神戸新聞 平成30年8月29日発行より転載

「障害者の立場軽んじた」

雇用水増し、怒る県内関係者

障害者の雇用を巡り、中央省庁が昨年だけで約3460人を不適切に計上した問題で、兵庫県内でも障害者の支援団体などから厳しい批判の声が上がった。

「本来なら民間企業の手本となるはずの中央省庁。ごまかすのは許されない」。身体障害者の自立支援などに取り組む一般財団法人「県肢体不自由児車協会」(神戸市中央区)の長谷照彦事務局長(70)は語気を強めた。障害者手帳を確認しなかった省庁があった点を踏まえ「なぜ採用試験で確認しなかったのか疑問。原因を精査し、障害者雇用に対する本気度を示し直してほしい」と要望する。

障害者が最低賃金以上で働く就労継続支援A型事業所「アイ・プラネット」(同区)の三村由紀子代表(50)は「ミスでも故意でも、都合よく緩い解釈をしたということだ」と非難。同事業所は就労支援にも力を入れるが、民間企業の受け入れ態勢が整わずに障害者が事業所に戻るケースもあるという。三村代表は「国には障害者雇用の現場を見て、法定雇用率の実現に何が足りないのか自省してほしい」と求めた。

県内の障害者団体など約30団体が加盟する「障害者問題を考える兵庫県連絡会議」(神戸市東灘区)の事務局長で、自身は脳性まひがある石橋宏昭さん(62)は「障害者も一国民であるのに、立場が軽んじられていたと感じる」と強調。「障害者雇用を前向きに考えていなかった国の姿勢があらわになった」と憤った。

(貝原加奈、田中宏樹)

多様な働き方の支援に転換を

障害者自立と就労を支援する社会福祉法人プロップ・ステーションの竹中ナミ理事長の話
障害者の雇用促進が制度疲労を起こしている表れだ。数字達成が目的となり、その人が何ができるかという能力は見ていない。今は情報通信技術を利用して、寝たきりの障害者が在宅で働くことも可能で、起業する人もいる。そうした多様な働き方を認め、支援する制度へ変えることが急務となっている。

菊池馨実早大教授(社会保障法)の話
実際の雇用者数が半数以下だったのには驚いた。行政機関は民間企業より高い雇用率を義務付けられているが、適正な取り扱いが大前提だ。原因解明した上で、客観的に雇用をチェックする仕組みが必要。中央省庁は、この機会に公務員採用における障害者雇用の在り方についてしっかりと考えていくべきだ。

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