自由民主 2002年6月4日 より転載
【2002元気人シリーズ 私がんばる「元気人」です】
障害をもつ人を納税者に
社会福祉法人プロップ・ステーション理事長 竹中ナミさん(神戸市)
情報技術(IT)を活用してチャレンジド(障害を持つ人)の就労を支援する社会福祉法人「プロップ・ステーション」(略称プロップ)。理事長の竹中ナミさんは「チャレンジドを納税者にできる日本」をスローガンに、産・官・政・学・民のネットワークづくりに奔走している。
パソコンとネット活用し誇りある自立を支援
「チャレンジドや高齢者が元気と誇りを持って働ける国に」と語る“ナミねぇ”こと竹中ナミ理事長
5月12日、神戸市の六甲アイランドの神戸ファッションマートで開かれたシンポジウムでは、コーディネーターを務めた
「チャレンジドを納税者にできる日本」。一見すると過激な表現であるが、ここには竹中さんの30年に及ぶ福祉活動の体験が凝縮されている。重度の心身障害を持つ長女を授かったことから、日々の療育の傍ら障害児医療、福祉、教育について独学。さまざまなボランティア活動を続ける中で、既存の福祉観に疑問を抱くようになったと言う。
「障害を持つ方々が実はいろいろ可能性を持っているにもかかわらず、今の日本の福祉のシステムの中では『気の毒な人』『何かしてあげなければいけない人』という位置づけです。だから、隔離し、保護をする。それは、ちょっと違うんやないかと思ったわけです」。
チャレンジド(challenged)とは「障害者」に代わる新しい米国の言葉で、「神から挑戦すべき課題や使命、あるいはチャンスを与えられた人」という意味を持つ。障害をマイナスとのみとらえるのではなく、障害を持つゆえのさまざまな体験を自分自身のため、あるいは社会のため、ポジティブに生かしていこう、という思いが込められている。
「チャレンジドたちの眠っている能力を生かして、誇りを取り戻す。できることなら、働いて納税をすることができないか」。そのためにITを使ってチャレンジドの能力を高めるセミナーを開催し、自立と就業の支援をするというのがプロップの仕事である。「チャレンジドを納税者に」というスローガンの真意は、社会を支える側に回ることで、人間としての誇りである自立を目指すことにある。
「パソコン通信が世の中に登場した時、これはすごい道具やなと思ったんです。障害がある人、外出困難な人たちが自宅に居ながらにして対等な意見交換ができる。コミュニケーションのバリアフリーです。これを利用して社会につながったり、仕事ができるんやないかって」。
現在、兵庫県小野市にある国立療養所青野ヶ原病院の重症棟に入院している長女は、生後3ヵ月の健康診断で「脳に障害がある」と診断された。「この子を連れて死んでやる」と言う実父、「家の中のことは女に責任がある」と思い込んでいる夫。「泣き言は言うまい」と決めた竹中さんに、すべてが覆いかぶさった。
「何も表現しない娘に私がしてやれること」を学ぼうと、障害者運動、施設でのボランティアを始めるようになり、十数年の歳月が過ぎた。「お前らが動いたって世の中変わらへん」と言った夫とは離婚した。
平成3年5月にプロップを立ち上げ、草の根で活動を展開してきたが、平成11年9月、第二種社会福祉法人として厚生大臣認可を取得。「ナミねぇ」と慕われる人柄と持ち前の度胸の良さ、自らを“つなぎのメリケン粉”と言う明るい関西のノリで賛同者、支援者の輪を広げてきた。
神戸市の六甲アイランドにあるプロップの事務所では、毎週木曜日と土曜日に、大阪では火曜日と水曜日にパソコン教室が開かれる。これまで1,000人が受講し、100人が各地で家族の介護を受けながら在宅ワークに励んでいる。
企業や行政から彼らの仕事を受注し、在宅でそれが行えるようコーディネートするのがプロップの役割。まだまだ少ない量ではあるものの、「障害を持つ人々が支えてもらうだけでなく、自分でも何かできると考え始めたこと自体に意味がある」。
日々の活動のほかに、内閣府、総務省、財務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省などの審議会、研究会にかかわってきている。今年から神戸市と共同で「世界一ユニバーサルな街づくり」に取り組むことになり、先月12日にはシンポジウムを開催、野田聖子衆院議員もパネリストとして参加した。
女性や高齢者など、働くということに対してハンディを持った人はたくさんいる。1人でも多くの人たちが自分の身の丈に合った働き方で社会を支えていく、そんな社会構造に変えていきたいと言う。
「ケアの必要な時には適切なケアを、働く意欲のある時には就労のチャンスが得られる、という柔軟な社会システムを生み出すことこそが、日本のすべての人の課題ではないかと思います。年を取ったらみんなチャレンジドやから」。
プロップを“実験プラント”として、民間非営利団体(NPO)としての成功事例を生み出して、社会システムを変えていく原動力にしたい、という“ナミねぇ”の挑戦からも目が離せない。