毎日新聞 2005年9月18日より転載

はてなの玉手箱

ご存じでしたか「障がい者」表記

いつも何気なく使っている漢字が、ひらがなになっていたり、別の字に当てられていたら「どうして?」と思うだろう。私も最初に「障がい者」という表記を見たときには「害」の字が読めない人が多いからと思った。最近、「障害者」の「害」の表記は、負のイメージがあるとして、ひらがなの「がい」に改める動きが広がっているという。変更の背景や、そもそもの言葉の成り立ちを探ってみた。【有田浩子、写真も】

「害」は負のイメージ


「障がい者」に表記を変えた役所の係名―埼玉県新座市役所で

毎日新聞の調べでは、全国でこれまで30県市町以上、うち北海道内では10市町以上が、ひらがなに改めていた。ここ2、3年、その動きは顕著で、国の障害者基本計画策定(03〜12年度)に伴って自治体で計画を立てる際、変更するケースが多い。「害」の字は「公害」「害悪」など良くないイメージがあるというのが主な理由だ。

埼玉県新座市では今年4月から条例改正して、固有名詞や国の法令などを除き「害」をひらがな表記にした。市役所に来ていた主婦(33歳)は「(表記変更は)気づきませんでした。障害を持つ当事者のことを考えて変えたんでしょうからいいんじゃないですか」と話す。

福島県は障害者計画策定の際、当事者団体に意見を聞いた。「どちらともいえない」が5割、「変えたほうがいい」は4割だったが、「1人でも差別感や不快な思いがあるなら」と変更した。

変更した自治体も、PRなどの特別な計算計上はほとんどしておらず、広報やパンフレットなど市民が目にするものを中心に変えているようだ。ベストな表記ではないが「過渡期」(札幌市)「市民に考えてもらうきっかけになれば」(奈良市)ということが多い。

意識まで変える流れ

当事者はどう見るか。71団体が加盟する日本障害者協議会の勝又和夫代表(57歳)は、「不快に思う人がいるなら変えるべきだし積極的に啓発活動として取り組みたい」と話す。一方、「全国精神障害者家族連合会」や「全日本手をつなぐ育成会」では、「精神分裂病」を「総合失調症」に「精神薄弱」を「知的障害」に変更するなど取り組んできたが、「害」については正式に検討したことはないという。

静岡県立大学の石川准教授は「『障害者』がいい言葉ではないという点では一致している。自治体が、ひらがなに変えるというのは『害』に違和感があるということを伝えたいということで評価できる」と話す。

障害者を「チャレンジド(神から挑戦という課題を与えられた)」と表現する社会福祉法人プロップステーションの竹中ナミさん(55歳)は「言葉を変えると意識や社会のシステムも変わる。障害者の表記をひらがなに変える動きは意識が変わるプロセス」とみる。

地域で暮らす障害者の増加は確実に、私たちの意識を変えてきており、それが表記の変更に結びついているように思える。最終的には「障がい者」でも「障碍者」でもなく、ひとくくりの呼び方はなくなるような気がしている。

本来は…… 障碍者

法律名には使えず読み同じ「害」あてる

埼玉県立大学の丸山一郎教授によると、「障害者」という表記は、1949年の「身体障害者福祉法」の制定を機に一般的に使われるようになった。

その前から使われていた「障碍(しょうがい)」の「碍」が、当用漢字の制限を受けて使用できないため、同じの音読みの「害」があてられたが「誤用だったのではないか」と丸山教授は指摘する。「碍」の本字は「石へん」に「疑う」で、大きな岩を前に人が思案し悩んでいる様子を示したもの。「さまたげ」などの意味を持つ「障」と同じ意味の「碍」を重ねたものだった。

ページの先頭へ戻る