日本経済新聞 2002年8月12日 より転載

【甦れニッポン人】

「できること」を後押し。障害を持つ人を「誇り高い納税者に」

竹中ナミ氏(53歳 ) プロップステーション理事長

障害を持つ人が誇り高い納税者になれるように──。そんな目標を掲げたボランティア組織を運営している。目標達成のための武器はコンピューター。神戸などでコンピューターを使う仕事を身に付ける技能訓練セミナーを開いてきた。

過去一年だけでも、ここで学んだ約百人がソフト開発やコンピューターグラフィックスなどで仕事を見つけて活躍中。講師の多くは卒業生だ。「仕事が見つかると、皆の目の光り方や表情ががらっと変わるんです。自分を認めてもらって受け取ったお力ネの重みは障害者年金とは全く違う」

一人前の仕事人を目指すので訓練は厳しい。生半可な気分で来る人はお断り。ボランティアも「かわいそうな人に何かしてあげるという人はいらない。コンピューター好きな人でいい」。

福祉の世界に入るきっかけは生まれながらに重度の障害を持つ長女を授かったこと。ボランティア活動に参加するうちに、障害を持つ人のできないところしか見ず、弱者として保護、隔離しようとする福祉のあり方に疑問を持つようになった。要求や交渉だけの福祉活動にも違和感を覚えた。

もどかしさの中でたどりついたのが「できること」にもっと目を向ける活動。一人ひとりの状況に合わせて自立を支援することだ。まるで縁のなかったコンピューターに狙いを定めたのも、体の不自由な人の多くが自立の手段として注目していることを知ったからだ。「できない」ことを象徴する障害者という言葉は使わず、挑戦すべき課題を与えられた人という意味で「チャレンジド」と呼ぶ。

活動に賛同した企業の支援も増え、政府の会合にも度々呼ばれる。だが「仕組みや考え方を本当に変えるには十年かかる」。「苦労よりも、何でもおもろいと感じてしまう」関西人魂で、長期戦に立ち向かう。

文 実哲也 写真 鈴木健

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