NEW MEDIA 2010年12月号より
KSC(神戸スウィーツ・コンソーシアム)が総務省実証実験に参画
チャレンジド
が
多地点
を結ぶ
遠隔講習システム
でスウィーツ実技を受講
他の3会場がリアルタイムに映し出される
社会福祉法人プロップ・ステーションと日清製粉株式会社が共催する神戸スウィーツ・コンソーシアム(KSC)が、新たなプロジェクトに取り組んでいる。
「スウィーツの世界で活躍するチャレンジドを生みだそう」と2008年6月に発足し、昨年、今年と東京・日本橋小網町で開催しているチャレンジド・プログラムに、総務省がブロードバンド・オープンモデル実証実験を実施している。
この実証実験は、ブロードバンドの高度ネットワークを使う遠隔講習システムによって実技指導の可能性を検証しようというものだ。ハイビジョンの高画質映像と音声を多地点に同時送信し、会場相互の双方向による取り組みから見えてきたものは何か。
( レポート・写真:吉井勇・本誌編集長)
スウィーツの聖地・神戸から KSCプロジェクトは始まった
進行役の八木講師が各会場に問いかける様子の画面
3会場から映像はマイクがONになった会場の画面が大きく自動表示される
KSCのチャレンジド・プログラムは「スウィーツの世界で活躍するチャレンジドを生みだそう!」を目指して、神戸を活動拠点にするプロップ・ステーションと大手製粉会社の日清製粉が共同で運営するもので、スウィーツの聖地・神戸からスタートしたものだ。
「プロのパティシエになりたいというやる気のあるチャレンジドを、超一流のパティシエが教え、メーカーや流通、小売りといった分野のプロたちが支えるなかで、チャレンジドの就労支援を広げたい」と、プロップ・ステーションの竹中ナミ理事長は意欲を燃やす。作業所や施設に所属する知的・精神のチャレンジドたちがお菓子やパン作りの技術を学ぶもので、東京・日本橋にある日清製粉小網町加工技術センターを会場に半年間のカリキュラム(全7講習)で行われている。
講師の中心はオーストリア国家公認マイスターの資格を持つモロゾフのテクニカル・ディレクター八木淳司氏で、他4名の一流パティシエたちが教えるというスウィーツ業界も注目する取り組みとなっている。
「おそらく世界初」のチャレンジド遠隔講習会
「チャレンジドに有効な遠隔講習の取り組みを実証したい」と会見(5月15日)で話す総務省高度通信網振興課の猿渡知之課長
今年のKSC「チャレンジド・プログラムVol.3」では、Vol.1とVol.2の2回とは違う取り組みがあった。竹中理事長は「東京・日本橋の会場から、名古屋、神戸、東京・板橋の3会場をブロードバンド回線で結ぶ遠隔講習会に取り組みます。総務省のブロードバンド・オープンモデル実証実験ですが、各地の会場に集まったチャレンジドたちが同じレシピで、東京会場の講師が指導する実技を映像と音声で同時に学ぶという遠隔講習会は、おそらく世界で初めてのことやないかと思います」と説明する。
9月18日に行われた遠隔講習の一部を紹介しよう。
東京会場では、遠隔講習の進行役である八木氏と、実技講師の永井紀之氏が8名の受講生に説明を始める。その様子を3台のハイビジョンカメラ(「AG-HMC155」パナソニック製)で撮影する。永井講師の手元を撮影する上部からのカメラと、受講生の様子などを撮る固定と移動の2台のカメラという配置。遠隔講習で鍵を握る音声は、ワイヤレスマイクからダイレクトに取り込むシステムとなっている。
進行役の八木氏が「日本橋の八木です、質問はありますか」と他の3会場に呼びかける。「神戸会場から質問です」という声がスピーカーを通して流れる。各会場も同じように他の3会場の映像と音声が配信され、大型テレビ画面に映し出されている。「甘みを出すトレハロースをグラニュー糖に変えてもいいんですか?」。講師の永井氏がカメラの前に立って、「トレハロースについて話し出すと長くなっちゃうんだよね」と笑いながら説明する。親しみある話しぶりに一体感が増す。
八木氏は映像による実技講習について、「実技の手順を伝えるだけでなく、講師の表情も含めた映像によって、より深く伝えられると思います」と話す。技は「見て盗め」といわれるが、講師の表情を含めた丸ごとの映像づくりが、そのことと相通ずることなのだろう。
映像制作を担当したNTTナレッジ・スクウェア(株)の小林健太郎プロデューサーも「料理番組のような映像ではなく、ライブ感、例えば講師がとっさに話すアドリブなどが大事だと考えています」と話し、奇しくも同じことを強調したのである。
運用した遠隔講習システム「TOMMS」の特徴
総務省の実証実験を担当したのがNTTコミュニケーションズ株式会社。導入したシステムを簡単に紹介しておく〔図〕。
〔図〕遠隔講習システムの全体構成
東京・日本橋の会場を拠点に、全国3カ所を結ぶ遠隔講習システムは多地点・リアルタイム双方向ネットワークができる「TOMMS FACTORY」(以下、TOMMS)を導入。このTOMMSの特徴は、リアルタイム双方向マルチメディア機能とハイビジョン(72Op)を利用した高画質映像配信、さらにマルチカメラによるわかりやすいコンテンツ制作ができることにある。
日本橋会場→ 各会場 | 各会場→ 日本橋・他会場 | ||
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映像 | コーデック | WMV | WMV |
解像度 | 720p | VGA(640×480) | |
フレームレート | 30fps | 30fps | |
伝送帯域 | 1Mbps | 300kbps | |
音声 | コーデック | WMA | WMA |
伝送帯域 | 22kbps | 22kbps |
〔表〕を見るとわかるように伝送帯域は最大1Mbpsに抑えるように設定されている。それはプロパイダー側が1Mbps超で長時間の接続に対して自動遮断するという制約があるからだと説明する。より高帯域を確保するにはコスト負担が大きくなるためだ。
9月18日の約6時間という長時間にわたる遠隔講習を終えて八木氏は2つのことを指摘した。まず、各会場に実技指導ができる講師を配置したことについて、「映像を見ながら実習することは難しいので、そこを繋ぐ役割をやってもらいましたが、やはり必要なことでした」と振り返る。
もう一つが遠隔講習のメリットについてである。「会場に出向くことができないチャレンジドでも、このシステムならチャンスが広がります」と評価しつつ、「映像と音を伝えることで十分かというとそうではなく、そのベースとなる講師との信頼関係づくりが大事だとあらためて感じました」と指摘した。
今後、多地点を結ぶ実技の遠隔講習システムを定着させるためには、映像や音声の撮り方や、会場内のモニター配置、音響システムの設定などが簡便にできるプラグ&プレーのレベルまで進化させるというシステム上の課題もみえた。
次回は、現在話題となっている3D映像の情報伝達力を生かした遠隔講習を検証してもらいたい。もちろんメガネ無し3D映像システムである。