朝日新聞 1999年8月6日より転載

変革のサポーター NPO II部 その「かたち」(4)

自立のかぎは、資金と人材

株式会社をつくった非営利組織(NP0)がある。企業の寄付などをもとに、社会福祉法人になったNPOもある。資金や人材を確保して「自立」し、活動を継続させるためだ。


「大地を守る会」の青森ツアー。リンゴ畑の前で、上野さんらは生産者と語り合った=青森県平賀町唐竹で

運営基盤、事業が支え

東京を中心に首都圏で活動する「大地を守る会」の夏の恒例行事、産地交流会・青森ツアーは、ことしは1日から3日までだった。親子連れなど26人が参加した。

モミ殻のついた米に触れ、青リンゴ「なつみどり」をもぐ。青森ねぶた祭や十和田湖観光も楽しみ、有機農業に励む農家に宿泊──。企画したのは「守る会」の事務局員、上野綾子さん(23)。消費者と生産者がともに会員だ。

上野さんは有機作物を宅配する株式会社「大地」の社員でもある。同社は生産者や消費者が株主となって1977年にスタートした。

「守る会」は、有吉佐和子さんの『複合汚染』が話題を集めていた75年にできた。生産者と消費者を結んで有機栽培の作物を販売した。扱う量が増え、流通部門を法人化することになり、設立しやすく制約も少ない株式会社を選んだ。

「非営利」が本来の姿の市民団体が会社を経営する仕掛けは、会員が一株株主になることだった。会社は「守る会」の法人会員となり、社員は会の事務局員を兼ねた。

一橋大でタイの農村を研究し、ボランティアもしていた上野さんは、NPOや農業にかかわりのある会社への就職を希望した。だが新卒を採るところは少ない。会社訪問を繰り返していたころ、「大地」の存在を知った。初任給約20万円。ボーナスもある。株式会社だからと親も納得し、昨春、入社した。

社員は167人。彼らが事務局員として働けば、「守る会」は人件費を最小限にとどめられる。「大地」で農作物を買う消費者は、「守る会」の会員にもなる。消費者会員は約4万6千人。その会費や「大地」グループ各社の法人会費で「守る会」は収入のほぼ全額をまかなう。

行政の補助金はNPOにとって大きな財源だ。一方で補助を受けると、活動も制約されやすい。自立するには会費か事業収入、寄付などの確保の必要があるが、十分に集まらないのが現実だ。人件費抑制のため有給スタッフを減らすと、活動の幅が広がらないジレンマが生まれる。安定した収入をどう得るかが、NPOが育つポイントだ。

パソコンを使った障害者の自立を支える活動を、92年から続ける神戸市の「プロップ・ステーション」。これまで300人が受講して技術を磨き、40人がプログラマーなどとして育った。昨秋、資産1億円という条件を満たし、任意団体から社会福祉法人になった。

かつて収入の4割は行政の補助金だった。「行政や企業の仕事を受注し、その収入と企業・個人からの寄付・会費を中心に運営したい」。社会福祉法人を目指した理由だ。

社会福祉法人のような「公益法人」は活動や会計などに制約があるものの、法人税が優遇され、行政の補助や委託も受けやすい。さらに「特定公益増進法人」になれば、寄付する企業や個人への控除もある。社会福祉法人などは自動的になれるが、他の分野では所管の官庁の厳しい審査がある。NPO法人への税優遇を求める声は強いが、昨年成立したNPO法では導入が見送られた。

「プロップ」の資産が1億円になったのは、東京でコンピューターソフトの会社を経営する成毛真さん(43)と同社が5千万円ずつ寄付したからだ。

成毛さんは95年、「障害をもつ人を納税者にできる日本」という主張を雑誌で読み、共鳴して会員になり、会社も法人会員となった。今回のそれぞれの寄付は税金の控除対象になった。「NPOへの寄付は、社会貢献する分野を自分で選ぶこと。税金を払うより経済合理性に合う」と成毛さんは話す。

だが、不景気もあってほかの企業の反応は芳しくない。「プロップ」は「税金の代わりに寄付してもらえる活動かどうか様々な企業に示していきたい」という。

企業の社会貢献が日本に根付いたとはまだ言えない。だが、90年代に入ると貢献のためのセクションを置く企業が増え、「企業市民」の考え方も広まってきた。環境や介護などの分野では、ビジネスの観点でかかわる企業も増えている。

「大地」は、売上高が百億円を超えたが、競合する企業が増え、右肩上がりの成長は望めなくなった。消費者が他社に流れれば活動も先細りになる。「守る会」は6月の総会で、経営強化のため「二十一世紀に耐えうる組織」にと、「大地」グループ12社を5社に統合する再編計画を確認した。

歴史の中のNPO 「甘えのない」組織を

総合研究大学院大 出口正之教授

第二次大戦後も共同募金会に象徴されるように、行政に組み込まれた地縁組織を基盤にした上からの募金活動が展開された。公益=官の仕事という意識は戦後も変化しなかった。官がかかわれば安心だという「国家への甘え」もあったろう。一方、1970年代まで活動が高まりを見せた「市民団体」の一部は社会主義イデオロギーの影響を強く受け続けた。両者はまったく異なる存在でありながら、一方は現存の国家、他方は理想上の国家に強い期待と正当性を求めている点で共通する。

ところが、これらとは異なる草の根団体が誕生し、阪神・淡路大震災後のボランティア活動によって一気に知られるようになった。そのとき活躍したNPOは「行政に言われなくてもする。言われてもしない」と名言を残した。「行政に言われてもしない。言われてもする」といった団体もある。言い得て妙だ。国家との関係が絶対的ではない。行政に協力するわけでも、協力しないわけでもない。独自に判断し、行動する「甘えのない、大人のふるまい」がそこにある。

これらは、任意団体で法人格を持たずに制度の外で活動していた。昨年12月に施行された特定非営利活動促進法(NPO法)は、こうした団体に対しても法人格を与えようするものだ。NPO法はいわば弥縫(びほう)策といった面もある。しかし明治民法以来の伝統である「公益の国家独占」を覆そうとした立法の意義は大きい。「甘えのない、大人のふるまい」ができる社会を「シビルな社会」と呼べば、「シビルな社会」を実現させるための大きな試金石として考えたい。

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