日経Click 1999年5月号(1999年4月8日発行) より転載

才能は引き出さな、もったいない!

竹中ナミ(プロップ・ステーション理事長)

"チャレンジド"という言葉を知っているだろうか。「神から挑戦すべきことを与えられた人々」という意味で、アメリカでは障害を持つ人たちをこう呼んでいる。

「障害者は気の毒やから何かしてあげなあかん、というのが日本の福祉観。でも、障害を持つ人の中には、知力も行動力もあって働ける潜在力にあふれた人がいる。"保護"という隔離やなく、彼らの中に眠っている才能を引き出さなもったいない。それが本当の福祉やと思う」 パソコンを武器に、チャレンジドの自立と就労を支援する社会福祉法人「プロップ・ステーション」。チャレンジドと高齢者を対象にしたパソコンセミナーを開催し、その卒業生に仕事をコーディネートするボランティアグループだ。埋もれていた才能を発掘し、個々の能力に見合った仕事を調節していく様は、もうほとんど"チャレンジド界の吉本興業"と言っていい。

その代表を務めるのが、重度心身障害者の母でもある"ナミねえ"こと竹中ナミさん。コテコテの関西弁で語られる彼女の言葉には、強烈なインパクトと説得力がある。とにかくエネルギッシュな姉御だ。

「チャレンジドにとってパソコンは五感の延長線。もはや脳ミソの一部になっている。パソコンは自己表現の道具なんです」 筋力がほとんど先天性の難病を抱えた女性が、パソコンを使うことで初めて大好きな絵を自由自在に描いたり、重い自閉症の人がワープロを介した文字でならコミュニケーションできるようになるなど、眠っていた才能が開花していく瞬間に立ち会うのが一番の快感だ。

「彼らにとってパソコンは、人類が火を発見したのと同じぐらいの価値があるんやと思う。私がパソコンやったら、仕事でイヤイヤ使こてるオジサンよりも、自分の人生を広げる道具にしているチャレンジドに使われたいですわ」

PROFILE

たけなか・なみ  1948年神戸生まれ。娘が重度心身障害であったことをきっかけに、各種ボランティア活動に携わる。その活動はやがて来る高齢化社会を見通したものである。

昨年8月には、これまでの活動を綴った『プロップ・ステーションの挑戦』(筑摩書房)を出版した。

4月17・18日には神戸でシンポジウム「GATSUNNN!!」(ガツン!)を開催する。詳しくはホームページで(http://www.prop.or.jp)

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