読売新聞 2006年3月14日より転載

メモランダム

障害者の就労 走る女性2人

計測・制御機器メーカー「横河電機」(本社・東京都武蔵野市)の人財開発部で働く箕輪優子さん(38歳)は、4月から、同社を休職し、厚生労働省の職員になる予定だ。

箕輪さんは、障害者雇用のエキスパート。1999年には、障害者を専門に雇う子会社「横河ファウンドリー」の設立にかかわり取締役に就任。横河電機を障害者雇用の先進企業に押し上げた。その実績に注目した厚労省が、「企業の生きたノウハウを学び、政策に反映させたい」と声をかけた。

新しい職場は障害福祉課。民間企業の障害者雇用担当者を招くのは初めてという。

厚労省は、4月に施行される障害者自立支援法で、就労の機会拡大を目指す。授産施設を出て就職できる人は現在、全国で年間約2000人、授産施設利用者の約1%にすぎない。これを6年間で8000人に増やす計画だ。

実現には、福祉と雇用の連携が不可欠だが、箕輪さんは、両者の間に大きな隔たりを感じている。福祉施設の職員の中には、横河電機の業務内容さえ把握していなかったり、企業で役に立つ技術を教えていないのに、「雇ってもらえないか?」と打診してくる人もいる。「知的障害者にスキルアップは無理」と決めつける傾向も気になる。

「大切なのは、一人の社員として受けとめること」。箕輪さんは厚労省で、この思いを伝えながら、福祉と雇用の橋渡しをするつもりだ。

一方、4月には、改正障害者雇用促進法も施行され、在宅就業が拡充される。通勤が難しい人へ、自宅や施設で出来る仕事を企業が発注しやすいように、報奨金などを支給される。企業からの発注をとりまとめ、それぞれの仕事をこなすのに最適な人へ紹介する支援団体も作られる。

この政策を厚労省に強力に訴えたのも民間人だった。社会福祉法人「プロップ・ステーション」(神戸市)の竹中ナミ理事長(57歳)だ。同法人は、障害者を「チャレンジド」(挑戦する人)と呼び、高度なパソコン操作技術を教えている。

竹中さんは、「自宅で介護を受けながらでも働くことができれば、チャレンジドは"支えられる側"から"支える側"に回れる」と主張し続けてきた。

障害者の就労支援では、ほかにも多くの民間人が厚労省に協力している。その成果が少しでも多く表れるよう、期待したい。

(安田武晴)

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