毎日新聞 2011年2月8日より転載

時代を駆ける

障害はマイナスじゃない

竹中ナミ [1]

 ずらりと並ぶパソコンに車椅子の人らが黙々と向かう。神戸市東灘区のビルの一室。竹中ナミさん(62)が、ITでチャレンジド(障害者)の自立や就労を支援する組織を仲間と設立して20年になる。パソコン講座やメール相談などを利用し、プログラマーなどとして活躍する人はこれまでに500人以上。愛称「ナミねぇ」の目標は「チャレンジドをタックスペイヤー(納税者)にできる日本」だ。

たけなか・なみ 社会福祉法人「プロップ・ステーション」理事長。1948年10月8日、神戸市生まれ。政府の委員も多数務め、昨年6月からはNHK経営委員。ボーカルとしてバンド活動も続けている

 チャレンジドという言葉は神から挑戦の機会を与えられた人々という意味で、アメリカで使われています。日本にはそういう考え方はなかった。言葉というのは哲学であり思想であり文化。だからすごく大切。障害者というネガティブな言葉で呼ばれなくなり、チャレンジドという自覚を持ったことで、前向きに生きられるようになった人をたくさん見てきました。

 《チャレンジドという発想の契機は、脳に重い障害がある長女麻紀さん(38)の誕生だった》

 育て方について、どの医者も答えを持っていませんでした。「お母さんのせいじゃないから、がっかりしないで」って言うばかり。その時、パッとひらめいたんです。「障害のことは障害がある当事者に聞けばいいやん」って。目の見えない人のところに行って、「見えないけど何が楽しいの」って。普通は失礼でそういうアプローチはしませんよね。でも、私は15歳で高校を除籍になって家出をした不良やったから、教えてもらおうと素直に思えたんです。

 《懐に飛び込んだら、障害がある人が他の感覚を研ぎ澄ましてカバーしていることが分かった》

 本当はいろんなことができるのに、障害っていうだけで、端っこにいるマイナスな人と思われたり、可哀そうとか言われているのは絶対におかしいと。重要なのは見えない人が見えるようになることではなくて、見えなくても見える人と同じように物事が楽しめたり、仕事ができること。その人のできることを増やしていくことが、社会のやるべきことなんです。

2011・2・8

 聞き手・近藤諭 写真・大西岳彦/今週は火〜金曜日掲載です

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