ガバナンス 2002年3月号(2002年3月1日発売) より転載
【現代を射ぬくコラム チャレンジドが「福祉」を変える!】(4)
「福祉」と「労働」をひとつに
プロップ・ステーション理事長 竹中ナミ
プロップが活動を始めたことは、「障害者雇用」の分野は民間の私たちに手の届く世界ではありませんでした。当時の省庁のカベは厚く、労働省の専管事項である障害者雇用は、職業安定所を通じてしか認めてもらえなかったのです。さらにいえば、在宅の重度障害者に関する事項は正確には労働省ではなく厚生省の管轄であって、役所には重度チャレンジドの就労という発想はなかったのでした。
私は、思い切って労働省障害者対策課長の坂本由紀子さん(現東京労働局長)に手紙を書くことにしました92年のことです。「私たちの活動のことをお話ししたいので、一度会っていただけませんか」。坂本さんは忙しい身なのに「どうぞいらして下さい」と快諾してくれました。私は電動車椅子でマンション管理の仕事をしているチャレンジドとともに霞ヶ関に出かけて行き、「障害を持った人たちがコンピュータを使って仕事をするためにこんなに努力しているんです」と長時間にわたって切々と訴えました。
坂本さんは「これからコンピュータの時代がきっと来ます。障害者の方たちの新しい働き方も出てきますね。制度も時代の変化に合わせて変えていかないといけませんが、私も影ながら応援します」と励ましていただきました。
坂本さんは、その後、女性政策課長、静岡県副知事を経て、労働省に戻られて審議官を務めた方です。プロップのフォーラムにもしばしばパネラーとして参加するなど、さまざまなかたちで協力いただいているのですが、心許せる友達として私個人にとってもいい出会いになったのでした。
その後、坂本さんの後輩(障害者対策課長)にあたる村木厚子さんは、「重度障害者の在宅雇用・就労を支援するシステム研究会」を日本障害者雇用促進協会内に立ち上げ、私も委員のひとりとして参加しました。これは、それまで労働省の障害者就労対策が、企業に法定雇用率を達成させることを目的としている基本的なその考え方を、「雇用」から「雇用・就労」に転換させるための画期的な研究会でした。働き方をアルバイトでもSOHOでもいいと柔軟に位置付け、就労による社会参加の機会を増やして、チャレンジドが「保護」の対象から「社会に貢献する」側に回れる制度を作ることを目的としたのです。これまでの縦割りの役所の論理から思い切って飛び出す村木さんの発想力と決断力に、私は心から拍手を送りました。
その後、研究会は3年間の議論を経た一昨年、チャレンジドの多様な働き方を広げるには、技術習得から就労機会のコーディネートまでの一貫した支援機関が必要、という答申を提出しました。この2月18日、与党の「女性議員政策提言協議会」(会長・森山真弓法相)のなかに、「ユニバーサル社会の形成促進プロジェクト〜チャレンジドを納税者にできる日本」が設置されるなど、新しい動きも出てきています。
折しも、2001年1月、中央省庁再編によって労働省と厚生省がひとつの役所になりました。寄せ集めの役所ではなく、「福祉」と「労働」がこれまでの垣根を越えて結びつくいいきっかけになってほしい、と願うのは、すべてのチャレンジドの思いだといっていいのです。
- たけなか・なみ
- 1948年、神戸市生まれ。娘が障害をもって生まれたことをきっかけに、以後30年にわたっておもちゃライブラリ運営、肢体不自由者の介護をはじめ、各種のボランティア活動に携わる。91年、コンピュータとインターネットを利用したチャレンジド(障害者)の自立と就労を支援するNPO「プロップ・ステーション」を立ち上げ、99年、社会福祉法人格を取得、理事長に就任。その活動には行政をはじめ経済界、研究者の間でも支援の輪が広がっている。著書に『プロップ・ステーションの挑戦−「チャレンジド」が社会を変える』(筑摩書房)。
- 社会福祉法人 プロップ・ステーション
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