WEDGE 2001年8月号 (2001年7月25日発売) より転載

【読・書・漫・遊】(27)

挑戦の無限の連鎖

人それぞれ日本の読み方はあるだろう。
必要に迫られる読書、楽しく心に潤いを与えてくれる読書……
企業人にとっての読書の存在とは。

今月の選者 藤沢義之 日本興業銀行・会長

『プロップ・ステーションの挑戦』(竹中ナミ著、筑摩書房)

『プロップステーションの挑戦』は、パソコンと通信ネットワークを活用して、障害者が仕事を得られるよう支援しているNPO(非営利団体)の活動物語である。この活動の創始者は、竹中ナミ、通称「ナミねぇ」。重症心身障害者の母であり、施設で介護されている娘の麻紀さんが、税金で国から多大な援助を受けていると知ったのが、活動開始のきっかけ。障害者も国の世話になるのが当たり前という考えはいけない。保護という名で隔離されているようなものだ。少しでも働いて税金を払える障害者になることが、国のためにまた障害者の生き甲斐にも繋がる。

パソコンと通信ネットワークを活用しつつ、障害者の一流デザインや事務技能を企業に使ってもらう、それを支援し仲介する組織として「プロップ・ステーション」(障害者を支えて乗り換えさせる駅の意)が生まれた。多くの意欲的な障害者や善意と理解にあふれた協力者の実例を挙げながら、いかに今日まで至ったか、気負いもてらいもなく、大阪弁の率直さで、一気に書き上げたであろう語り口。読んでいて気持ちがよい。私の従兄弟も重症心身障害者だ。叔父、叔母が「重症心身障害者を守る会」を日本ではじめて創設し、世間の冷たい目の中で、国としての対応を求めどれほど苦労したか、垣間見ているだけに、この新しい展開には勇気づけられる。

また「障害者」とは英語で「チャレンジド」(挑戦するの意)と言うようになったと紹介しているが、「それは何も障害者の話でなく、人間みな同じだよねえ」と言って「ナミねえ」と握手したことを思い出す。

(記事より一部抜粋)

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