朝日新聞 2011年1月22日より転載

つながる(11) 障害者発の名産品

商品力 善意超えた

カフェ・専門店 プロの指南も

 障害者が働く福祉施設の商品を買ったことはありますか。大量生産ができない分、ていねいに作られていて、専門の販売店も出始めました。商品力アップに力を貸すプロも現れています。

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 東京・阿佐ヶ谷駅のガード下。商店街の奥にその店はある。平日午後6時過ぎ、家路を急ぐ人たちが一人、二人と立ち寄っていく。

 店の名は「にぎやかな風」。全国の福祉施設で作られた商品を販売する。9坪ほどの小さな店内に、パンやお菓子、雑貨など400以上の商品がひしめく。

 「このあげもちは、作業所で米作りから餅つきまでやっている。添加物ゼロを保証します」「このカレーはタマネギを長時間炒めて、自分たちでスパイスを調合している。絶品ですよ」。店長の茶谷(ちゃたに)恒治さん(39)の説明に熱がこもる。

 開店は昨年9月。福祉施設で働いていた茶谷さんの長年の夢だった。

 「障害者は毎日働いて商品を作っているのに、賃金が安すぎる」。そう感じていた。厚生労働省の調査では、障害者が働く小規模施設などの1カ月の平均工賃は一人当たり1万2695円。大量生産できず、体調によっては納期を守れないこともあり、一般の店舗との取引は難しい。「工賃が低いのは、販路が少ないことも大きいんです」

 店に置くかどうかの基準は「商品力」。すべて自ら試し、吟味する。ものがよければ継続して買ってもらえ、障害者の自立にもつながるからだ。店の採算はギリギリだが、茶谷さんは店舗が、福祉施設と消費者の「接点」になっていると感じる。買い物に来ていた川崎市中原区のミュージシャン松本健太郎さん(33)はいう。
  「ファストファッションなど激安の商品に違和感を持っていたときにこの店を知り、国内版のフェアトレード(公正取引)だと思った」

 東京都世田谷区のベンチャー企業、ソーシャルエナジーが2009年11月から始めたネット通販サイト「美味(おい)しい社会貢献」。福祉施設で作られたお菓子のギフトやなたね油、スモークサーモンなど約20種類を扱う。横浜市の施設が、日本酒「獺祭(だっさい)」で有名な山口県の旭酒造から酒かすを仕入れてクッキーにした「獺祭・バニラクッキー」が人気。商品力があり、採算がとれるものを選んでいる。

 代表の木村知昭さん(35)は元は飲食店の社員。先輩社員が事故に遭い、作業所で働く様子を見てきたことが今につながった。「障害者を助けようという気持ちでなく、いい商品だと思ったら買ってほしい」

 昨年3月には商品を食材に使ったカフェも、会社のそばで始めた。セミナーやNPOの発表会にも開放、新たな交流も生まれている。「お客さんから『ソーシャルな出会い系』と呼ばれるようになりました」

 施設側も商品力に磨きをかける。障害者が年間5〜8回の講習で洋菓子作りを学ぶプロジェクト「神戸スウィーツ・コンソーシアム」(日清製粉、社会福祉法人プロップ・ステーション共催)。3年目の今年度は東京での講習内容を、名古屋、神戸、東京・板橋の3カ所にインターネット中継し、20人が受講。3年間の受講者は計36人に上る。

 講師は、オーストリア国家公認「製菓マイスター」に日本人で初めて認定されたモロゾフ技術顧問の八木淳司さん(59)らが務める。三男が障害者でもある八木さんは、スーパーに並ぶ福祉施設のお菓子を見て「技術的には商品にできないレベル」と感じていた。それでも置いているのは同情に違いないと。

 だから、講習では作り方だけでなく、道具や設備、衛生面など徹底してプロの考え方を伝えている。

 「原材料費+諸経費+利益で価格を決めるのは、障害者であっても同じ。受講生たちの腕前も、1年で驚くほど成長します」

 13年ほど前に総合失調症になり、神戸市北区の福祉施設で働く内海友人さん(35)は、1年目の受講生。昨年、施設がケーキ店「スイーツファクトリーぽてと」を地元駅前で始めた。内海さんは今、そこで腕をふるう。「売り上げがよくなるとうれしいし、お客さんにリピーターになってもらいたいと思うと、手抜きはできません」(小林未来)

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