読売新聞夕刊 令和5年5月27日より転載

足で操縦 ドローンに夢

神戸の高2 国家試験挑む


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【本文】

生まれつき両腕が欠損している神戸市東灘区の高校2年宮崎美侑さん(16)が6月、ドローン(小型無人機)の操縦士の国家資格試験に初挑戦する。両足の指で操縦する訓練に3年前から取り組み、講師が太鼓判を押すほどの実力を培った。「カメラ越しにきれいな景色を眺められるのが魅力」と語り、「障害のある人たちに『やればできる』という勇気を持ってもらえれば」と意気込む。(新谷諒真)

5月中旬、神戸市須磨区の室内スポーツ練習場。椅子に座る宮崎さんが別の椅子の上に両足を伸ばし、足の指でコントローラーのスイッチを押すと、ドローンのプロペラが回転し、高さ1メートルに浮かび上がった。内蔵カメラの映像をモニターで見ながら、足の指で巧みにレバーを操って円や8の字を描くように飛ばした後、静かに着地させた。

小さい頃から「ひとりで何でもできるようになりたい」と、両足の指と左肩に残った手の指を駆使し、食事や着替えなどたいていのことを一人でこなしてきた。ノートに字を書く時は右足の指を使い、小学校から高校まで他の生徒と同じ教室で授業を受けてきた。「両腕の欠損を不自由だとは思わない」と言い切る。


足の指でドローンを操作する宮崎美侑さん(左)と、支援する社会福祉法人理事長の竹中ナミさん(神戸市須磨区で)=三浦邦彦撮影

理系科目やIT(情報技術)への興味が強く、中学1年だった2019年頃から、IT分野で障害者らの就労支援を行う社会福祉法人「プロップ・ステーション」(神戸市東灘区)で足の指を使ってタイピングの技術を学んできた。

ちょうどその頃、法人理事長の竹中ナミさん(74)は、新たにドローン操縦技術の習得支援にも乗り出そうとしていた。懸命に練習して上手にキーボードを打つ宮崎さんに「前向きで器用なあなたならできる」とドローンへの挑戦を勧めた。

20年6月から、千葉県でドローンの教習施設を運営する榎本幸太郎さん(49)を月1回、神戸に招いてレッスンを受け始めた。操縦技術はぐんぐん上達。榎本さんに認められ、神戸港の夜景(21年11月)や静岡県藤枝市の花火大会(22年10月)で、人がいない区域の上空から撮影する役割を任せられた。

昨年12月、航空法改正でドローン操縦の国家資格「無人航空機操縦士」が創設された。2等と、より高度な1等がある。試験は各地のドローン教習所などで随時、行われている。

法改正前は、住宅地など有人地帯の上空でドローンを飛ばすのは、目視で機体を追える範囲内でしか認められなかったが、改正後は1等の資格があれば目視範囲外でも飛ばせるようになった。2等では有人地帯の目視外飛行はできない。

宮崎さんは「一流のドローンパイロットの証明になり、仕事を依頼してもらいやすくなる」と1等を目指すと決めた。春休みや大型連休を利用して千葉の榎本さんの教習施設に滞在。1日6時間の猛練習を繰り返した。

試験は、関連法令の知識を問う学科と、機体を目視せず、内蔵カメラのモニター越しに飛ばす実技がある。榎本さんは「足で操縦する1等資格者はこれまでにいないと思う。非常に難しい試験だが、きっと突破できる」とエールを送る。

宮崎さんは将来、ドローンを災害時の救助活動に生かすほか、撮影した映像をビジネスに使いたいと考えている。「障害や病気などで外出が難しい人たちに、神戸の風景を映像で届けたい」と夢を膨らませる。


宮崎さんがドローンで撮影した神戸港の夜景=榎本さん提供

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 読売新聞オンライン(動画もあります)
 足でドローン操縦、国家資格に挑戦…生まれつき両腕欠損の女子高校生「障害ある人に勇気を」

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