東京新聞 2001年1月8日より転載

【希望のメッセージ 心を結ぶ】(5)

挑戦 「身の丈」で社会を支える側に

社会福祉法人『プロップ・ステーション』理事長 神戸市竹中ナミさん(52)


「チャレンジドを納税者にできる日本」をスローガンにする竹中さん =神戸市の「プロップ・ステーション」事務局にで(圷真一撮影)

私たちのスローガンは「チャレンジドを納税者にできる日本」。チャレンジドは障害者を指す最近の米国の言葉で、「神から挑戦すべき課題を与えられた人々」という意味です。

「障害者を納税者にするなんてえげつない」と言う人もいますが、誤解を覚悟で刺激的な言葉を選びました。「納税者」には「チャレンジドも社会を支える側に回ろう。仕事を通じて生きがいと誇りを得よう」という意味をこめています。

これまでの日本では,健常者の若年、壮年層が働き、社会全体を支えることを義務付けられてきました。でもそんな考え方では、新世紀は乗り切れないんと違いますか。みんなが自分の身の丈にあった形で社会を支える側に立てばいい。

「プロップ・ステーション」は一九九二年、障害者の自立と就労促進を目指して「コンピュータ・セミナー」を開始。受講者は五百人を超え、そのうち約五十人が企業のシステム開発やホームページ制作などの仕事請け負い、さらに十人が企業に在宅就労している。プロップとは英語で「支え合う」の意。

「IT(情報技術)革命」なんて言葉が出回るずっと以前、パソコンの値段が会社員の給与の何ヶ月分もした九一年のことです。全国の重度のチャレンジドを対象に就労に関するアンケートを実施したら、「コンピュータを使った仕事に就きたい」という回答が多数寄せられた。「パソコンが武器になる」と思ったのはこのときです。

使える人の少ないパソコンなら、チャレンジドもハンディを気にせず、健常者と同じ出発点に立てる。それにセミナーを始めて分かったのですが、チャレンジドは習熟が早い。それはみんな、「パソコンで自分を表現したい、働きたい」という強い目的意識を持っているから。

九六年に受講した絵描き志望の脳性マヒの男性は、両足と左手が動かず、唯一動く右手もすぐに緊張が走って、真っすぐな線が引けなかった。それがパソコンを使うことで、思い通りの絵がかけるようになった。彼が詩に書いた「精神が肉他の檻(おり)からはみ出そうとしている」という言葉が忘れられません。

これまで二十歳になった重度の障害者は、障害者年金を支給されて「あんたら働かんでええよ」と一般社会の外に置かれてきた。障害者にとっての壁は、本人の側でなく、社会の側にあったんです。本当の福祉は障害者に「弱者」のレッテルを貼るのではなく、すべての人々に平等のチャンスを与えることだと思う。

ニックネームは「ナミねえ」。長女の麻紀さん(28)が、生まれたときから生活のすべてに介護が必要な「重症心身障害」だったことから、二十年以上に渡って肢体不自由の介護など、各種のボランティア活動にかかわってきた。本人は自分のことを「中卒でバツイチで障害児の母ちゃんでこんな体重でこんな年した五十苦の女」と言って笑う。

麻紀が生まれたとき、私の父から「おまえが苦労するのを見るのは忍びない。ワシがこの子を連れて死んだる」と言われた。父が本当にそうしかねないと思った私は、あちことの医療機関や障害児施設を訪ね回った。そこで得た結論は、私と娘が楽しく生きるには、今の社会を変えていくしかない、ということ。

私と同じ夢を見ようと、プロップ・ステーションにはコンピュータ技術者ら、さまざまな仕事のプロフェッショナルたちがボランティアとして集まってくれています。

実をいうと私自身は今でもパソコンが苦手。自分の役目を、人と人を結ぶ「つなぎのメリケン粉」と思っています。

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