産経新聞 10月27日より転載

この本と出会った

「悠久」生きる娘 私の“火の鳥”

─── 『火の鳥』全13巻 手塚治虫著(角川書店ほか・7820円)

火の鳥の表紙

拠点の神戸と、今月1日に開設した東京オフィスを往復する新幹線や、全国に飛び回る飛行機で、いつも何か読んでいる。コンピューター、インターネットを駆使してチャレンジド(障害者)や高齢者、そしてすべての人がもてる力を発揮できるユニバーサル社会の実現をめざし、分野の垣根ない"乱読"である。

ただ"私の一冊"と呼べるのは、やはり私が心から尊敬する漫画家である手塚治虫さんの『火の鳥』。未来編のロボット、ロビイのアイデア(ロボット三原則)を世に出したアイザック・アシモフの『私はロボット』も大好きなんやけど、一つを選ぶなら、人類の黎明期(れいめいき)から滅亡、その先の未来まで何十億年もを描いたこの大作を思いだす。

初めて読んだハードカバーの全集(初版)は実家で大切に保存していたが、平成7年の阪神淡路大震災で自宅とともに全焼してしまった。今はソフトカバーを分冊で読み継いでいる。

手塚さんにあこがれ、漫画家になりたくて手塚さんが始められた「マンガ大学(通信制)」の第1期生になったのが中学3年生のころ。不良やった私ナミねえは、地味なデッサンの勉強が続くので挫折し、退校してしまったけれど、今でも「あんた、手塚マンガに出てくる女の子みたいやね」と少女時代に言われたことが、最高のほめ言葉として心の中に残っている。

あのころは、よもや私も娘を授かり、娘のおかげで今の活動を始め、産官政学民の多くの方々と出会うことになるとは思いもよらなかった。今月からは東京でも「チャレンジド就労支援ICTセミナー」を開き、チャレンジドの自立を目指し、就労促進や雇用創出に取り組む試みが始まっている(受講生募集中)。

娘は35歳のいまも私を母親と認識できないチャレンジドやけど、ゆっくりゆっくり悠久の時を生きる娘は、まさに「わたしの火の鳥」だ。

社会福祉法人
「プロップ・ステーション」
理事長竹中ナミ
竹中ナミの写真

<メモ>

たけなか・なみ 昭和23年生まれ、神戸市出身。市立本山中学校卒業。財務省、総務省、内閣府、国土交通省の委員などを歴任。著書に『ラッキーウーマン』。http://www.prop.or.jp/

手塚治虫の『火の鳥』は、不死の血を持つ火の鳥をモチーフとして、人間とは何か、永遠の命とは何かを壮大なスケールで問い続けた長編大作。漫画の古典的名作として、漫画家、劇作家ら多くの芸術家が影響を受けた。

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