日本経済新聞 2011年7月6日より転載

交遊抄

“常識”と戦う同志

竹中 ナミ

「ナミねえ、心配かけてごめんね」「でも、麦飯も結構いけるの」。大阪拘置所の面会室。ドラマのような透明の仕切りの向こうに、彼女は普段と変わらない優しいまなざしでたたずんでいた。その表情に、気負っていた私の方が冷静にさせられたのを覚えている。

彼女とは内閣府政策統括官の村木厚子さん。冤罪で逮捕・起訴され、無罪を勝ち取った、その人だ。知り合ったのは15年以上前。厚子さんが労働省(現厚生労働省)職員でまだ課長になる前だった。年下だが、私にとって尊敬する友人だ。事件のさなかには幾度も厚子さんを訪ねた。自分の置かれた状況を冷静に受け止め、一喜一憂しないさまに改めてすごい人だと感じ入った。

私は娘に重度の障害があったことから、神戸を拠点に「チャレンジド(障害者)を納税者にしよう」と就労支援の活動をしてきた。今はNHKの経営委員も務めるが、ここまで歩んでこられたのは陰に陽に厚子さんが応援してくれたから。

厚子さんも子育てや「霞が関」の様々な壁に直面しながら、女性や障害者の生きやすい社会情つくりに奔走してきた。同じ「おかん」として、同志として今後も旧来の社会の“常識”と闘っていきたい。

(たけなか・なみ=社会福祉法人プロップ・ステーション理事長)


7月5日(火)内閣府の村木厚子さんの執務室にて。

ページの先頭へ戻る