毎日新聞 2006年6月23日より転載

年年歳歳

可能性を阻む先入観

竹中 ナミ

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竹中ナミ

ナミねぇです。プロップ・ステーションではたくさんのチャレンジドがパソコンの勉強をしていますが、皆さんは「パソコンって、知的ハンディや自閉症の人には無理」って思ってません?

実はこれ、大きな誤解です。プロップのセミナーには、養護学校在学中からお母さんと一緒に通っていた知的ハンディを持つタケちゃんという笑顔のすっごく素敵な青年がいますが、彼はホームページ製作の技術を身に着け、卒業後に通っている作業所の宣伝ページなんかを作りました。その作業所ではホームページを作れる人がいなかったので、タケちゃんはパソコン分野でもそこで頑張っています。

阪神タイガースの熱烈ファンの彼は、タイガースの試合や好きな選手のことをインターネットで検索したりすることからパソコンに興味を持ち、今ではセミナーボランティアもしてくれてるんですよ! 自閉症あるいは自閉傾向の強い人とパソコンの相性が良いのは、私たちの世界(チャレンジドとパソコンの繋(つな)ぎ役をしてる人たちの世界)ではすでに「常識」です。全く対面の会話が交わせない自閉症の青年とナミねぇは、チャットでばっちりお話しできるんですよ。

絵が好きなチャレンジドが、自宅では絵の具や水を飛ばすのでなかなか思いっきり描けなかったのに、パソコンのお絵かきソフトで個性的な作品を生み出した、という例も山ほどあります。

チャレンジドの可能性を阻むものの一つは、先入観ってことやね。落書きのような不思議な作品も、プロのデザイナーが見ると「販売に堪えうるアート作品」という評価を受けることも多々あります。プロップが通販の大手企業であるフェリシモと連携して推進している「チャレンジド・クリエイティブ・プロジェクト」も、そんな発想から生まれた取り組みです。

チャレンジドの才能や個性を育て、仕事に繋げるためには、プロとの連携が欠かせませんが、日常生活の大半を「福祉関係者」に囲まれていることの多いチャレンジドたちが、プロとの出会いを果たす場が増えていくことがこれからは必要です。発想の大転換が迫られていると、ナミねぇは思っています。

(たけなか・なみ=プロップ・ステーション理事長)

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