Co-CoLife 2009年Summerより転載
Message 心に効く言葉 <ココトバ>
真のバリアフリー社会を目指すなら、心のバリアを取り除くことが大事。障がいのある人たちとともに活躍する人の言葉の中にはそんな心のバリアフリーにつながる秘密が隠されているに違いない。
取材/文・大塚健太郎 撮影・名里一郎
今回の言葉は……
理事長
竹中ナミさん
社会福祉法人 プロップ・ステーション
http://www.prop.or.jp/
1991年に神戸で設立されたプロップ・ステーション。障がい者を「チャレンジド」と呼び、一人でも多くのチャレンジドが納税者となれるような社会をつくるべく活動している。理事長の「ナミねぇ」こと竹中ナミさんは、数多くの講演会などをこなしながら、政府や自治体の委員としても活躍。そのナミねぇが「みんなもっと不良にならなくちゃ」と語る、その真意とは。
「常識にとらわれない不良になることが新たな価値観を生み出す近道」
「私はもともと超が付くほどの不良少女だったんです」。開口一番そう語るナミねぇ。決められたルールの上を歩くことに必然性を感じなかったという。そのため、重症心身障がいの長女が生まれてきたときも、世間が抱く障がい者へのイメージとは異なる考えを持っていた。福祉政策によって守られるべき存在というのが一般的ななかで、自立生活を送り、社会参加を目指してもいいのではないか、自然とそんな考えにたどり着いた。「日本人は真面目すぎる。たまには不良になって、一歩はみ出してみるといい。そうすれば、また違った価値観が生まれてくるはず」。これは、障がいのある人にも当てはまるという。「親から教え込まれているせいもありますが、自分にはできることがないと思い込んでいる人が多いですね」
「障がい者はハンディを持つのではなく挑戦する使命、チャンスを与えられた存在」
「チャレンジド」という言葉も、過去の障がい者へのイメージを覆すものだ。「挑戦」という使命、あるいはチャンスを与えられた人という意味で、障がいがあるからこそ、さまざまな経験ができるのだと、前向きに捉えることができる。ナミねぇ自身もこの言葉によって大いに励まされたという。「阪神大震災で被災し、落ち込んでいたときに『チャレンジド』という言葉を知ったんです。まさに、挑戦するチャンスを与えられたんだと思うと、元気が湧いてきましたね」
また、日本では介助=奉仕というイメージが強く、自然と上下関係ができてしまっている点も問題だという。アメリカでは、起業家が秘書を雇うように、チャレンジドが自ら賃金を支払って介助を雇う。「でも、そのためには、チャレンジドが安定した収入を得なければなりません。そこで、ITによる就労支援を始めたんです」
「誰にでも得意不得意があるもの持っている能力を生かすことが大事」
大事なことは、持っている能力を最大限に生かすことだという。「誰にでも、得意不得意があるものです。できないことばかりに注目してはいけません。ある人には、不得意な分野であっても、別の人にとっては得意分野であるというケースも多いでしょう。そんなときに、お互いに補完しあえる社会であることが理想ですね」。プロップとは支えあいという意味。一人ひとりが支えあって生きていく、共生社会を目材して名付けられている。
もう一つ大事なのが、プロの指導を仰ぐこと。「例えば、チャレンジドの作った料理やお菓子、または雑貨などが、チャリティでしか売れないのだとしたら、それはそのレベルのものしか作っていないからです。でも、きちんとプロに教われば、障がいの有無にかかわらず、高いスキルが身に付くはずです」
親も教師も手が付けられないほどだったというナミねぇを、更生させたのは長女の存在だと振り返る。「チャレンジドにはものすごい能力が秘められています。また、できないことがあるといっても、決して悲観するようなことではなく、これから成長する可能性を秘めているということでもあるのです」
「なぜ障がい者に働かせるんだ。福祉で守ってあげるべき存在だろう」。当初はそんな反感を抱かれることも多かったという。それが当たり前の世の中だったということだ。今でも、知らず知らずのうちに、当たり前だと思い込んでしまっていることはないだろうか。「不良のススメ」。実践してみる価値は大いにありそうだ。
長女(現在36歳)の誕生がきっかけとなり、障がい児医療や福祉について独学で学んだナミねぇ。現在は、東京と神戸でパソコンセミナーを行うなど、多方面から就労支援活動を展開。2002年には、情報通信バリアフリーへの貢献が認められ総務大臣表彰を受賞。2009年には、米国大使館から「日本の勇気ある女性賞」が授与された(写真提供プロップ・ステーション)