NEW MEDIA 2009年9月号より転載

KSCレポート

プロが教えることのスゴさ

IT専門誌である本誌が、なぜ神戸スウィーツ・コンソーシアム(KSC)に注目するのか。ここ20年ほどITビジネスは「株価に踊ってきた」ことで、新しい社会的システムづくりに貢献してきたかという疑問があり、原点から考え直す時期に入ってきたのではないかと考えている。そういう意味で、KSCプロジェクトは示唆に富む。プロの役割は何か。伝えること、コミュニケーションとは何か。また、できる・できないと勝手に決めつけた「常識」を問い質す柔軟な思考という点から、ITビジネスが陥っている硬直さをぶち破ることができるのではないか。
(レポート:吉井勇・本誌編集長、写真:石曾根理倫)

「タイミングが大事」でも、慌てることはない

 「手の込んだものではなく、基本がわかることを考え、実技のプログラム・メニューを考えました。材料や道具からきちんと理解することが大事です」とハ木淳司講師の説明が始まる。ハ木さんはオーストリアで製菓マイスターの称号を持つ数少ない日本人で、現在は神戸の老舗ブランドであるモロゾフのテクニカル・ディレクターとして活躍するパティシエ。「菓子作りで大事なことはタイミングです。ここを習得してください」とポイントを話す。また、「段取りなどを説明していきますが、ゆっくりで結構。慌てることはありませんよ」と何度も何度も語りかける。受講生たちは、ハ木さんの「慌てることはないですよ」の声かけに安心してマイペースで作業を進めていく。


オーブンの焼き具合を見るポイントを講師(右)から学ぶ

 初回のプログラム・メニューが焼菓子のマドレーヌ。2回目が生菓子「木イチゴとヨーグルトのムース」、3回目がイースト焼菓子「ヌースボイゲル」と焼菓子「ケーゼゲバッケン」、4回目がパンで、「ポテトパン」と「ベーコンとチーズのガレット」、5回目が生菓子「ブッシュ・ド・ノエル・マロン」、そして最終の6回目が修了式と成果発表会となっている。

 マドレーヌをオーブンで焼いている時間を使って受講生からの質問を受ける。「生地にマーマレードを入れたら」とか「ココアを混ぜると」といったアイデアをハ木さんにぷつける。ハ木さんは「マーマレードは柔らかいので下にたまるかもしれません、ココアの場合、生地がしまるように思いますね。やってみないとわからないことがあります。やって確かめてみるのも大事ですよ」と丁寧に答える。また、受講生サポートの職員からも質問が出る。「家庭用オーブンを使うときの留意点はありますか」にもハ木さんは説明する。世界的なパティシエに質問する機会など、今まででは考えられないことだった。

 最後に、受講生全員が焼き上げたマドレーヌの出来栄えを見ながら、講師たちがアドバイスしていく。「同じ材料で、同じ分量で、同じようにやったのですが、焼けた色合い、大きさなどが違う。ここが面白いところです。例えば、溶したバターを生地に入れて合わせるときの空気の入り方で違うのです。混ぜ具合でグルテンの状態が異なるため、スポンジっぽくなったりもします」と説明しながら、「どこまで混ぜるか、それを自分で決めることが必要で、自分なりにつかむしかない」とプロとして身に付けるべき点を伝えていく。ここあたりがKSCのねらう講習の醍醐味だろう。

 

代々木公園「たなばた縁日」にKSC修了生がお菓子販売

 6月27日と28日、代々木公園のケヤキ並木通りに24のテントブースが並んだ「地域の魅力セレクション2009」のたなばた縁日が開催された。ここに社会福祉法人プロップ・ステーションがKSC修了生2名の所属する「カフェぼてと」と一緒になって神戸のスウィーツをアピール。プロのバティシエを目指す彼らが作った、焼菓子フィナンシェなどを販売した。

また、縁日の舞台では出展紹介が行われ、修了生2人が「しっかりと教えてもらって作りました」と商品をアビールするなど、新しい活動を繰り広げた。

 

(関係者座談会へ)

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