毎日新聞夕刊 令和2年8月1日より転載

神戸の団体

障害者の夢を乗せTake off
ドローン技術指導で就労支援


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神戸の団体

障害者の夢を乗せ Take off
ドローン技術指導で就労支援

趣味の空撮から物資の輸送、災害時の人命救助まで、さまざまな分野で活躍する小型無人機ドローン。障害者にドローンの操縦技術を指導する教室が、神戸市北区の総合福祉施設「しあわせの村」で開かれている。障害者の就労支援を目的とした取り組みだ。訪ねてみると、障害を持つ3人が自らの夢をドローンに重ね、大空に飛ばしていた。

■声や足で操縦

「Take off(離陸)」。重度脳性まひの福岡伸治さん(19)=同市中央区=が叫ぶと、ドローンが宙にふわりと浮かぶ。

7月11日に開かれたドローン教室。自ら体を動かすことができない福岡さんが声でドローンを操縦する。専用アプリが入ったタブレット端末に向け英語で指示を出す。

福岡さんは全身まひのため、声が出しにくい。6月の初回講習では、ドローンが全く反応せず悔しい思いをした。主催者からドローンを借り、自宅で毎日練習。この日は映像の撮影に成功し、「ドローンは空から景色を見られるからうれしい。できることが増えればいいな」と語った。

中学2年の宮崎美侑(みゆう)さん(13)=同市東灘区=は、両手欠損で生まれた。普段は足を使って字を書き、パソコンを操作する。ドローンも、両足の親指でコントローラーを器用に操作した。

「いろんなことにチャレンジしたい」。夢は障害者の役に立つ機械を開発すること。「ドローンは私が思ったように動いてくれるので楽しい」と目を輝かせる。

一方、永井弘樹さん(18)=同市灘区=は、発達障害の一つ、自閉症スペクトラム障害に苦しんできた。対人関係が苦手でこだわりが強く、小中学校時代には同級生からいじめられた。校区外の公立高校に進学したが、なじめずに中退。うつ病にもなり、ストレスを家の中で爆発させ、暴れた。

今春、永井さんを母万喜子さん(50)が散歩に誘い出した。道中の風景や花、新型コロナウイルスの治療にあたる医療従事者を応援する建物のライトアップ――。スマートフォンで撮影し、フォトブックにして知人に贈ると「すてきな写真」と褒められた。それから写真家を志すようになり、「ドローンで映像撮影の技術も覚え、ユーチューブで発信して世界中の人とつながりたい」と夢を描く。

■「挑戦する人」

ドローン教室は、ユニバーサル・ドローン協会(東灘区)の主催。ICT(情報通信技術)を生かした障害者の就労支援をしている社会福祉法人「プロップ・ステーション」(同区)の竹中ナミさん(71)が、ドローンを使った計測の3Dデータ化などを手がける会社「空間情報」(大阪市北区)の高橋孝明さん(58)に呼びかけて2019年10月に設立した。竹中さんは障害者を「チャレンジド(挑戦する人)」と呼んでいる。「ドローンの最大の利点は、自身が動かなくても、さまざまな作業ができること。チャレンジドの職域拡大につながる」と語る。

教室では、協会会長に就任した高橋さんが20年6月から月1回、操縦方法のほか、ドローン規制法などの関連法について3人に教えている。ドローンを人口集中地区などで飛行させる場合には国土交通省の飛行許可が必要で、まずはその前提となる「操縦経験10時間以上」を満たすことが目標だ。

一方、神戸市は条例によりドローンの飛行が禁じられている「しあわせの村」で教室が開催できるよう、特別に一部の使用を許可。将来的には、リードをつけない犬の散歩などの監視にドローンを使うことを検討しており、障害者にその業務の一部を委託する案が持ち上がっているという。

高橋さんは「ビジネス面でドローンの活用はますます広がっていく。障害者の参入も十分可能だ」と指摘。竹中さんは「後に続くチャレンジドの指針になるよう、就労を成功させたい」と話す。

次回講習は8月22日の予定。見学希望は事務局長の竹中さん(メールnami@udra.jp)。

【桜井由紀治】

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