朝日新聞 2009年8月24日より転載

私の09総選挙 リーダー論(4)

若者の才能 気づかせて

社会福祉法人理事長 竹中 ナミさん

竹中ナミの写真

社会福祉法人理事長 竹中ナミさん

神戸市出身。「プロップ・ステーション」を設立、IT技術で障害を持つ人の社会参加を目指す。著書に「ラッキーウーマン」など。60歳。

 私たちの事務所に昨春、生まれつき全身まひがある高校2年の女の子が、養護学校の先生と一緒に相談にきました。日常生活すべてに介護を要し、電動車いすの外出も介添えが必要だった。

 でも、わずかに動く指先に色鉛筆を挟み、今時の女の子に受けそうなかわいい絵を描くのが得意。

「技術を身につけたら、イラストレーターになれるで」と持ちかけたら、懸命にグラフィックス・ソフトを学び始めました。

 数カ月して、デザイン会社からカレンダーの図柄の注文が事務所に来た時、彼女の作品がコンペで選ばれました。報酬は数万円。初めて自力で稼いだお金でした。

 彼女の表情が目に見えて明るくなった。最初は「無理な夢を見させんでほしい」と反対した母親も、次に仕事が来るのを楽しみにしています。何かができることを自覚した瞬間、人の目には輝きが宿り、大きな力を発揮するのです。

 モノがあふれている社会で、子どもや若者たちは、自分が持っているはずの力を眠らせているように思えてなりません。そんな時代のリーダーには、「君たちに何かをしてあげるよ」と笑顔で呼ぴかけるより、「自分に何かできるか」を気づかせる能力が求められていると思う。

 何かができることに気づいた個人が集まれば、これまでなかった新しいうねりが、沈滞した社会に現れるのではないでしょうか。

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