NEW MEDIA 10月号より転載

特集 テレビCMと字幕サービス

インタビュー 情報通信審議会 竹中ナミ委員

第4次中間答申で注目してもらいたい重要なこと

「“For”the Challengedではなく、
“By”the Challengedへ発想の転換」

竹中ナミの写真

情報通信審議会がまとめた第4次中間答申は、放送史に残る1ページをめくっ た。情通審の場で、CM字幕の問題を提起してきた竹中ナミ委員に、中間答申 「字幕」内容の注目すべき点を聞いた。竹中委員は、社会福祉法人プロップ・ ステーションの理事長であり、障害のある方を「Challenged」(チャレンジド) とアメリカの言い方を提唱してきた方だ。
(聞き手・構成:吉井勇・本誌編集長)

字幕制作現場を視察

― CMの字幕に関して初めて記載されました。

竹中ナミ委員 審議会では地デジ移行に関する技術中心の話題が多かったのですが、終盤になって番組などが話題となってきたので、ここぞとばかり字幕について発言しました。字幕をよくご存じない委員も多く、多分放送局の方も同じでしょうし、社会全体の関心も少ない状況ではないでしょうか。

―行動派の竹中さんらしく、字幕制作の現場を視察されました。

竹中 月刊ニューメディアの記事で問題の所在を知り、それならばと字幕制作の現場や放送局を見て回ったのです。

 

ワンセグが示す新たな視点

― 竹中さんは字幕について、「聴覚に障害のある方をサポートするという福祉的な捉え方だけではなく、幅広い利用、新しいビジネスにつながる観点が必要」と常々話されています。

竹中 地デジの技術は、すべての地デジ対応テレビで字幕を表示できるようにした素晴らしいものです。少し考えてみませんか。音が聞こえないという状況は、聴覚に障害がある方ばかりでなく、激しい雑音のある所や、音に出して聞くことができない場所も同じことになるわけです。例えばワンセグを利用することで、電車の中や病院で音声ではなく字幕で楽しめるわけです。ユニバーサルデザインになっていくのです。プロップステーションでは障害のある人を「Challenged」と呼んでいますが、「For the Challenged」という福祉的な発想ではなく、「By theChallenged」という発想に転換していくことが大事なことだと考えています。つまり、字幕があって便利だなと思うシーンが増えていくのです。「For」から「By」に考えを転換すると、いろいろ新しいことが見えてくるのではないでしょうか。

 

意識と体制が一体となった変革

―今回初めてCMの字幕付与が話題になりました。私は偉大な一歩だと思って読みました。聴覚障害者からCMに字幕を付けてほしいという声があっても、これまでは関係者に届いていなかったのですから。

竹中 聴覚障害の方は「CMには情報がないもの」と割り切っているのです(笑)。本来CMは、より多くの人に自分たち企業や商品のメッセージを伝えるためのもですから、それが届いていない層を据り起こすのは重要なビジネス戦略だと思います。字幕によって、この問題が解決できるのにもったいないことです。

― アメリカは法律で字幕付与を義務化してきました。日本も法律化した方が一気に進むように思いますが。

竹中 この問題を考えるとき、ポイントの一つに「公共」という概念の捉え方がアメリカと日本では違うことがあると思っています。日本は「ほとんど」を意味し、アメリカは「全部」ということなのです。アメリカでは、障害者すべての人に対しIT機器のアクセシビリティを義務づけ、怠った場合には制裁罰則のある改正リハビリテーション法第508条があります。アメリカは訴訟社会ですから罰則を含めた法律が必要なのでしょう。日本の場合、努力義務という考え方で、スピードはゆっくりですが、意識と制度が互いに関連しながら一体となって変革していくという進め方だと思います。法律化したとしても、本当の意味で一人ひとりの意識変革が伴うには、多くの時間が必要でしょう。

 最後に字幕の表現力をもっと高めていくことを考えませんか。現在の字幕は文字を表示しているだけですが、これからは話し言葉にある感情の起伏などを伝えられる表現方法を見つけることも考えていきたいところです。

― どんどん問題を投げ掛け、変化の機運、兆しを生かしてください。

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