ガバナンス 2002年9月号(2002年9月1日発売) より転載

【現代を射ぬくコラム チャレンジドが「福祉」を変える!】(10)

固いドアは叩くだけでは開かない

プロップ・ステーション理事長 竹中ナミ

「四つ葉のクローバーは幸せのシンボル」ってみんな知ってますよね。一所懸命探して、見つかったらしおりにする習慣は世界的なものだそうです。でも、本来、四つ葉のクローバーは、クローバーの世界では突然変異で、ある意味で「奇形」でもあるわけです。

「幸せのシンボル」と決めたのは、人間の想像力です。めったに見つからない愛らしい4枚の葉を見つければ、幸せになれると考えてそう決めたのは人間なんですね。

チャレンジドの問題も同じです。重度障害の娘を見て「たいへんですね、かわいそうですね」と、私は周囲からできないことやマイナスばかりを同情されてきました。でも、私は彼女を授かってから、誰と会っても自然とその人の長所が見えるようになったんです。「この人はあれもできるし、これもできる」。いいところばかりが目に入るようになりました。このことは、人の長所を結びつけてコーディネイトする今の仕事ができるようになった大きな理由でもあります。簿記もパソコンも英語も苦手な私が、「社会は変わる」と信じて口と心臓と愛嬌(笑)だけで突進できたのは、娘のおかげといっていいのです。

2002年6月から、新しい「障害者基本計画に関する懇談会」が、内閣官房長官の諮問機関として設置されました。今年は、戦後間もなくできた障害者基本法の見直しの年に当たるのですが、懇談会はこれからの障害者政策をどうしていくのかについて検討していくための組織です。私もその委員のひとりに加わりました。

懇談会はすでに2回開催されましたが、そこで福祉団体、障害者団体の方から出されるのは、意見というより国に対して「〜してもらいたい」という要望がほとんどなんです。それだけ実情が切実なのは私にもよくわかっています。でも、私も意見を求められたので、「チャレンジドたちにいかに誇りを取り戻してもらうかが、私たちプロップ・ステーションの大きな目標ですし、この懇談会も是非、そうした方向性を取り入れたものにしていただきたいと思います」と話しました。今後の会合では、「マイナス」と見られてきたことを「プラス」にしているプロップの活動の具体的な事例を紹介していくつもりです。ユニバーサル社会実現の与党の女性議員政策提言協議会の活動もサポートしていますから、そうした視点も入れていきたいと考えているんです。

固く閉ざされたドアって、私たちが外からどんなに強く叩き続けたって開かないですよね。最後はバールで壊してしまわなあかんようになります。でも、なかからそっと閂(かんぬき)を抜いてくれる人がいれば、ドアはスムーズに開くんです。

いまは時代の変わり目です。古い制度が実態に合わなくなり、新しい仕組みをつくろうとする人たちが確実に増えてきました。政治家、学者、ジャーナリスト。省庁や自治体の役人さんたちもそうです。これまでどおりやっていたら無難なんでしょうけど、どうしたら慣習を打ち破っていい制度に変えられるかと、皆さん一所懸命です。こうした人たちと話をしていると、「ああ社会は変わっていくんやなぁ」とナミねぇはとても嬉しくなってくるのです。

たけなか・なみ
1948年、神戸市生まれ。娘が障害をもって生まれたことをきっかけに、以後30年にわたっておもちゃライブラリ運営、肢体不自由者の介護をはじめ、各種のボランティア活動に携わる。91年、コンピュータとインターネットを利用したチャレンジド(障害者)の自立と就労を支援するNPO「プロップ・ステーション」を立ち上げ、99年、社会福祉法人格を取得、理事長に就任。その活動には行政をはじめ経済界、研究者の間でも支援の輪が広がっている。著書に『プロップ・ステーションの挑戦−「チャレンジド」が社会を変える』(筑摩書房)。
社会福祉法人 プロップ・ステーション
TEL 078−845−2263   E-mail nami@prop.or.jp   HP http://www.prop.or.jp

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