ASAhIパソコン 2000年5月15日号 (2000年4月29日発売)より転載

【ハンディキャップ】

障害児の情報教育を障害者が支援

盲学校や聾学校など障害児が通う学校での情報教育推進を、社会に出た障害者が支援す る。そんな全国でも初の試みに大阪府が乗り出した。

大阪府から委託を受けて実際に事業を進めるのは、障害者向けのパソコンセミナーと就 労支援で実績を上げている社会福祉法人のプロップ・ステーション。プロップで情報技術 を身につけた障害者が、ボランティアではなく報酬を得る仕事として、障害児の情報教育 に貢献する。

具体的な仕事はこの1月、「まずは現状の把握から」と、大阪府下の盲学校、聾学校、 肢体不自由・知的障害・病弱の各養護学校の計40校を対象とする実態調査から始まった。

調査担当の中内幸治さん(42歳)は、ソフトハウスで37歳まで働いていた技術者だが、 筋ジストロフィーが進行して退職。その後、在宅就労の道を求めプロップに参加した。プ ロップ理事長の竹中ナミさん(51歳)とともに一校ずつ訪問し、機器や教材などの整備状 況、先生と生徒の活用ぶりなどを聞いている。

これまでの訪問調査で見えてきたことを、竹中さんは2つ挙げた。

一つは、学校の予算では十分な環境整備ができていないなかで、パソコンに詳しい一部 の先生が自分のマシンやソフトを持ち込んだり、教員同士でお金を出し合ってLANを構 築したり、涙ぐましい努力をしていること。もう一つは、それでも障害を持った児童生徒 のために使える機器や教材、指導法などについての情報は不足していることだ。

そこで調査と並行して、不足している情報をウエブから収集する作業を開始した。プロ ップの在宅オンライン翻訳セミナーを修了した戸川秀樹さん(46歳、事故で両下腿切断) と武者圭さん(34歳、全盲)ら8人の障害者が、海外の先進的な情報を集めて翻訳。これ に国内のウエブを検索した結果を加えて、早ければ5月の連休明けに、まとまった情報を 先生たちに提供する予定だ。

プロップでは、今後は先生とのコミュニケーションをさらに密にして、必要に応じて教 材開発やモデル授業の実施、生徒や保護者へのアドバイスといった支援にも取り組む。プ ロップにサーバーを置いて学校同士のネットワークを作り、プロップと先生たちを結ぶメ ーリングリストも開設する。前述の実態調査の結果も、このネット上で報告する予定だ。

プロップで情報技術を習得した障害者には、中内さんらのプログラミング系グループと、 「バーチャル工房」というグラフィック系グループがある。いずれのグループも、企業や 自治体から仕事を受けて実績を重ねる一方、初心者に教える経験も積み重ねている。後者 はこの3月、初心者向けホームページ作成のハウツーと自分たちの描いたフリー画像など を収録したCD-ROM『おもいおもいのeレタ−』(2000円)も発売した。

今回の委託事業では、こうした経験やノウハウを、障害児のために生かすことになる。 プロップ理事長の竹中ナミさんは、こう期待を語る。
「これからはチャレンジド(障害者を意味する米語)も生涯学習の時代です。勉強は学 校で終わりではなく、生きていく限り勉強して成長していくということ。いろんな年齢か らパソコンを始めたプロップのチャレンジドは、生涯学習のお手本のような人たちなので、 彼らを通してそういうことも伝えていけたらいい」

今回の事業に将来性を感じて、プロップにハードやソフトを寄付する企業も出てきてい る。NPOのコーディネートで、障害児の情報教育に障害者や企業の力を注入するこの試 みが、よき先行事例となることを期待したい。

(中和正彦)

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