東京新聞 2010年12月30日より転載

障害者と結ぶ 企業

商品づくり「仕事に誇り」

 ビスケットを模した小さな革が丁寧に茶色に染められていく様子に、永富恭子さん(49)は顔をほころばせた。

 主に知的障害のある人たちが働く神戸市のNPO法人「萌友−for you」。二人の女性が革に少しずつ色を重ねていた。

 「このグラデーションと温かさは、手染めでしか出せない。これは単純作業ではなく、商品価値を高める工程」と強調する。革は工場で縫製されてカードケースになる。

 永富さんはカタログ通販大手の「フェリシモ」(同市)で、商品企画を担当する。同社は2003年から、障害者と協働する「チャレンジド・クリエイティブ・プロジェクト(CCP)」を開始。装飾品やバッグなど手仕事の良さを生かした商品を開発・製造し、カタログやインターネットで販売する。製造の重要な部分を担うのが障害者たちだ。

東条むつみ代表理事と永富恭子さんの写真
革を染める作業を見守りながら、東条むつみ代表理事(中)と仕上がり具合を見る永富恭子さん(右)=神戸市で

 「チャレンジド」は、「挑戦というチャンスを与えられた人」との意味で障害者を指す。永富さんがこの言葉に出合ったのは02年、障害者の就労を進める社会福祉法人「プロップ・ステーション」(同市)の竹中ナミ代表(62)の講演だった。障害のある娘がいる竹中さんは「与えられるだけでなく、仕事の誇りや社会の一員という思いが、チャレンジドの人生を豊かにする」と語りかけた。

 永富さんにも知的障害のある長男(9つ)がいる。当時は育児休業が明けた直後。障害を前向きにとらえる考え方に共感した。

 竹中さんの講演会は、フェリシモの矢崎和彦社長(55)が社員に聞かせたいと開いた。矢崎さんは社会貢献活動に熱心だ。営利だけではない企業のあり方を模索している。1995年に阪神大震災を経験すると活動をさらに活発化させた。

 永富さんは、矢崎さんがプロップ・ステーションとの共同事業としてCCP構想を打ち出すと、迷わず手を挙げた。

 障害者の手作り品は、ニーズに合っていなかったり、生産量や売り場が限られたりと、なかなか消費者に届かない。CCPでは永富さんらが持つマーケティング力や企画力を生かして「売れる商品」を開発した。

 現在、CCP参加の作業所などは約40カ所、商品は約200種。CCP商品掲載のカタログ売り上げは徐々に伸び、3〜8月期には前年同期に比べ1億円近く増えた。

カードケースの写真
CCPで開発された革のカードケース

 14人いる「萌友」メンバーの平均賃金は月約1万8,000円。年2回ボーナスもある。東条むつみ代表理事(61)は「正当な工賃で評価してもらっている」と話す。

 永富さんは言う。「ゆっくりでもちゃんと上達していく。企業がちょっとだけペースを落とせば、チャレンジドの方にもできることはたくさんある」

(竹上順子)

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