神戸新聞 2010年6月19日号より転載

NHK経営委員に就任する 竹中ナミさん

「何が起きているか分からなかった」。聴覚障害がある友人にそう言われた。鳩山前首相が退陣を表明した日、テレビ各局は特番を組み、渦中の人を映した。一大事であることは画面から伝わったが、肝心の文字情報がなく、不安だったという。

「一国のトップの辞任をすべての人に伝えられないなんて。公共放送として、放送のユニバーサル化に率先して取り組んでほしい」。3年間の任期中、訴え続けるつもりだ。

社会福祉法人プロップ・ステーション(神戸市東灘区)の理事長。活動の原点にあるのは「チャレンジドをタックスペイヤーに(障害者を納税者に)という強い思い。重症心身障害がある長女麻紀さん(37)を育てながら1991年、障害がある人がコンピューターの操作を学び、自立を目指すプロップ・ステーションを障害者らとともに設立した。共感の輪は全国へ広がり、行政機関の各委員として全国を飛び回る。

地上デジタル放送では、ボタン一つで字幕が表示される。総務省の情報通信審議会委員として、ユニバーサル化を繰り返し説いた。CMの字幕化には道を開いたが、生放送のニュース番組では完全実施には至っていない。「情報があって初めて、よりよい投票行動や消費行動ができる。情報格差があって当然だなんて、対等に見ていない証拠です」

障害者の能力や可能性を企業に伝えつつ、障害者を「弱者」と決めつける支援のあり方にも異議を唱える。「公共放送にはそんな社会の課題を発信する役目もある」

61歳。神戸市在住。

 (萩原 真)

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