読売新聞 1999年5月26日より転載

マルチメディア

ネットにバリアなし!

障害者在宅ワーカー続々

障害者がパソコンを利用、コンピューターソフトやグラフィックス(CG)の技術を習得、就労に役立ててもらう「プロップ・ステーション」(本部・神戸市)の運動が着々と成果を上げている。昨年秋には法人化を果たし、労働省の在宅勤務の支援実験にも参加。今後、バリアフリーの活動を高齢者にも拡大し、同市内に新設したネットワークセンターを基地に、インターネットによる通信講座などを進めていく。

(大和太郎)


障害者の自立へ向けたプロップのパソコン講習会(後ろは竹中代表)

「プロップ」支援成果 パソコンで通勤無用

「プロップ」は、自身も重度障害の長女を持つ竹中ナミさんが、障害者を単に保護対象とするのではなく、就労の機会を広げ、社会参加できるシステムの構築を目指して提案したもの。具体的手段として取り入れたのがパソコン。阪神大震災でインターネットが救援に活躍したことに着目、95年には福祉団体としてはネット活用の先駆けとしてホームページを開設した。

竹中さんは、障害者を「神の挑戦を受けた人」との積極的な意味を込めて「チャレンジド」と呼び、様々な活動を展開中だ。障害者と高齢者を対象にしたパソコン講座は、教室でのセミナーのほかインターネットによるオンライン教育も実施。また、面談やEメールなどで就労相談を受け付け、企業との橋渡し役も務める。

また、CG関係では、プロのデザイナーが1、2年かけて映像技術を教えるセミナーを開き、卒業生は「バーチャル工房」というプロのアーティスト集団を形成している。

このような活動を通じ、プロップで支援を受けた障害者はすでに300人以上に達した。CGアーティストやプログラマーなど在宅ワーカーとして自立を果たした人も多い。

マイクロソフト日本法人の社員で、同社ホームページの翻訳などを自宅で担当している森正さんもその一人。森さんは「障害者にはトイレや通勤も大きな負担になるが、在宅勤務で解消されるのは大きなメリット」と語る。

同社には森さんらプロップ「卒業生」が二人採用されている。プロップ理事に就任するなど活動に深くかかわっている成毛真・同社社長は「ネット上の仕事では障害の有無は問題にならない」と指摘する。

「バーチャル工房」も、すでに大企業から多くの受注をこなしている。作品レベルの高さはマルチメディア・ソフト会社マクロメディアの手嶋雅夫社長も「映像と音楽の合わせ方がうまい」と舌を巻くほどだ。

プロップの活動には行政も注目する。在宅勤務の支援実験参加を機に、パソコン100台の支給を受ける予定だ。法人化に伴い設立されたプロップ後援会の会長には、発足直後から見守ってきた金子郁容・慶大教授(慶応幼稚会長)が就任するなど支援の輪も広がっている。

プロップでは今後、高齢者支援も強化、自立を手助けする。竹中さんは「だれもが高齢者になるし、障害者になり得る。明日の超高齢化社会を前に、自立して支える側に立ちたい人に一層のチャンスを」と訴えている。プロップのホームページは、http /www.prop.or.jp/

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