山陽新聞 2006年2月10日より転載

社会福祉法人「プロップ」(神戸)竹中理事長 岡山で講演

障害者就労ITで支援

デザインやデータ管理「できる部分」に着目

IT(情報技術)の活用で障害者の自立と就労を支援している神戸市の社会福祉法人「プロップ・ステーション」理事長の竹中ナミさんの講演会が先月下旬、岡山市中山下の県男女共同参画推進センターで開かれた。「できない」面ばかり見られがちな障害者観を変える先駆的な取り組みに約70人が聞き入った。

(阿部光希)

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障害者への積極的な就労支援を訴えた竹中さん

竹中さんは、障害者を「チャレンジド」と呼ぶ。「神から挑戦すべきことを与えられた人々」という意味で、米国で障害者を指す新しい言葉だ。竹中さんは障害者向けにパソコンセミナーを開催する一方で、企業から労務管理システムやグラフィックデザインなどの仕事を数多く受注。「チャレンジドを納税者に」と呼びかけ、注目されている。

同ステーションが設立されたのは15年前。パソコンが一般家庭に出回っていなかった時代に、竹中さんが活動を始めたのは、ある青年との出会いが大きかったという。

彼は高校時代、将来を嘱望されたラグビー選手だったが、練習中の事故で首の骨を折る大けが。左手の指先がわずかに動くだけという重度の身体障害を負い、食事、着替え、排せつなど生活のすべてに介護が必要となった。一時は絶望したが、自分に考える力が残されていることに気づき、周囲の支えで大学院まで進んでコンピューターを勉強。家業のマンション経営を継ぎ、顧客のデータベース作成・管理や清掃業務の発注などをこなしている。

「立派な青年実業家、と感心しながら『あれっ』と思った。彼はかっこいいけど、介護が必要な気の毒な身体障害者。でもかっこいい…。何でこんなことになるのか」と竹中さん。それまで障害者に対しては、マイナス面ばかりを見てきた。そのことが障害者の可能性にふたをしてきたのではないか、と気付いたという。

プラス面に着目する中で、「チャレンジドにとり、人類が火を発見したのと同じくらい革命的な出合い」と言われるツール、コンピューターの可能性や将来性を理解した。コンピューターは、通勤が難しい人の在宅就労を可能にし、絵筆を握れない人に絵を描く楽しみを与えていた。

竹中さん自身、重度の心身障害のある娘がいる。娘が生まれた時、竹中さんの父親は「この子を連れて死ぬ」と言ったという。障害のある子を持ったわが娘が大変な苦労を味わうのが耐えられないという理由からだ。

「まず『かわいそう』『気の毒』と考える福祉観が日本では強い。全くの善意から来る感情だが、それが障害のある人のいろんな機会、チャンスを奪っているのではないか」と竹中さんは言う。

「娘と父親を死なせない」と誓った竹中さん。障害のある子がいても安心して暮らせ、そして親が子を残して先に死ねる社会にしたいという。

実は、竹中さん自身はコンピューターについてあまり知らない。「私は口と心臓の強さを武器にいろんなところに出掛けていって交渉するのが役割。でも多くのチャレンジドはあまり社会生活を経験していないから、そういうのは苦手。それぞれが得意分野を持ち合って支え合えばいい」

プロップ・ステーションのプロップには「支える」という意味がある。 「支える側と支えられる側という従前の社会のバランスは崩れている。プロップの方法が正しいとは言わないが、チャレンジドが社会に貢献できる選択肢があってもいい」と訴えた。

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