にそういうOSを待っていたのが改めて分かりました。その反響に驚いています。
 私たちのような草の根のNPOが、マイクロソフトさんのようなビッグな企業から支援を頂いているということで、私たちの社会的な評価も高まっています。本当に感謝しております。

 成毛(以下いや、私どもとしてもプロップさんのような活動をなさっているNPOを存じ上げないと・・・。こちらとしても何かしたいと思っているんですが方法がないんです。そういう意味で手が伸びていないところが多いんですよ。

 竹:コンピュータは重度の障害を持っている人にとっては、その力を何倍にもしてくれる、そんなケースをいくつも目の当たりにしてきました。セミナーに通っている人の中に、日本画を描いている難病の女の子がいるんですが、腕が少ししか動かないので、これまではお母さんに色の調合や画用紙を動かしてもらうなどしていたんですが、コンピュー使えば画面でどんな色でもさっとつくれる、画用紙をひっくり返す必要もない。一人で作品を創れるようになったんです。彼女は、物語をテーマに描いているんですが、今では週に二、三枚も仕上げる実力があります。
 コンピュータは一般のビジネスや研究にとっても大切ですが、第三の道というか、チャレンジドや高齢者にとってもかなりの武器になると思っています。
 とは言っても、私たちはこれを福祉だとは思っていません。ただ、社会参加するだけでなく、仕事に結びつけたい、チャレンジドを納税者にできる日本、これが私たちのキャッチフレーズなんです。福祉的な保護ではなく、大切なのは社会に進出し、経済の循環の中に構成員として入ることなんです。コンピュータはそれを推進してくれる道具です。今度のウインドウズ95には、ユーザー補助もつき、より使いやすいものになっているのを見ても、心強くも、未来は明るいとも思っています。
 今、野村総研さんとの共同実験で、障害を持つ人がインターネットを使うことによる在宅就労の可能性を模索しています。実際に野村さんの仕事をするわけなんですが、仕事の指示から納入まですべてインターネットで行っています。プロップは野村さんとチャレンジドの仲介、コーディネートをしています。
 その根底にあるのは、今の形態の労働省がやっている障害者雇用の施策は限界にきているのではないかということなんです。ネットワークを使えばそれが進むのではないか。そういうプロップの事業に労働省として支援してもらえないかとお願い申し上げているところなんですが。
 とにかく、福祉ということで何かをあげるという形態では、もう日本は経済的にももたないのではないかと思っているわけなんです。

 成:そうかもしれませんね。我々としても、プロップの活動に対しては寄付させてもらいますが、障害を持っている人個々にものを差し上げるということは絶対にしたくありません。もちろん、本人が希望してそれでも構わないということであれば、お貸しすることはできるかもしれない。その場合でも一定の基準を考えなければならないでしょう。
 高齢化がどんどん進んできますよね。そういう意味では障害を持っている人の問題だけではないですよね。2025年には65歳以上の人が3分の1を超える社会になる。そのときには僕もそうですからね。そういう人たちに対してどうするか、自分も含めて考えなければなりません。そういう意味では竹中さんがおっしゃるとおり、今までの福祉ではなく、前向きなものが必要になってくるのでしょう。

本当に「誰にでも使える」道具になるんでしょうか・・・

 成:コンピュータというのは優れてはいるのですが、一方では使える人と使えない人が出てくる。それはキーボードが打てるか打てないかという以前に、その人にどんな才能があるかということです。さっきの彼女のように絵が描けるとか。
 コンピュータがすべてを救ってくれるわけではない。あくまで創造性のある人にとっては仕事にもなりうる。障害のある人もない人も同じです。
 ただ、そういった才能のない人にとってもコンピュータにはメリットがある。知的創造性の部分だけではなく、人間の補助道具としてコミュニケーションの部分で利益があります。
 実は今、アメリカでやっていて、日本でも作り始めているツールに、音声認識、手書き文字認識というのがあるんです。手書きにも完全認識と略称認識のものがあります。略称認識は、簡易カナ入力のようなものでパネルを使ってやります。さらに、視線での入力など、様々な認識方法が考えられており、そういうのが標準装備になれば、今の特別仕様のもより断然安くなります。
 仕事としての需要、つまりそれで飯を食うということになると、需要が多いのはコンピュータ産業の中です。その技術をどう教えるかなんですが、プログラミングは非常に簡単になっています。
 例えば、お絵かきソフトなんですが、そのクオリティはここ2年ほどで極度に上がっています。セガの3次元のゲーム、バーチャルファイターなんですが、それはうちのソフトイマージというソフトで作っているんです。恐竜が走り回るジェラシックパークや最近のディズニーのトイワールドもそうです。数字を入れなくても絵が描ける人なら創れるんです。障害を持っている人も創れます。パソコンでもあと3-5年でできるようになりますよ。
 熊本にソフトウエアバンクという第3セクターがあるんですが、そこでもソフトイマージを使って、重度の障害を持つ人たちのより高度な仕事を目指しています。一年間、訓練を受けてもらい、TVニュースの冒頭にあるCGを作ろうというもので、3年後ぐらいにはできるんじゃないでしょうか。そこに機材も予算も含めてかなりヘビーに関わっていこうという話もあるんですよ。
 1年間通わなければならないという欠点はあるんですが、重度の障害を持っている人に完全にプロとして、ヘビーな仕事をやってもらうことを目指しているわけなんです。
 コミュニケーションエイドの部分では、OS、アプリとも一切合切をチューンナップしていく。もう一つの仕事、食うためということでは、障害があるから仕方なくコンピュータを使うのではなく、コンピュータを使ってこんなすごい仕事をしている、その人がたまたま障害を持っているというように、そのチャンスを創出するための仕掛けを考えたいですね。
 とは言っても誰もかれもがニュースを作れるわけではない。他のメジャーで一番多い層、その人たちにとってのコンピュータの可能性を教えて頂きたい、それが竹中さんのいう第3の道の問題ですね。

「社会責任」も、マーケティングのキーワード

 竹:そこなんですが、私は口だけの人間で機械については全くの素人です。社長もマーケティング畑が長かったとお聞きしています。そこでプロップのマーケティングと合致するところはないか、あればそういう方向で一緒にやっていただけないかという期待を持ってやって来たんですが・・・。

 成:本当にそういうことが大切ですね。

 竹:私は、重度の重複障害のある娘が生まれて以来、20数年間こういう活動をしているんですが、その中で分かったのは、痴呆の老人や重度重複障害のある人、社会的に自立が不可能な人には手厚い保護がいるけど、単に高齢だから働かなくていいとか、一律の保護が必要というのは、もう続かないのではないかということなんです。
 80歳を超えた父が阪神大震災でプロップの事務所に避難してきて、安否確認などパソコンの有用性に気付き、触ろうとしたんですが、指は震えるは、目は遠いはで無理なんですね。でも、70代の母は、礼状を書きたい、アメリカにいる息子に電子メールを出したいという思いで、一年間でワープロがばりばりになったんです。
 震災でも高齢で在宅の人にネットワークがなかったことが問題になりました。それから思ったんですが、気持ちが残っているならばですが、父のような人にも使えるコンピュータ、ゆっくり習える状況ができれば社会的に大きな変化が起きるのではないかと。
 そういうことから、セミナーも震災を契機に高齢者を受け入れたんです。前期は83歳、今期は80歳の方が最高齢です。でもそこで分かったのは、高齢者は障害を持っている人に比べて時間がかかるということなんです。障害がいくら重くても、若い、そして仕事をしたいという人ははやいですね。
 そこで、一緒にというのではなく、高齢者を対象にそのスピードに合わせたセミナーをやろうと思っているんです。今、障害者手帳を持っている人の60%は高齢者です。その人たちに対する取り組みの必要性を痛切に感じています。高齢者はマーケットしても大きいですからね。
 セミナーでは、機械には自腹を切ってもらっています。コンピュータとモデムは全員に買ってもらう。仕事をしよう、社会参加しようという人が、全部借り物、もらい物ではだめだと思うからなんです。そこからも堂々としたマーケットの対象にもなれるんです。ソフトや機器に不備があった場合、正規のユーザーならメーカーに提案もできる。また、セミナーでは、個々の意見ではなく集約されたモニタリングの場にすることもできる。そういうところで、マイクロソフトさんとタイアップできないかというのが私たちの思いなんです。

 成:モニターということで言えば、社内にインターン制度というのがあるんですよ。大学の3、4年生を対象に、半年ほどゲームや製品の評価をしてもらい、その仕事には対価も払う。今は、それは大学の単位として認められていないんですが、そうしてもらえるように交渉には行ってますが。

 竹:その学生さんは情報処理とかこの分野では専門の人ですか。

 成:いや、法学部、文学部など様々です。一定の試験にはパスしてもらいますが。
 アメリカはインターン制度がしっかりしていて、4年生でも職歴が5つ以上というのは珍しくありません。それだけインターンをやっていないと企業に入れないということでもあるんです。机上の学問だけでなく、実学が必要ということなんですね。学生を育てるという企業責任の表れでもあるんです。
 そこでのモニタリング、評価の結果は製品にはねかす仕掛けになっているし、そこではマーケティング・リサーチもします。ほかにも、ホーム製品のバグの検査、英語から日本語に置き換えるときの言い回しのチェックなどもしてもらう。
 障害を持っている人向けの仕掛け、それがすぐに製品にはねかえると思われては困るんですが、プロとして必要な機能の提案をインターンとしてしてもらうことは可能です。すでにやっていることなので、その延長線上でできます。これは社長室がリーダーシップをとってやっているんですが、早速、大阪の担当者にプロップさんまで行ってもらうことにしましょう。

 竹:是非、是非、そういうことをやらせてもらえればありがいたいですね。

 成:出荷前の製品を見てもらい、うちのネットワークにつないでもらうことにもなるので、セキュリティ上、多少の契約手続きは要りますが、とにかくやってみましょう。

WIN95など「GUIと視覚障害者」は緊急の課題

 竹:仕事とコンピュータという問題ですが、プロップは他の多くの団体のような障害種別にはなっておらず、様々な障害を持っているメンバーがいます。そのなかで、困っているというか、懸案事項になっているのが全盲の人へのサポートなんです。マックやウインドウズのようなGUIになると、今までできていた仕事もなくなると。

 成:DOSではできていたのにということですね。

 竹:聞くところによりますと、アメリカのウインドウズは音声化されているとか。それが日本語ではできないのか、もし、マイクロソフトさんでOSを触る許可をしていただけるなら、うちの技術サポーターがやりたいと言ってるんですが。

 成:アメリカでやっているというのはマイクロソフトサウンドシステムという別製品を組み合わせてできるようになってるんです。

 竹:どんな仕組みになっているんですか。

 成:OSから見ると、一アプリケーションにみえます。メーカー別になっていて、日本ではNECから出ています。

 竹:DOSに一旦戻すんですか。

 成:いいえ、ウインドウズ上でやります。今は、NECだけですが、マイクロソフトとしてもこの一年ほどの間に、自社ブランドのものをだす予定はあります。
 しかし、そのことが95になって、全盲の人に得かというと、アメリカも含めてだめなんですよ。難しい。MS-DOSというのはライン処理ですから、コンピュータ側はラインが何を示しているのか話してくれる。ラインに対してラインで答えますよね。でも、ウインドウズ95にしろOS2にしろ、マックにしろアプリケーションを広げれば広げるほどわけが分からなくなる。ラインバイラインというプロセスがない限り、全盲の人には難しいということが何となく分かりかけてきています。どうするかという問題ですが・・・。
 これはアメリカでも大きなテーマになっています。ただ、無理というだけでは全盲の人のマーケットがゼロになるということですからね。マイクロソフトとしても、小さなマーケットとは思っておらず、何とかしなければとは思っています。

 竹:全盲の人は「僕たちも昔はコンピュータを使って仕事ができたのにね」という時代がくることを心配しています。難しいというのは技術的なことなんですか?

 成:技術的という以前の問題なんです。一画面にいくつもの画面がでるという。

 竹:マルチタスクがそれを阻んでしまうということですか。

 成:全盲の人でも使い込んでいるいる人にはその概念が分かるようですね。特に中途で失明された方など・・・

 竹:相当の強者もいますからね。私たちの何倍も記憶能力をもっておられるような。

 成:しかし、最初からというか急に使う人にとってはだめなようですね。説明のしようがない。困った問題で、各国のGM会議でも話題になります。ちょっとその問題はお時間をいただけないでしょうか。
 ただ、さっきおっしゃったウインドウズの中身を変えるのは大変です。95は非常に難しい技術を使っていますから。NECも移植するだけで100人もの技術者を投入しているくらいですから。

 竹:発想の転換が必要ということなんですかね。

 成:全盲対策のOSが必要という気がします。しかし、そこでショートカットやWWWをどうするか。今、ビジュアルにビジュアルにとなっていて、それがコンピュータ発展の歴史でもある。全盲の人からするとかけ離れた方向にどんどんいっている。その立場からすると間違った方向に進んでいるとしか思えないでしょうね。

 竹:例えば、全盲者仕様というボタンを押すと、いつも決まったところにアイコンがきて、画面も2つまでというふうに制御するとか、そんな発想では無理なんでしょうか。

 成:それは可能でしょうけど、今度はOSではなく一般的なアプリケーションの問題になる。特殊なアプリケーションで構わないということになれば作れるとは思うが・・・。問題はエクセルのような既存の、一般向きのものをそのまま考えると、OSだけではできなくて、ワードなり一太郎なりすべてを変えなければならなくなる。それも含めて勉強させてください。絶対に無理だとはいいません。
 ただ、ソースの公開はちょっと。やるならうちでやった方が早いし、安くできると思います(笑)

 竹:マイクロソフトは巨大です。ビル・ゲイツ会長も一家に一台はマイクロソフトのOSとおっしゃっている。いずれどこも95になっていこうとしている状況が見えています。それで全くだめな人がいれば、発展すればするほど、一部でそれを恨めしく思う人が残るというのは残念な気がします。95でもここまでは一緒にやれるというものがあればいいのですが。DOSのアプリケーションはもう出ないでしょうし、残っているものが消え去るのを待っているだけということになりますから。

 成:遅きに失した感はあります。ここ数カ月から1年の間には何とか音声周りはしますがそれだけでは無理な部分もあると思う。ユーザー補助が十分なのか。少なくとも日本語圏の中での障害者対応、それも含めてちょっと考えさせてほしい。とにかく、一家に一台をやろうとすると、障害を持っている方にも全員に持って頂かなければなりませんから。 

 竹:そこに高齢者も入ると、一家に二台ということにもなりますね(笑)

 成:2025年には高齢者が3分の1になりますからね。その人たちへの対策がないとどんどんマーケットが減るということにもなりますから、何がなんでも対策が必要です。パソコンそのものも2025年にはかなり安くなってますから。 竹:今でもそうですね。セミナーの生徒にもよく言うんですよ。年金を3か月ためたら買えるよって。サラリーマンがローンを組んで買った時代とは違います。

 成:とにかく勉強することが先決ですね。5年もすると今の能力のパソコンは1-2万円で買えるようになります。絶対になります。
 その時、20万円のパソコンは1000倍の能力を持っています。今のスパコンよりも速くなっている。国内でもPHSやCSが全地域で立ち上がっているでしょう。そのとき何ができるかなんです。
 実は、私には障害を持っている方の知り合いがいないんですよ。

 竹:ほとんどの方がそうです。

 成:ですからよくわからない部分もある。マーケティングの問題でもユーザーに直接聞くと、結果はあやしいことになる。今、ほしいものしか話してくれませんから。ニーズがあってもそれだけでは売れる商品にはならないんですよ。

 竹:技術がないと、困っている内容について(技術的に)的確に言えないですもんね。

 成:売れるものはユーザーが既に気付いているものではだめなんです。みんながあっと驚くものでなければ。マーケティングの常識として直接聞かない方がいいというのがあるんです。間接的に聞くのが一番いい。そういう意味では、長期に渡ってプロップさんともこういう関係をつけてもらうのはいいですね。

ビル・ゲイツ会長とプロップの出会いは可能?!

 竹:ところで、ミーハー的なお願いがあるんですが・・・。というのはこんな小さなNPOなんですが、私たちがビル・ゲイツ会長をお招きして講演会ができないかということなんですが。無理でしょうか(笑)

 成:いや、今度、ビルは6月に来るんですよ。日本には一日しか滞在できないんですが、飛行機が韓国から入る予定で、もしかしたらいけるかもしれない。

 竹:本当ですか。

 成:場所的に言うと、日程が窮屈なんでビルが動く範囲で選んでいただけるとありがたいんですが。

 竹:OBP(大阪ビジネスパーク)の企業ビルとかをお借り出来ればいいんですかね。

 成:必ずしもそうではなく、移動の途中でいけるところ、大阪市内であれば大丈夫でしょう。

 竹:ありがとうございます。もし、実現したらすごいと思います。アメリカででも、お目にかかっていただけるなら出かけようと考えてましたから。

 成:それにしても、日程調整なんかぐるっと回ってうちにきますから同じですよ(笑)

 竹:6月ですか。うれしいですね。

 成:先日もあるメーカーの方々と、そろそろいかなきゃまずいですねと話していたところなんですよ。

 竹:あちこちにお顔を立てていらっしゃるんですね(笑)

 成:他からどんな製品がでてくるか分かりませんし。500ドルでインターネット専用というか、それしかできないというパソコンも出てくる。
 私たちは、500ドルですべてできるパソコンを作るべきだと思ってますが。そういうことでは、全世界的に見ると、カギになる会社はあるのかもしれません。

 竹:先日、松下さんのリングリングでイベントをやらせてもらったんですが、全社的に支援していただきました。次の企画をという話もあります。ただ、素敵な場所なんですけど100人ぐらいのキャパなんですよ。

 成:もっと大きいところでやったらどうですか。うちで応援してもいいですから。1000人ぐらい集めて。

 竹:企業のホールなんかをお借りして、そこの企業に協賛いただくというのもいいかもしれませんね。

 成:そういうことが可能ならば。

 竹:僭越ですが、プロップがお願いすれば支援企業の皆さんは乗ってくださると思います。
 マイクロソフトとプロップの共催というのも可能ですか。

 成:それはいいですね。うちは名前は出なくていいですけど(笑)

 竹:ビル会長をそういう形でお迎えできたら本当にうれしいです。

 成:真剣に検討させてもらい、スケジュールが決まり次第お知らせさせてもらいます。
 ビルの魅力はけっこうありますから、うまくPRすれば3000人ぐらいは集まりますよ。ビルをうまく使ってもらえればそれだけで、プロップに対する理解度が1000人単位で増えたりして・・・(笑)

 竹:会長の名刺に一枚6000円のプレミアがついた、という噂話も聞きました(笑)

 成:サインなしでですか。

 竹:ただの名刺やそうです。

 成:それなら、ぼくの引き出しに1000枚ほどありますよ(笑)とにかく、ビルは今回のようなテーマの話なら喜んで来ると思います。

 竹:会長は50歳にならないと社会貢献はしないと言われてる、とお聞きしてるんですが。

 成:それは誤解です。彼が会社の金でやらないから世間には見えないんです。実は、ビルは母親を子宮がんで亡くしているんですが、子宮がんの研究所を自分で作っているんですよ。徹底的にお金もつぎ込んでいます。子宮がんに関しては世界で最高のレベルといわれ、がんの中で最も早く克服されるのは子宮がんじゃないかと言われるほどです。
 そういうのは全部、個人的にやっていて会社にはやらせないんです。その延長線からも、障害を持っている人であっても、会社としてはマーケティングの対象であるべきという考え方なんです。

 竹:全く同感です。日本ではそんなこというといけないみたいな雰囲気があるでしょう。それ変ですよね。マーケットと思われて初めて対等な関係になれるのに。

 成:そんなことあからさまに言うととんでもないことになりそうで。

 竹:おかしいですよね。逆に言えば、だからこそ私たちのような当事者側の団体が言わなきゃだめだと思うんですね。

 成:私たちはマーケットといっても、そこからの利益率が他と比べて圧倒的に低くてもOKなんですよ。赤字では長続きしませんが。

 竹:今度もしゲイツ会長が来てくだされば、いわゆる福祉カラーではない会に、是非したいと思います。福祉的な意味あいだけでは情けないですから。これを機により広いマーケットにコンピュータネットワークを広げていこう、という決起集会的なものにしたいですね。チャリティーではなくて。

 成:うちも変な話ですけど、きっちり売らんかなの話をすると思います。ただ、売るためにはどうすればいいのか、どんなものが求められているのかを問いたいですね。

 竹:その辺の平衡感覚が日本には欠けていたように思います。変に遠慮があって・・・結局はそれが障害を持っている人なんかを分けてしまう結果になっているんです。でも、もうそろそろそういう時代は終わってもいいんじゃないかという気がします。これからの高齢化社会で、同情だけで分けていくとどんどん経済的にも大変になっていくでしょうから。

個人が問われる時代がきている

 竹:高齢者の問題で言いますと、10年、20年先はほとんどの人がパソコンを使えるようになっていると思いますが、そこでできない、使えないということになるとすごいハンデになりますよね。今でいうと、電話が使えないくらいの。そういう人たちのケアはどうすればいいんでしょう。

 成:情報革命というのは生産性革命でもあるんです。最初は1万数千年前に起こった農業革命。そこで生産性が100-1000倍になって、余剰人員が生まれ階級ピラミッドができた。そういう時代が200-300世代続いた。次が産業革命。人力から他のエネルギーを使うことで生産性が10000倍になった。それが20-30世代にわたって続いているわけです。
 今の情報革命では、さらに生産性が1000-10000倍に上がる。そしてそれは2-3世代のうちに完了するかもしれない。そこに大きな格差ができるおそれがある。全地球規模でみると、恩恵を受けられる人と受けられない人の差というのは、石器時代と20世紀の違いほどあるかもしれません。
 その中で、コンピュータに起因する支配層というか優位層というのができないようにするための決定的な方策として、我々にできるのは、どんな手段を使っても、ハードメーカーがいかに大変でも、徹底的にコンピュータの値段を安くする、だれにでも買えるものにするということです。そしてだれにでも使えるということが大切です。その課程では、格差というかしんどい部分は出てくるとは思いますが。
 でも、さきほど紹介しましたソフトイマージを使えば、才能さえあれば障害を持っている人でも5人集まればパソコンで映画も作れる。5-10年でそうなります。その簡単なものとして、アメリカではもう販売しているんですが、3Dムービーメーカーというソフトの日本語版をGWあけぐらいには発売します。10000円ほどです。
 ただ、これからネットワークの時代になってくると、ただコンピュータが使えるというより、その個人が、何ができるのかということが問われてくるでしょう。ネットワークを使って囲碁を教えることができる、翻訳ができるというように。コンピュータはただの道具であってその人が問われるようになります。

 竹:コンピュータは道具にすぎない、という点に全く同感です。そしてその道具をどんな目的に使うのかということについて問われるのは、challengedも同様だと思います。プロップは、challengedや高齢者の方々が目標を持って生きて行く上でのコンピュータ、というところに視点をあてて、これからも活動を続けたいと思います。
 今日は長時間、本当にありがとうございました。


後日談
 大変インタレストな対談をさせて戴きました。対談後すぐ人事部から「ネットワークを使った在宅雇用について、マイクロソフト社として正式に検討したい」というご連絡を戴き、対談の中で出たインターン・システムも含め、話し合いを開始しました。マイクロソフト社のこのフットワークの軽快さに敬意を表するとともに、BIGな企業がchallengedの在宅雇用に取り組まれることで、新しいムーブメントが生まれるような、大きな期待を抱かずにいられません。そしてビル・ゲイツさんの講演会も、ぜひ大阪で実現したいナミねぇです!

竹中ナミ 記


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