神戸新聞 2011年12月26日より転載

シンポジウム「社会保障の明日を考える in 兵庫」

模索する「安心の社会」

家族や雇用形態の変化や少子高齢化など、大きく様変わりをしてきた今の日本。社会の変化に合わせた社会保障のあり方を考えるシンポジウム「社会保障の明日を考える in 兵庫」(内閣官房社会保障改革担当室主催、神戸新聞社共催)がこのほど、神戸市中央区の兵庫県公館で開かれた。基調講演に続いて、パネルディスカッションが行われ、社会保障制度やその財源確保について、会場と一体となった議論が展開された。

パネリスト
兵庫県経営者協会会長 寺崎正俊氏
社会福祉法人プロップ・ステーション理事長 竹中ナミ氏
東京大学大学院経済学研究科教授 吉川 洋氏
内閣官房社会保障改革担当室長 中村秀一氏
コーディネーター
神戸新聞論説委員長 梶山卓司


中村秀一氏
財源として消費税重要


竹中ナミ氏
支え合う社会づくりを


寺崎正俊氏
制度の中身見直す時期


吉川 洋氏
日本の法人税高すぎる

日本の社会保障がどうあるべきか。それぞれの立場からあるべき姿についてお聞きしたい。

竹中

私は重度障害を持つ娘を授かり、子を残して安心して死ねる日本を、と考えてきた。最近では、85歳の母が「わらべがえり」をしており、体調も悪い。社会保障と密接に関わっている。

しかし少しの力でも社会に還元できるように、と仲間と非営利法人を運営してきた。ハンディがあってもベッドの上からでも仕事をし、納税者になっていく活動を続けている。納税者は、使い道が信頼できて初めて増税に納得する。納税者として、また社会保障の受益者として社会のあり方を見続けたい。

中村

思い障害があっても、認知症になっても、その人がその人らしく暮らせる社会を目指すのが福祉行政の柱だ。1989年に消費税を導入したときは、福祉のためという発送に抵抗が寄せられた。しかし、これがなくては介護保険や障害者自立支援は実現出来なかった。90年以降、高齢者介護が充実されてきたのは、消費税という財源が大きい。

寺崎

社会保障の制度自体が膨大になっており、その制度の中身を見直す必要があるのではないか。特に65歳以上を高齢者とする社会保障のあり方を考え直す時期にきている。裕福な高齢者をすべて優遇する必要はあるのか。真に困っている人を救う制度にしなければならない。

兵庫県内でも、円高や長引く不況で企業は苦しい状態だ。日本で企業が負担する社会保険料を含めた租税は62%。米国は42%、韓国は24%で、日本は高い。企業の負担をこれ以上増やすことには反対だ。企業を一層不安定にし、国の崩壊につながる。制度の中身を見直し、機能充実ではなく、効率化すべきだ。

制度の中身や負担割合の見直しへの新たな指摘があったが

吉川

医療保険に入れない人がいたり、非正規雇用の若者が増えたり、従来の社会保障の傘の外に出てしまっているケースがある。強化が必要なものもある。保険の窓口負担は保険の本質の論議ではない。日本の医療保険の大きな柱は、1ヵ月の医療費の上限を定めた高額療養費制度だと考える。大きなリスクに対して、被保険者を守るのが保険の本質だ。

持続可能な社会保障の実現には、財源が必要。そのために消費税を10%まで引き上げる案がある。

竹中

社会保障は、どこまで全員が参加できるかにかかっている。私は、娘と母親をダブル肩車している状態だが、制度のおかげで仕事ができている。日本は高齢化社会をネガティブにとらえるなど、暗い議論をしている。日本人は支え合いの気持ちを持っている国民。国民が一丸になって知恵を出しあえば、世界に発信できるモデルを作ることができる。自分たちが元気を出すための税のあり方を考えなければならない。

吉川

みんなで広く税を負担するためには、どの税が適切か。法人税は国際的に見ても日本は高すぎる。そのため日本企業は海外に拠点を移し、外資系企業は入ってこない。所得税は、累進課税が導入されているが、金融所得についてはおさえにくい。残るは消費税。ほとんどの先進国で消費税が税の柱になっている。日本だけが低い合理的な理由はあるのか考える必要がある。消費税と社会保障をつなげば、持っている人から困っている人へという所得再分配の流れを作ることができる。

日本の債務残高の推移(対名目GDP比)

(出所)債務残高は「国際統計年報」(国債及び借入金現在高)など。GDPは「日本長期統計総覧」「国民経済計算」など

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