朝日新聞 12月4日より転載

笑顔の光源

神戸ルミナリエ ハートフルデー

 障害のある人たちに一足早くゆっくりと「神戸ルミナリエ」を楽しんでもらう「ハトプルデー」が2日夜、神戸市中央区の東遊園地で聞かれた。組織委員会が主催し、「ネスレ日本グループ」が協賛した。昨年より約1千人多い約1万1千人が参加。光の壁掛け「スパッリエーラ」(全長140m、最高部21m)が放つ「希望の光」を、人々は様々な思いで見つめた。

ルミナリエの写真
ハートフルデーを楽しむ人たち=2日、神戸市

何回見ても心に安らぎ

ルミナリエを見る人たちの写真

光が夜空に広がると、満面の笑みが広がった。神戸市北区の身体障害者療護施設「二郎苑」で暮らす尾潟純さん(42)。右手をしっかりと伸ばし、施設職員の介肋を受けずに電飾の点灯ボタンを押す役を務めた。

尾潟さんは脳性まひで手足や会話が不自由だが、「障害者の存在を世間に知らせたい」と積極的に外に出かける。今年の点灯役も即座に引き受けた。「僕は雨男だから」と心配だった天気。パソコンで毎日チェックし、本番に備えてきた。

阪神大震災の時は北区の実家にいた。揺れに驚いて大声を上げ、親が2階から駆けつけてきた。家族のように仲の良かった職員が、被災をきっかけに施設を辞めたのがとてもつらかった。「ルミナリエの光は、何回見ても心が安らぎます。みんな、来年も健康で仲良く過ごせたらいいな」

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点灯ボタンを押す尾潟純さん

今度は好きな人と一緒に

「すごくきれいで、頭が真っ白になりますね」。神戸市北区の内海友人さん(33)は、仲間だちと幻想的な光に見入った。震災があった時は大阪府箕面市に住んでいた。兵庫県明石市の実家の電話がつながらす、不安な思いをしたのが忘れられない。この数年後に統合失調症を患い、人ごみに入れなくなった。

6月、神戸市内の社会福祉法人が洋菓子職人を招いた講座に初めて参加した。講座は12月までで、「喫茶店を開きたい」という夢が少しずつふくらみつつある。

ルミナリエは病気になる前に一度見たきりだった。多くの来場者がいたけど、なぜか気にならなかった。光も前よりきれいに見えた。「病気の自分を受け入れられたのかな。今度は好きな人と一緒に来たいです」

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内海友人さん(中央)

涙出そう

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山崎朋香さんと薮内友美さん(右)

車いすに秉った大阪府吹田市の薮内友美さん(24)は初めてのルミナリエ。「涙が出そう」。感動にひたりながら、あふれる光にデジタルカメラを向けた。

生まれつき両足が不自由だった。リハビリで一時的に歩けるようになったものの、現在は気兼ねなく外出できる機会も少ない。楽しみにしてきたハートフルデーには、介護福祉士の山崎朋香さん(27)が付き添ってくれた。

「震災がきっかけの催しですが、この光はハンディキャップのある人にとっても癒やしになるんです」。そうつぶやく山崎さんのそばで、藪内さんは目にうっすらと涙を浮かべた。

文 根岸拓朗
写真 西畑志朗
矢木隆晴

ルミナリエを見る人たちの写真

神戸ルミナリエ
阪神大震災の犠牲者の鎮魂と復興への希望を込めた「光の彫刻作品」。
95年から毎年開催され、昨年は約404万人が訪れた。ルミナリエは「電飾」を意味するイタリア語の古語に由来する。

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