Works No.75 2006.04-05より転載

CATALYST(カタリスト) 人と組織の新論点

「チャレンジド」を納税者にできる日本に

竹中 ナミ
ITで障害者の自律と就労を支援する「プロップ・ステーション」理事長

  • ※触媒の意味

[写真]竹中ナミ「チャレンジド」という言葉を知っていますか。神からチャレンジすべき課題や使命を与えられた人という意味で、障害者を表す新しい言葉です。障害を課せられた人を意味する「ハンディキャップ」に代わり、障害という負の部分ではなく、その人の可能性に目を向けようという発想から生まれました。

ケネディ大統領が初めてこの言葉を使い、「チャレンジドを納税者に」と訴えました。障害があるから働けない、納税者になるのは無理だと社会が決めつけることが差別で、納税者になりうる仕組みを国家は作るべきだというのです。

この話を聞いて、私は目からうろこが落ちました。日本では弱者とされて税から手当てを受けるのが障害者です。「チャレンジドを納税者に」と言っても、福祉関係者に理解されないのが実情なのです。

助けるやさしさと差別することの違い

日本人は他人を助けるやさしさをもっています。でも、気の毒だから何かしてあげるのは上から下へという発想です。気の毒な聴覚障害者のためにメモを取るボランティアはしても、障害者がお金を稼ごうとすると、手伝わないと言うのです。米国ではお金を払って必要なことをしてもらっています。仕事で秘書を使うのと同じです。

助けを受ける側にとって、お願いしてやってもらうか、堂々と頼めるかで意識の差は大きい。米国を訪れたチャレンジドは、帰国したとたん障害者になったと言うのです。

かわいそうと思った瞬間、差別が始まっています。そうではなく、同等なことをするために何が必要かを考えるべきでしょう。日本なら、美容師だった人が事故に遭い下半身が不自由になると、もう美容師を辞めなさいといわれる。これが米国だと、髪をカットできる高さまで体を上げられる車椅子を作り、仕事を続けられるようにするのです。

ユニバーサル社会を日本型の福祉社会像に

人は、働くことから排除されたら、惨めな思いをせずにいられません。でも、今のあなたの状態で、あなたの力はこういう風に発揮できると言われれば、誇りを失わずにすむのです。働き方の選択肢をつくらなければいけないし、その責任は企業にも地域にも、国にもあります。

私は、目指す社会をユニバーサル社会と呼んでいます。みんなが自分の持てる力を発揮して、なおかつ支え合いをする社会です。

バリアフリーは、例えば学校の入り口に段差があると車椅子の人が入れないから、段差をなくすことです。ユニバーサルというのは、勉強してチャレンジドも先生になれるということです。

プロップ・ステーションでは、参加者が自分でできる範囲の役割を堂々と果たしています。手が不自由でも、床に置いたキーボードを足で操作してパソコン教室の講師になっています。

日本はまだ多くの人の力を眠らせています。こんなにもったいないことはありません。意識も法律も変わる必要があるのです。

文/内田美代子(編集部)

PROFILE たけなか・なみ
1948年、神戸市生まれ。重症心身障害児の長女を授かったことから、独学で障害児医療、福祉、教育を学ぶ。91年、草の根のグループとして「プロップ・ステーション」を発足、98年、厚生大臣認可の社会福祉法人格を取得、理事長に。著書に『プロップ・ステーションの挑戦』(筑摩書房)、『ラッキーウーマン』(飛鳥新社)などがある。

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