朝日新聞 2000年(平成12年)3月7日(火曜日) より転載

パソコン環境改善します

障害ある失職技術者請け負う NPO「プロップ・ステーション」 養護学校に派遣

古いパソコンに悪戦苦闘している養護学校でコンピューターを取り巻く環境を改善しようと、失職中の障害者たちが取り組んでいる。府教委がプロジェクトを進めており、事業を委託された、障害者の雇用促進に取り組む民間非営利団体(NPO)「プロップ・ステーション」(北区と神戸市東灘区)の竹中ナミ理事長(51)は「人や企業、行政を柔軟に結ぶ、というNPOならではの特性を発揮したい」とやる気満々だ。

古い機種多く悪戦苦闘
府教委、雇用特別交付金を活用

障害が原因で職を失った2人の技術者が事業の中心になっている。中内幸治さん(42)は、筋ジストロフィーが進行し、車いす生活になり、システムエンジニアとして勤めていた会社を辞めた。菊田能成さん(34)は、てんかんの発生がたまたま職場で起きたためコンピューター関連会社をクビになった。

そんな2人が、今年初めから府立養護学校25校を回り、調査を始めた。ほとんどのパソコンは、公費購入品、寄贈品、企業からの借り物などの寄せ集めだった。各校では「機種が古いものばかりで、しかもバラバラのため、授業に使えない」「先生がコンピューターを使えない」などで悩んでいた。

府教委養護教育課も「授業での使い方を模索中。系統だった教育はできていない状態だ」と言う。実際に、コンピューターは「障害者の可能性を広げる武器」と言われながら、教材ソフトも十分に開発されていない。

プロップは1991年に設立された。障害者がコンピューター技術を修得して在宅勤務をするなど、働く場を拡大するのが目的だ。手が不自由でも、専用の装置を使えば、コンピューター・グラフィックスを駆使して絵を描くことができ、体を動かさずに世界中からインターネットで情報収集できるからだ。

挑戦する者の意味を込めた「チャレンジド(障害者)」を「納税者に」という呼びかけに、企業や技術者が共鳴し、機材提供やボランティアとしてセミナー講師という形で支えてくれている。

府教委の事業委託費は2002年3月までに3000万円余り。総額2000億円にのぼる政府の緊急地域雇用創出特別交付金が財源で、失業対策が目的のため、人件費以外には使えない。そんな条件が作用し、「面倒な制約にもNPOなら対応できる」(府教委養護教育課)としてプロップが委託先に選ばれたという。

事業の手始めは、Eメールで情報交換する「人間のネットワーク」づくり。技術的に悩む学校に対し、技術力がある他校の先生やプロップの技術者と障害者が相談に乗るという仕組みだ。問題点やアイデアを出し合う場さえできれば、「企業に協力要請がしやすくなり、開発コストを抑えながら、新しい教材開発ができる」と竹中さんは戦略を練っている。

試みは大きなインパクト 寺脇研・文部省政策課長の話
学校教育にNPOの力を導入することは、学校の閉鎖性をうち破る大きなきっかけとして注目している。それに、コンピューターで「障害というハンディを補う」となれば、「情報処理」だけでなく、理科や英語など一般の授業で「どう使うか」を課題とならざるをえない。この試みはコンピューターの使い方に大きなインパクトを与えると思う。

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